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8.空の旅

「うわぁっ!」

「すごーい!」

『良い眺めだろう』


 ベンもテラも、その景色に大はしゃぎです。


 空には青空が広がり、遠くには山が見えて、その手前には川が見えます。そして、眼下に広がる森の上には、虹のような七色の線が走っています。普通であればあり得ない光景ですが、ベンにもテラにも、そんなことは分かりません。


 ただ、子供たちの喜びように、ドラークはどこか誇らしげです。けれど、次の瞬間には、神妙な口調になりました。


『ニンゲンがこの光景を見ることは、ほとんどないからな』

「そうなの?」

「なんで?」


 純粋に不思議そうな子供たちに、ドラークはほんの僅かに笑みを浮かべただけです。代わりに上昇を止めて、水平に移動を始めました。


 ベンもテラもすぐ疑問を忘れて、周囲の光景に目を輝かせています。


 森の上を走る虹に沿うようにどこまでも飛びます。広く大きな川の上を、水に触れるギリギリのところを飛んで、顔にかかる水しぶきにベンもテラも「うわぁ!」と大喜びです。


 空を飛んでいると、小さい何か(・・)も飛んできて、併走するように一緒に飛びます。


「「ようせいさんだー!」」


 ベンとテラの声が揃いました。

 リンとジールは大きかったですが、小さいそれに後ろに羽が生えているそれは、確かに絵で見た「妖精」にそっくりだったのです。


『こやつらは妖精ではなく精霊だが……まあ良いか』


 精霊たちも嫌がっている様子はないので、ドラークも特に訂正せず、集まってくる精霊たちと一緒にしばし飛行を楽しみます。


 そうしながらも、目的の場所へドラークが近づくと、精霊たちは誰からともなく、その場を離れていきました。


「あ……」

「いっちゃった……」


 ベンとテラが寂しそうにつぶやきました。それを、少し申し訳なく思いながら、ドラークは子供たちに告げました。


『今から行く場所は、火の力が強い場所だからな。風の精霊どもがあまり近づくと危険だから、近づかないのだ』


 おそらく理解できないだろうな、と思いつつ、ドラークは降り立ちます。ずっと緑が豊かだった場所とは違い、その場所には緑はありません。

 むき出しの地面に、高くそびえ立つ山の頂上からは、火が出ているのが見えました。


『ここは元々、俺の住んでいた場所だ。さて、少し待っていろ』


 そう言うと、ベンとテラの周りを風が取り囲み、二人をドラークの上から降ろします。地面に足がついて興味津々に辺りを見回している二人を、優しいまなざしで見つめつつ、ドラークは鼻をクンクンさせます。


『ふむ。これで良いか』


 ドシンドシンと足音を立てつつ歩くと、前足の爪で地面を掘ります。するとそこから出てきたのは、小さな赤い石でした。


『さて、子どもたち、これをやろう』

「え、なにっ!?」


 あげると言われたからか、嬉しそうに駆け寄ってくるベンとテラです。そして、ベンの手の平に、その赤い石を載せました。


『火の石だ。触ると暖かいだろう?』

「うん」


 頷きつつも、ベンはよく分かっていないようなので、さらに分かりやすく説明することにしました。


『それは、火の魔法の力が宿っている石だ』

「そうなのっ!?」


 ベンが驚きの声をあげて、テラはジールのところでもらった青い石を出して、赤い石と見比べています。


『その青い石は水の石、赤い石は火の石だ。お前たちにやるから、大切にしろ』

「うん、分かった!」

「ありがと! えっと、ドラくん!」

『……ドラ君……まあいい……』


 テラのその呼び名に、何か言いたそうなドラークでしたが、結局はそのまま受け入れたのでした。


『さて』


 ドラークは子供たちを見つつ、小さく独りごちました。ドラークの耳には、この森の()の音が聞こえているのです。


『そろそろ疲れただろう。ゆっくり休め』

「え……あ、れ……」

「…………」


 ドラークの言葉に、なぜか瞼が重くなりました。なんでだろうと疑問に思いつつも、ベンは逆らうことができずに目を閉じました。テラは、疑問すら抱かずに眠ってしまっています。


 ――ベンー、テラー、どこなのー!?

 ――ベンくーん! テラちゃーん! いたら返事しろー!


 森の外で聞こえる声。たくさんの大人たちの声です。その声を聞きながら、ドラークは眠ってしまったベンとテラの体を、自らの腕の中に抱え込みました。


『元気でな。あまり親に心配をかけるなよ』


 眠っている子供たちに、その声は優しく語りかけました。


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