第二十一話『シャクヤクさんも『誰か』に伝えたい』
ねるねの声と共に
『うむ、苦しゅうない。ねるPの皆の衆、邪魔するぞ』
そう言ってねるねと反対側の画面から現れたのはシャクヤクさん。
え? 凄え。これってもしかして突発オフコラボ?
単にシャクヤクさんの動画を借りて来ただけだと思ってた。
『姫さまー! 久しぶりー! それでもって今日は協力してくれてありがとう!』
ねるねの言葉にシャクヤクさんは首を横に振って、
『いやいや、これしきのこと、造作もない。未来の仲間のためでもあるからのう』
と宣う。
『で、早速だけど姫さまはどんなPR動画を送ったの?』
『うむ。わらわはな、いろいろな書物、特に小説をたくさん読んでいたので、いろいろな人物の設定などが頭に入っておるのじゃ。じゃからわらわは架空のキャラクターを演じてみようと思ったのじゃ。それがわらわが送ったPR動画じゃ』
『え? ヤバ。それってめっちゃ興味あるー! それって今日見れるの?』
『もちろんじゃ。恥ずかしいがのう。ちょっとだけじゃぞ』
シャクヤクさんとねるねの立ち姿が左右に分かれる。
その後中央の画面になにかが映し出された。
可愛らしくデフォルメされたJKのイラスト。
金髪で、スカートの丈も短くして、制服をゆるく着こなしたギャルのイラストだ。
色鉛筆でちゃんと着色してある。
「可愛いー。このイラストってもしや――」
「そう、わらわが描いた」
「姫さまイラスト上手いよねー!」
シャクヤクさんがイラスト得意だということは、パンリスなら誰でも知っている。
イラストを使用するゲーム配信でその実力を遺憾なく披露しているし、直筆サインにもこっそりワンポイントイラストを入れてくれるからだ。
でもシャクヤクさんがギャルのイラストを描いたところは初めて見た。
『え? もう始まってる!? ガチで!?』
イラストのギャルがいきなりしゃべり出しびっくりしたような顔をした。
ギャルの立ち絵を変えただけなんだが、それよりなにより!
『え? 今の声、姫さま!?』
『こんな声出せるんだ!』
『ギャル姫可愛い』
と一気にコメント欄が盛り上がる。
『うっそ! これ姫さま!?』
ねるねがいったん動画を止めて驚きの声を上げた。
『うむ。こうして改めてみると恥ずかしいのう……やっぱり止め』
『ダーメ!』
というやりとりが画面の中で行われ、ねるねは強引に動画を再開した。
『ちーっす! あちしVTuber目指しているシャクヤク! とりまよろー!』
目の横でVサインして、可愛らしくウインクしてるイラストに変わる。
どうやらシャクヤクさんは定型の立ち絵をいくつか用意しているようだ。
それを場面に合わせて切り替えているらしい。
『VTuberってなんか楽しそうじゃん!? めちゃ興味あってさー! ゲームやって、歌って、踊って、ぜってーあちし向きだと思うんだよね!?』
イラストが元気よく右腕を振り上げているものに変わると同時に画面はシューティングゲーム画面になった。
いわゆる弾幕ゲーというヤツで画面にいっぱいに弾がぶちまけられているが、シャクヤクさん(ギャル)が操る機体は『ヤバ! ガチでヤバイって!』と言いながらもそれを鮮やかに避けていく。
Vでゲーム配信する人間は多いが、シューティングゲーム配信する人間は少ない。
シャクヤクさんはその数少ない側のVで、デビュー前からこんな風にアピールしてたんだな、と感慨深くその画像を見つめる。
ちょっとため息が漏れた。
ねるねもそうだったけど、シャクヤクさんも自分のウリ、利点を最大限に表現している。
ここまでやらなくちゃいけないんだ。
これはつまり俺がやらなくちゃいけないことなんだ。
『パンタシア』メンバーたちの魅力的な動画を観れば観るほど、身が引き締まる思いがする。
『次は歌っちゃうかあ! あちしダチとカラホ通いまくりだから、かなり自信ありまくりだし!』
マイクを持つイラストに切り替わった。
が、そのイラストもすぐに別のものに変わる。
右手で誰かの手を引っ張っているイラスト。
『ちょ、ちょっと! む、無理ですって』
なんか突然、ギャルヤクさんの誘いを拒むような清楚っぽい声が聞こえてくる。
『だいじょーぶ、だいじゅーぶ! いつも一緒に歌ってんじゃん!? デュエろ?』
そうしてギャルヤクさんが強引にその誰かを引っ張った。
現れたのは黒髪ロングで大人しそうな女の子。
彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめたイラストで登場する。
『……もう。いつも強引なんですから』
『もー、いいんちょ、そんなこと言って! その割には断ったことないじゃん!?』
あれ?
いきなりの展開で頭が付いていかなかったけど、これってもしかして一人二役?
シャクヤクさん、この後から登場した委員長ちゃんらしきキャラの声もやってるってこと?
その展開にねるねも驚いたのか、
『ちょ、ちょっと姫さま! こ、これは!』
『そう、一人二役じゃ。ちょっとした動画編集で声をオーバーダビングしたってわけじゃな』
『いや、そういうことじゃなくて、委員長役ってのはバレ……』
『ふふん、どうかの?』
そんなごしょごしょとしたやりとりの合間にも、動画は続いていく。
イラストはギャルヤクさんとシャクヤク委員長の二人のデュエットが絶妙のハーモニーを響かせている。
そしてその奇跡のデュエットが終わろうかと思われた時、その動画はぶつりと切れた。
『あ。終わった』
『うむ。初めから『ちょっとだぞ』と言っておいたじゃろう? ここから先はプライベート情報が満載だから閲覧禁止じゃ』
『あ、はい』
なにか毒気を抜かれたようなねるねだったけど、すぐに我に返ったのかあわてて言葉を発する。
『というわけで、姫さまのオーディション動画でしたー! いやあ、イラストを重ねて動きを出す工夫といい、一人二役でしかもデュエットする工夫といい、凝ってましたねー!』
『わらわはこのとき、自分の全てを出そうと思ったのじゃ。自分の全てを見せるにはどうしたら良いか。それで行き着いたのがこの動画じゃ。画面の前のオーディションを受けようとしているお主! 是非とも出し惜しみの無い動画を作ってオーディションに挑んで欲しいものじゃ!』
シャクヤクさんは急にアップになりカメラ目線で、語調強くそんなことを語ってくる。
まるで自分に対して言われているようで、ちょっとドキドキした。
ねるねが『ちょ、ちょっと姫さま?』とドン引くほどの自己主張をしていたシャクヤクさんだったけど、やがてふっと小さく息を吐くと急に身体が小さくなった。
『人様の配信なのに少し語りすぎたかの? それではわらわはそろそろ退散じゃ』
『え? 配信もあと少しだし、最後まで居てくれてもいいんですけど』
ねるねがそう勧めるもシャクヤクさんは『いや実はこの後にマネちゃんに呼ばれておっての。遅刻すると怖いのじゃよ』とメタい話をして、フェイドアウトして行った。
その後は、ねるねと仲のいい焙煎かふぇが登場して『最初の数秒に命をかけたんだよ!』という超スタートダッシュな動画の話などをして、ねるねの配信は終わった。
ちなみにこの配信の後、『ギャルヤクさん』という謎の新キャラクターがリスナーの間で大人気になり、その後シャクヤクさんの配信で何度も登場することになるんだけど、それはまた別の話だ。
それはともかく、問題は俺のPR動画だ。
ねるね、シャクヤクさん、かふぇたちはみんな自分の魅力を、やりたいことを最大限にアピールしていた。
じゃあ俺がVになってやりたいことって、なんだ?
Vになる、オーディションを受ける、っていう目的ばかりが気になって、俺がそもそもVになりたい理由ってのを置き去りにしていた気がする。
今回の熱のこもったねるねの配信を観て、逆にそれを痛感した。
そうだな。
俺がVになりたい理由。
それは最初から何一つ変わっていない。それは――
――ダイヤちゃんとお近づきになる為だ。




