第十九話「ローキはうらら先生を研究したい」
『というわけでー、今日は『園児』のみんなにイラスト入りのホットケーキを作ってあげますからねー。ちょっと待ってね。ええと、まずはこの粉を全部ボウルに開けてー』
と言ってうら先はホットケーキミックスの袋を手に取った。
今、俺が観ているのは数日前にうら先が配信した『お料理配信』のアーカイブだ。
画面にはいつもの2Dうら先の他に、実写ワイプが左上に表示されている。
実写で表示されているのは、使い捨て手袋で包まれたうら先の手の先だけ。
『ええと、ハサミはどこかなー、ハサミハサミ』
画面から一瞬うら先の手が消える。
だけどすぐにホットケーキミックスの袋をむんずとつかんだ両手が現れる。
『もういいや。このまま切っちゃう。うーん!』
うら先の力む声とともにぎりぎりとホットーケーキミックスの袋は左右に引っ張られて、不自然に引き攣れて行く。
観ているだけで、次の展開が予想できそうな不穏さだ。
それはリアタイしていたリスナーたちも同じようで、
『あ』
『あ』
『ヤバ』
『来るぞ来るぞ』
みたいな何かを予感させるコメントがしばらく続いたその後、
『きゃああああー!』
という悲鳴とともに画面全体が白煙に包まれた。
真っ白けでなにも見えない。
『いやああ! お台所が粉だらけ! ど、どうしたらいいのよー、これ! と、とりあえず拭かないとー!』
もくもくとした真っ白な画面から、うら先のそんな声が聞こえてくる。が、さらに、
『きゃああああ! なんか踏んづけたあー! ああ! ちょ、あ、危!』
という悲鳴と共にがらがらがっしゃーん! と何かが盛大に床にぶちまけられた音が響き渡る。
『なにがおこった!?』
『大丈夫!?』
『ケガしてない!?』
『放送事故w』
というリスナーがうら先の安否を気に掛けるコメントが続くが、配信からはしばらくうら先の悲鳴と何かが落ちる騒音だけが鳴り響いた。
しばらく観てから俺は「ふう」とため息を吐き、配信画面を止めた。
これがうら先が伝説を作った配信『うらら先生がイラスト付きのホットケーキ作っちゃうぞ。はあと』だ。
うら先のリスナー『園児』たちからは『うら先歴代ベストPON』五本の指に入る神回だともっぱらの評判だ。
っていうことは、これに匹敵するPON配信がまだ他にも四つあるってことだろ?
天才か。
俺は頭を横に振った。
まどか先生に「本質みたいなものを見抜く目も必要では?」と言われたので、早速家に帰ってうら先の配信を見返していた。
うら先の中の人というか前世は『まるるん』さんという配信者だと言われているけど、確かに『まるるん』さんもPONで有名な人だった。
つまり『パンタシア』運営はこのPON力に魅力を感じてスカウトしたってことなんだろう。
まどか先生に言われて初めて気がついた。
まるるんさんは、おっきい胸がウリだけの配信者じゃなかったんだ。
ちょっとショックではあった。
それなりにVTuberの配信を観ていて、詳しいつもりでいたけど、俺は上っ面しか観てなかったんだな、って。
そのVの本当の魅力はなんなのか、ということを考えずに観てきたんだな、って。
っていうことは逆に考えると、俺はどこか突出した魅力のあるVにならなくちゃいけないってことだ。
でも。
――俺の魅力ってなに?
うーん、と悩んでいると、唐突にラインの着信音がぴこんと鳴った。
スマホの画面を見てみると、なぎさからだ。
画面を操作してなぎさからのメッセージを表示する。
『これからねるの配信が始まるんだけど、面白そうだよ! ローキ必見!』
ねるねの配信? 面白そう? 必見?
首をかしげながら、マウスを操作してYoutubeの画面を切り替える。
ねるねのチャンネルは登録しているからすぐに見つかる。
一番上にアップされている配信待機のサムネイルを見て、一瞬でなぎさが言う意味が分かった。
そこにはこう書かれていた。
『VTuber志望者必見! 私はこうして受かった! 『パンタシア』メンバーたちのオーディション PR動画編』
って。




