表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

5.森の精霊 リン

 ベンは、ヒッグヒッグと嗚咽をもらしながら、目の前に現れた人を凝視します。そんな兄の様子にテラも何かを感じたのか、ベンと同じ方向を見て、目をパチパチさせます。


「ようせいさん?」


 そう言ったのはテラでした。何かの絵本で見た、妖精の姿に似ている気がしたのです。けれど、ベンは言い返しました。


「違うって。妖精はもっとちっちゃかったじゃん。この人、おっきいもん」

「あ、そっか」


 妖精は、人の手の平に乗るくらいの大きさでした。けれど目の前の人は、体の色は緑っぽい色だけれど、人間の大人と……母親と同じくらいの大きさに見えます。


 兄妹のやり取りを聞いていた目の前の人は、クスクス笑いました。


『面白い子たちね。妖精とは違うけれど……そうね、ヒトの言葉で言うなら、精霊というべきかしら』

「せいれい……?」


 ベンとテラは揃って首を傾げます。"精霊"を知らないのです。すると、目の前の精霊はまたもクスクス笑いました。


『まあ、妖精と似たようなものと思ってもらえればいいわ。リンと呼んでね』

「わかったー! リンちゃんだねっ!」

「あっこら、テラ! 大人をちゃん付けしちゃいけないんだぞっ!?」

「なんで?」

『まあまあ、私は構わないわよ?』


 やっぱりクスクス笑いながら、リンはベンとテラの顔をのぞき込みます。


『やっぱり面白いわ。私を見ても驚かないんだから』

「おどろくの?」

「なんで?」


 ベンもテラも不思議そうに取り返すと、今度はリンはとても嬉しそうに笑いました。


『ねぇ、子供たち。名前を教えてちょうだいな』

「ベンです!」

「テラはね、テラって言うの!」

『ベンとテラね。二人は兄妹?』

「うん! テラはいもうとだから、僕が守ってあげるんだ!」

「お兄ちゃんに守ってもらわなくても、テラだいじょうぶだもん!」

「うそだー、さっき泣いてた、くせに……」


 言いかけたベンの言葉は、途中で力をなくしました。現れたリンにすっかり忘れていましたが、自分たちが迷子になってしまったことを思い出したのです。ふと気付けば、周囲はすでに真っ暗です。


「……どうしよう」

『あら、どうしたの? そういえば、ヒトの子どもが、暗くなっても森の中にいるのは珍しいわね』

「その……」


 ベンは悩みましたが、全部打ち明けました。

 魔法の力を探して、森の中に入ったこと。不安になって引き返そうとしたら、道が分からなくなって、暗くなってしまったこと。テラが転んでしまって、泣き出したこと。


 大人のリンには怒られるかもしれない、と思いましたが、自分だけではテラを守れないことは分かっていたのです。


『なるほど、少し血の匂いがするとは思ってたのよね』


 緊張しているベンをよそに、リンはテラの膝を見ていました。そこで初めて、ベンもテラが怪我をしていることに気付いたのです。


「テラ……! ど、どうしよう……!」

『落ち着いて、ベン。私は治してあげられないから……一緒に行きましょうか』

「え……って……ええっ!?」

「うわーすごーい! お兄ちゃん、木がテラをつかまえたー!」

「なんでそんなにのんきなんだよ!?」


 歓声を上げるテラとは別に、ベンは半ば悲鳴を上げます。

 木の枝がスルスルッと伸びてきて、胴体に巻き付いたのです。しかも、そのまま持ち上げたと思ったら移動を始めて、ベンはテラみたいに喜べませんでした。


『心配いらないわ。テラの傷を治してくれる場所に行くだけだから』

「……きず、なおる?」

『ええ、もちろんよ』


 それを聞いて、ベンは動くのを止めました。少し怖い気もしますが、妹のためです。

 そうして、揺られながら移動すること、少し。ベンとテラの目に、キラキラ光る何かが飛び込んできたのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ