9.冒険の終わり
「あれ見ろ!」
「ベン君とテラちゃんじゃないか!?」
「急いでお母さんに知らせろっ!」
「おーい! いたぞー! ベン君とテラちゃんだ! 見つかったぞっ!」
それらの声が伝染し、母親に伝えられます。
最初に見つけた大人が二人の様子を確認して、どうやら寝ているだけらしいとホッとしつつ、疑問も覚えます。
今いるこの場所は、森の入り口です。何度も何度も見たこの場所に、最初からいたのであれば気付いていたはずでした。ということは、どこかですれ違ったのでしょうか。
「これだけ大人が探していたのに、それに誰も気付かなかったのか?」
口から零れた疑問は、駆け寄ってくる母親の姿を見て、そのまま忘れられていったのでした。
*****
「ベン、テラ! 起きなさい! ベンっ!? テラ!!」
「……ん」
「……なぁに」
自分たちを呼ぶ声に、まだ眠いのに、と思いながら、ベンは目を開けます。同時に寝ぼけたテラの声も聞こえました。
ボーッとしながら、目に飛び込んできたのは、母親の姿です。しかし、なぜか泣きそうになっています。どうしたんだろう、と思ったら、母親に抱きしめられました。
「……良かった、本当に。良かった……」
「え、ど、どうしたの……?」
「おかあさん、なくの……?」
「どうしたのじゃないし、泣くのも当たり前でしょう! こんな夜遅くまで何をしていたのっ!? なぜ森にいるの!? こんなに心配かけて……」
怒った母親ですが、最後は泣いてしまって、声が出なくなってしまったようです。まぁまぁ、と近所に住んでいる大人たちに慰められている母親を見ながら、ベンはようやく思い出しました。
「ご、ごめんなさい……! あのね、僕がテラを連れ出したんだ! だから、悪いのは僕だから! ごめんなさい!」
「ちがうっ! テラもいきたいって言ったの! だから、ごめんなさい!」
口々に謝る二人に母親が少し困った顔をして、周囲の大人たちが笑いました。
「そうか、ちゃんと謝れて偉いぞ」
「いいじゃないか、無事だったんだ。なあお母さん」
「……そうですね」
母親は少しだけ笑って、そして周囲の大人たちに頭を下げました。
「一緒に探して下さって、ありがとうございました。本当に助かりました」
「気にするなって」
「そうそう。困ったときはお互い様ってな」
そして誰かの「じゃあ帰ろうか」の言葉に、バラバラと大人たちが帰り始めます。それを見て母親がもう一度頭を下げてから、子供たちを見ました。
「ベンもテラも、帰るわよ。まったくもう、ほんとうに」
許すは許すが、もう一度説教はしなければだめね、と思ったのですが、その子供たちは、キョロキョロしています。
「ねぇおかあさん、ドラくんは?」
「なんで暗いの? さっきまで明るかったのに」
「……?」
母親の不思議そうな顔に、ベンもテラも不安になります。一緒にいたドラークの姿はどこにも見えません。青空が広がって辺りの景色がよく見えるくらいに明るかったのに、今は真っ暗です。
「あなたたち以外に、誰もいなかったわよ? それに、暗くなってから大分経っているし。……大丈夫? 夢でも見た?」
もしずっとあの場所で寝ていたのなら、もっと早くに見つけられていたはずです。その疑問に母親も気付きます。
けれど、ベンとテラは納得できませんでした。だって、リンとジールに会ったのです。ドラークに乗って空を飛んだのです。間違いなく一緒にいたのです。
「……あっ」
そこまで考えて、ベンは気付きました。自分の右手が、何かをずっと握りしめていることを。ちょっと緊張しながら、その手を開いていきます。テラも、それを見て思い出して、同じように手を開きました。
そして。
「あった!」
「ゆめじゃない!」
そう。ベンの手には赤い石が、テラの手には青い石が握られていました。手と手をくっつけて、暗い中でも分かる赤い石と青い石に、二人は顔を見合わせます。そして、「えへへ」と嬉しそうに笑いました。
「どうしたの?」
「なんでもなーい!」
「テラとおにいちゃんのひみつー!」
母親の問いにベンもテラも元気に言ってから、走り出しました。
「おかあさん、早く帰ろうよー!」
「はやくはやくー!」
大きく手を振って母親を呼ぶベンとテラに、母親も「まったくもう」と言いながら、後を追います。
そんな様子を、森の上から三つの影が優しそうに見つめていました。
『無事、帰れたようじゃな』
『良かったわね』
『良かったじゃない。全く、精霊の世界にニンゲンを連れ込むな』
『しょうがないじゃない。放っておけなかったんだから』
そんな会話を交わし、もう一度だけ笑っているベンとテラを見て、そして三つの影は忽然と消えていたのでした。
*****
家に戻ったベンとテラは、あっという間に眠りにつきました。寝ている頭の上には、赤い石と青い石が並んで置かれています。
グッスリ寝ている子供たちの様子を見に来た母親も、それに気付きました。何も言わないけれど、どうやら"たからもの"を見つけたらしいことは、すぐに分かりました。
「もう危ないことはしちゃダメよ」
優しく頭をなでて、母親は静かに部屋を出て行きました。とても満足そうな子供たちの寝顔に、安心しながら。
これで終わりになります。
子ども向けの話って難しいですね。でも、楽しく書けました。
お読み頂き、ありがとうございました。