第九話「ローキはスパチャをしてみたい」
『でね、ダイヤ、その日は前の予定が押していて、スタジオ入りするのが集合時間ぎりぎりだったのね? で、スタジオにはもうみんな集まっていてわいわいしてたの。これならこそっと入れば目立たないだろうと思ったらさ』
そこでダイヤちゃんは言葉をいったん切る。
画面の中でダイヤちゃんの身体がおおげさに揺れた。
『入室したとたん、みんなの視線がダイヤの方にくわっ! って向いてくるの! めっちゃ怖くなってダッシュで部屋の隅っこでちっちゃくなってたわ』
『いつもの陰キャムーブw』
『隅っこに隠れるの草』
ダイヤちゃんは配信でいつも『リアルの私は陰キャ』と公言している。
他のパンメン――『パンタシア』のメンバーの略――も時々ダイヤちゃんの陰キャ具合を話題にしまくっている。
『リアルダイヤちゃん、会話はだいたい「あ、う」「え?」のあ行で済んじゃうんだよね』
『いつも野球帽目深にかぶってテーブルの端っこに座るのー』
『まず視線を合わせて来ないし』
とリアルダイヤの陰キャムーブは事欠かない。
というわけで、俺たちリスナーには周知のことなんだけど、いまいち心の底から信じ切れないところがある。
こんなにぺらぺらと喋れる人が陰キャだなんてことある?
この前のMステでも堂々とアモさんと渡り合っていた人が陰キャ? 嘘でしょ?
『そんなにぎりぎりに来たことを怒ってるの!? って思ってみんなと視線を合わせないように帽子を深くかぶっていたら目の前に誰かがぬうっと突っ立てて!』
『「うわああああああああっ!」て叫び声挙げちゃった。それでまたみんなの視線を浴びて、ひいってうずくまって』
『ホラー映画かよw』
『無限ループw』
『恐る恐る顔を上げたら目の前に立っている人は、ねるちゃんでさあ。みんなが注目をしているのは、この前のMステの話を訊きたいからだよ? って言われてほっとしたよー。遅れてきたのを咎めているのかと思っちゃった。でもそれからめっちゃ遅れてうらら先生が遅刻してきたんで、ああ、ダイヤなんてたいしたことなかったんじゃん、ってそこでようやく安心したー』
『オチ担当うら先』
『息を吸うようにPONをするうら先』
へえ、ねるねと会話を交わしたんだ、と俺は画面の前で思わず目を見開いた。
ダイヤちゃんとねるねはコラボをしたことが無い。
ねるねはゲーム配信が主体だけど、ダイヤちゃんはその逆でゲーム配信は少ない。
ダイヤちゃんは歌枠が多いけど、ねるねは逆に歌枠が少ない。
つまり接点があまり無いのだ。
たまに『パンタシア』の全体企画なんかで一緒になるくらい。
だからリアルで会話を交わしたって話はちょっと新鮮に感じた。
と、その時。
『あきお 1000円 ダイヤちゃんとねるねるのコラボも見てみたいですね! する予定はあるんですか?』
という色つきのコメントが画面に現れた。
するとそれに目を留めたダイヤちゃんが、
『ねるちゃんとコラボ? うん、そのうちやってみたいね!』
と即座に反応したんだ。
スパチャだ――
スパチャはいわゆる『投げ銭機能』というヤツで、配信者を応援する意味で金銭を送ることが出来る機能。
それは100円から5万円の幅で送る金額を選択することが出来、高速で流れるチャット欄の上に一定時間留まることが出来る。
またVによっては、配信の最後にスパチャを読み上げる時間枠を取っている人もいる。
つまりスパチャというものを送れば、Vの人たちの目に止まり、認識してもらえる可能性が増えるってわけだ。
普通にコメントを打っていても、よっぽどのミラクルが起きない限りVにコメントを読んで貰うことは難しい。
実際、俺は一度たりともダイヤちゃんにコメントを読んで貰ったことはない。
つまりダイヤちゃんに俺という人間を認識して貰うには、スパチャを送ることが一つの方法なんだ。
だけど、俺はこのスパチャをしたことがない。
基本的にこのスパチャという機能は、クレジットカードが無いと送れないんだけど、まだ高校生の俺は、当然クレジットカードなんか持っていない。
他にもスマホのキャリアを利用したり、特殊なアプリを利用した送り方もあるそうなんだけど、それはウチの母親に「絶対にやっちゃダメ!」と厳命されている。
俺に推しのVがいる、と知った瞬間母親は、くどくどと「スパチャを推しに送るのは、自分で稼げるようになってから!」と説教して来たんだ。
なんかやたらYoutubeやVTuberに詳しくて、もしかしたら母親も推しのVでもいるのかも知れない。
おまけにウチの家は「バイトは大学生になってから!」ってローカル規則があるので、自動的に今の俺はスパチャを投げる立場にいないってことになる。
あー、早く高校卒業したい。
それでバイトして金稼いで、ダイヤちゃんにスパチャを送って コメント読んで貰うんだ。
なんて思ってたんだけど――
「ローキ。スパチャを送る方法が一つある、って言ったらお前どうする?」
と突然ヒロトからメッセージが送られて来たんだ。