7.森の守り神 ドラーク
後書きに挿絵がありますので、苦手な方はご注意下さい。
「なにっ!?」
「じめんがゆれてるよー!?」
ベンとテラが慌てている中、リンとジールはのほほんと顔を見合わせています。
『やっぱり気付かれちゃったわね』
『何を言うか。最初からそのつもりであっただろうに』
『うふふ、まぁね』
そして、ドシンドシンという音がいよいよ近くなり、森の奥からニュッと顔を見せたのは、青緑色のウロコを持つ生き物でした。
「ワニさんだー!」
「いや、絶対ちがう……」
「じゃあ、かいじゅうさん!」
「……うん、それなら分かる」
姿を見せたそれは、確かに頭部だけ見ればワニっぽくも見えますが、続く胴体を見れば、とてもそうは見えません。怪獣と言われればベンも納得できます。とはいっても、テラにはどちらでもいいようで、トコトコ近づこうとします。
「――あ! ちょっとまって、テラ」
慌てたベンが止めようとしますが、それより先に怪獣と言われたそれが、不快げに口をあけました。
『ニンゲンよ、訂正しろ。俺はワニでも怪獣でもない! ドラゴンだっ!』
「え?」
「……ドラゴンさん?」
ベンとテラが何のことと言いたそうに首を傾げます。その様子に、ドラゴンと言ったその存在が再度口を開きかけますが……。
『最初に言うのが、そこなのね』
『仕方なかろうに。ヒトの世で言われているドラゴンとそなたの姿は、だいぶ違っておるのだから』
そう言ったのは、リンとジールでした。どこか、からかうような口調に、はっきりドラゴンに怒りが見えました。
『黙っておれ、精霊ども! 俺とて、昔はもっとドラゴンらしい姿であったのだっ! 大体、なぜここにニンゲンがおるのだっ!?』
『私が連れてきたからよ』
『その娘っこがケガしておったのだよ。それを治してやっただけじゃ』
ドラゴンの怒りもなんのその、のほほんという言葉が似合いそうな口調で、リンとジールは答えます。それにどう思ったのか、ドラゴンがまた何かを言いかけたところで、子供たちの話し声が聞こえました。
「ねぇねぇお兄ちゃん、あの人、ドラゴンさんじゃないよね?」
「うん、ドラゴンって、もっと怖いもん」
「そうだよね。こわい顔で火をはくんだもんね」
「やさしい顔をしてるよね」
『だ・か・ら! 俺はドラゴンだっ!』
「えーちがうよー」
「うん、ちがう」
子供たちにあっさり否定されて、ドラゴンは落ち込んで地面に突っ伏してしまいました。それをリンとジールが楽しそうに眺めていましたが、このままでは話が進まないと思ったのか、子供たちに話しかけました。
『ドラゴンっぽく見えないけど、一応ドラゴンなのよ? ちなみに、名前はドラーク』
『この森の守り神、といったところじゃな。大昔は悪さをしてもっと怖かったのだが、この森に住むようになってから、すっかり落ち着いてしまったのだよ』
ベンはふーんと頷き、テラは首を傾げました。
「むかしは、わるい子だったの?」
『そうじゃ。じゃが、心を入れ替えて、今は良い子になったんじゃ。じゃから、ドラゴンではあるが、優しいから安心せい』
ジールが、面白そうな顔をしているのは、テラの"悪い子"という表現が気に入ったからです。それを真似て"良い子"と言うと、テラもベンも納得した様子を見せますが、ドラゴン……ドラークはますます落ち込んでしまいました。
ベンもテラも、マジマジとドラークを見つめます。
ドラゴンといえば、魔王の味方をして勇者を苦しめた悪い人です。もちろん、それは物語の中の話ですが、小さい頃からそういう話をずっと読んできたので、「そういうもの」という認識なのです。
「つめは長いね」
「歯も、とんがってていたそう」
「でも、体はこんなに長くないよね」
「羽もないよ?」
「体も赤くないし」
「森とおんなじ色ー!」
「二本足で立ってたのに」
「火、ふくのかなぁ?」
ベンとテラ、交互に"知っている"ドラゴンとどこが同じで違うのか、見比べています。
のそりと起き上がったドラークは、すでに怒りはなく諦めたような様子です。そして、ほんの少し口を開くと、ボッという音がして、その口から小さな火の粉が飛び散りました。
「「火だー!」」
ベンとテラは、大喜びです。その様子に、少しドラークが嬉しそうにすると、側で見ていた精霊たちからツッコミが入りました。
『森の守り神なのに、火を吐くなんて』
『燃やしてしまったら、どうするつもりじゃ』
『だから黙れ、精霊ども。俺はもともと火のドラゴンだ!』
せっかく機嫌が良くなったというのに、また急降下です。が、ベンとテラに見られているのに気付くと、その目が優しくなりました。
『乗れ、ヒトの子たち。ここにいると、精霊どもがうるさくてかなわん』
言うと、地面にその体を伏せました。突然の言葉と行動に、ベンもテラも理解が追いつきません。しかし、リンが二人の肩を押しました。
『行ってきなさい、せっかくこう言ってくれてるんだから』
その言葉にベンが首を傾げつつ言いました。
「でも、痛くない? たくさん尖ってる」
そうなんです。ドラークの体には、尖ったウロコがたくさんあるのです。刺さったら痛そうだ、と思ってしまうのは当たり前です。
『心配はいらない。俺が刺そうと思わなければ、お前たちを刺すことはない。安心して乗れ』
その言葉に、ベンとテラの顔がパッと明るくなりました。
「乗るっ!」
「テラもテラもっ!」
そして二人で駆け寄ります。ウロコを触ってみますが、確かに刺さる様子もないし、痛くもありません。そして、上に上がろうとしますが、伏せてもなおドラークは大きく、まだ小さいベンとテラは大苦戦です。
『どれ、手伝ってやろうかの』
ジールが手を動かしました。水がベンとテラを包み込んでそのまま二人を持ち上げ、ドラークの上に座らせました。
「ジールさん、ありがとう!」
「おじいちゃん、ありがとう!」
『なんのなんの、これしき容易いこと』
ベンとテラが満面の笑みでお礼を言うと、ジールは嬉しそうです。
『ドラーク、この子たちのこと、よろしくね。――あ、そうそう。魔法の力を探して森に入ったそうよ』
『……フン』
リンの言葉に、ドラークは言われんでも分かる、という様子で、つまらなそうに返事をしています。
『では、行くぞ』
そう言うと、ドラークはその体を起こしました。うわぁ、と子供たちが叫んでウロコを掴むのを感じながら、今度は"力"を発動させます。
「えっ!?」
「とんだー!」
そうなのです。ドラークの体の周りを何かが取り囲んだように見えたと思った次の瞬間には、宙に浮いていたのです。
『ベン、テラ、またねー!』
『元気で過ごすんじゃぞ!』
リンとジールが手を振ると、ベンもテラも大きく手を動かしました。
「またねー!」
「バイバーイ!」
そして、あいさつが済むと、さらにドラークは上昇していきます。
やがてリンもジールも見えなくなって、その代わりに見えたのは、森とその上を走るように広がっている虹でした。