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VTuberと付き合いたい!  作者: おーゆみ
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第二話「なぎさは何かを隠したい」

「ちょ、そ、それってどういうこと?」

 なぎさは挙動不審気味にうろたえながら、小さい声で訊いて来た。

「ねるねはあの独特な口調がいいよな。それに計算してるのか偶然なのか分からないけど配信中に突拍子もないトラブルが発生するだろ? それでその突然のトラブルに対してもうまい切り返しで切り抜ける。『撮れ高の女神』の異名を持つだけはあるよな。観てて面白い。才能あるよ」

「ふ、ふーん。そう、そうなんだ」

 なぎさはなぜか嬉しそうにそう呟く。

 視線を下の方にずらすと机の下で足をぶらぶらさせていることに気付いた。

 長い付き合いの俺は知っている。

 なぎさが足をぶらぶらさせるのはめちゃくちゃ嬉しいときだ。

「……」

 その様子を見て俺は思った。

 ははあ――

「さてはお前、『ねるP』だろ?」

「え? ――はあっ!?」

 なぎさは顔を真っ赤にして「ちょ、ちょっと、な、な、なに言ってんの!」とあからさまに動揺する。

 分かりやすい。確定だろ、これ。

 なぎさはねるPだ。

 ねるPというのは『綿津見わたつみねる』というVTuberのファンのことを指す

 綿津見ねる――通称『ねるね』、または『ねるねる』。

 地上に上がってきた海の妖精という設定のVTuberだが、そんな設定はほぼ忘れ去られるほど、このねるねは配信者としてのキャラが強い。

 舌っ足らずで特徴があるしゃべり方は独特で、その可愛さに惹かれるリスナーは多いとは思うんだけど、彼女の最大の魅力はその『対応力』にある。

 なぜか配信中トラブルに見舞われる確率が高くて、きっとそう云う星の下に生まれた不幸体質なんじゃないかな、と思うんだけど、ただ彼女はそのピンチをいつもチャンスに変えてしまう。

 つまり結果的に「おいしい」配信が出来上がる、というわけだ。

 付いた二つ名は『撮れ高の女神』。彼女も人気VTuberの一人だ。

 ちなみにねるねもダイヤちゃんたちと同じ『パンタシア』グループ。

 ってことでねるねの配信は俺もめちゃくちゃ良く観ている。

 だからなおさら断言できる。

 なぎさは『ねるP』だ。

「なんだよ。お前VTuberなんて観たことないようなこと言っていて、ねるねのこと知ってんじゃん」

「そ、そんなことないよ。YouTube観ている時、たまにレコメンドされてくるからそれでたまたま知ってるだけ。な、名前くらいしか知らないから」

「隠れねるPかよ。隠さなくてもいいじゃん。バカにしたりしないよ」

「隠してないし」

 なぎさはそう言って不機嫌そうに視線を逸らす。

 ふん。そこまで否定するか。ならちょっと引っかけてやろう。

「……『ねるドリップ』てーてーだよな」

「『ねるドリップ』はビジネスだし!」

 俺が独り言のように呟いた言葉に即座に反応したなぎさは、その直後「あ」と言って固まった。

 ふふん。語るに落ちたななぎさよ。

「ねるねと『かふぇ』のコンビ名を知って、なおかつそれがビジネスコンビだってディープなことも知ってるのって、いつも観てないと分かんねえだろ? ねるP以外の何者でもないじゃねえか」

「ぐぐぐ」

 なぎさは完全に言葉に詰まっていた。

 『ねるドリップ』というのはVTuberのコンビ名。

 VTuberでも仲の良い相手というのはいるもので、ちょくちょくコラボ配信するコンビがいる。

 それがねるねと焙煎ばいせんかふぇのコンビだ。

 この二人は絶妙に相性が良く、仲の良い二人組の女子高生のような会話を配信中に繰り広げてくれたりする。

 そんな二人を観て、幻想を抱いてしまうリスナーというのは多いもので、「ねるドリップてーてー」「ごちそうさまでした」「もう付き合っちゃえよ」というコメントが配信中溢れかえったりするのだが、そういう流れを否定すべくねるねとかふぇは「私たち運営から頼まれてコラボしてるだけのビジネスコンビだから!」と言って強硬に主張するのである。

 主張したその舌の根が渇かないうちに、もの凄い濃密な会話をしたりするのはお約束ではあるが。

 正直こんなことずっとVTuberの配信を見続けていないと分かるわけがない。

 俺が、やれやれしょうが無いなあ、追及しちゃってごめんなー、という生暖かい視線をなぎさに浴びせていると、

「ああ、認めるよ! ねるの配信は一から十まで知ってるよ! だからなんだっていうの!? なんか悪いことでもあんの!?」

 となぎさはいきなり立ちあがってまくし立てて来た。

 そしてぴんと人差し指を立て、俺の顔に突きつける。

 く、こいつ開き直りやがった。

 なぎさが怒りの形相で睨み付けてくるので、俺もにらみ返してやる。

 ぐぬぬぬぬ! という緊迫した空気が辺りに立ちこめてヒロトが「おいおいおい」とちょっと慌てだしたその時――

「はいー、そこまで。もうすぐホームルームがはじまるよー。みんな着席するよーに」

 ほわほわとした声が俺たちの間に割って入ってきた。

 そこに現れたのは俺たちの担任、高橋まどか先生。

 大きな眼鏡といつも眠そうにとろんとした瞳と、豊満なバストが特徴的な先生だ。

「あ」

 まどか先生が身に纏っているふんわりとしたオーラに当てられたのか、なぎさは毒気が抜かれたように意気消沈し、自分の席に座り直した。

 なぎさが引いてしまうと俺も別に張り合う理由も無いので、前傾姿勢を止めてイスに深々と座り直す。

 そんな俺たちを確認して満足げに頷いていたまどか先生だったけど、ふと何かを思い出したような表情を浮かべ、つかつかと俺の方へと近寄ってきた。

 そして近くまで来ると、俺とヒロトを交互に見てから、まどか先生はぷうっと頬を膨らませる。

「ローキくんとヒロトくん? さっきの会話は感心しませんよ? 誰だったら彼女にしたいとか、誰だったらお嫁さんが良いとか。女性に対する誠実さが足りなくて、とっても傲慢な態度です」

 まどか先生は眉根をつり上げて怒った顔を俺たちに向ける。

 でも、もとの作りが童顔で、表情も垂れ目でとろんとしているからちっとも怖くない。

「つったってVTuberだよ。リアルな人間の話じゃないし」

「それでも感心しません? そういう態度が次第に君たちを傲慢な人間に育てていくのです」

 まどか先生はほわほわしているけど、意外に頑固で面倒くさい。

 だから俺はヒロトと目配せして、

「分かりましたー」

「分かったよ、先生」

 と言って素直に非を認めたフリをした。

「よろしい」

 面倒くさいことにならずに済んでほっと小さく息を吐く。

 だけど、まどか先生はまだ俺たちの前に立っており、一向に動こうとしない。

 じいっとこっちを向いて何か訊きたそうな表情をしている。

「……あの。まだ、なにか?」

「え、ええとですねぇ」

 先生はもじもじしながら視線を斜め下に向けて、口ごもる。

 何かもの凄く言い辛そうにしている。

 だけど、やがてようやく何かの決意が固まったのか、きっと顔を上げて俺の目を真っ直ぐに覗き込んできた。

「ローキくん!?」

「はい!?」


「うらら先生の新衣装、そんなに……エッチでしたか?」

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