第十四話「ローキはダイヤちゃんとお近づきになる方法を模索したい」
「やや、わざわざ持ってきてくれてありがとう! ヒロトに渡してくれるだけで良かったのに」
と言ってコースケさんは扉を開けて、俺とヒロトを迎えてくれた。
「いえいえ、スパチャのお礼をしたいと思いまして」
俺は菓子の入った手提げ袋と、野菜の入った手提げ袋の二つをコースケさんにぐいっと差し出す。
菓子は前々からコースケさんにお願いされていた、ねるねとコラボした菓子10個分。
野菜の方は田舎のばあちゃんから送られてきた新鮮野菜いろいろだ。
以前ヒロトから「叔父さんは自炊をするよ」と訊いていたので、野菜をプレゼントしても問題ないだろうと思ったんだ。
コースケさんは目を見開いて、それを嬉しそうに受け取る。
「たくさんの野菜ありがとう。さあさあ、中に入って! せっかくだから一緒にねるねるのコラボ菓子の『開封の儀』をしようじゃないか」
声も弾み気味なコースケさんに促されて、俺とヒロトは秘密基地のようなコースケさんの家の中に入っていく。
実は初スパチャのあと、俺はもう一回だけ1000円スパチャをコースケさんに送って貰っていたんだ。
ダイヤちゃんにコメントを貰う、という至福な経験をもう一度味わいたいと思ったんだ。
二回目のスパチャは、ダイヤちゃんにしては珍しいゲーム配信の時で、全クリしたことに対して「おめでとう」のコメントを送った。
配信を観ながらコースケさんにラインでコメントを送り、その場でスパチャを送って貰うという、即時性に溢れたスパチャだった。
まるで自分でスパチャを送ったようなスピード感にちょっと感動したけど、コースケさんには申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
コースケさんとすればわざわざアカウント名を変えて、スパチャを送っているわけである。
しかも最推しというわけではないダイヤちゃんの配信に張り付いて、である。
その手間と時間のことを考えると、いくらお礼を言っても足りないくらいだ。
というわけで今日の訪問だった。
俺とヒロトは前回来たときと同じ席に座り、これまた前回と同じマグカップに入ったコーヒーを受け取る。
「さあ、僕が買った10個とヒロトとローキくんたちに買って貰ったそれぞれ10個、計30個の開封の儀だ!」
コースケさんは目をきらきらさせて、テーブルの上に30個の菓子を重ねた。
そして丁寧に袋を端からはさみで切り取り、なにか貴重品でも扱うかのように慎重に中から菓子とカードを取り出して行く。
「おお! いきなりキラカードだ! 幸先いいぞ!」
コースケさんは、子どものように嬉しそうな声を上げ、テーブルの上にカードを置いた。
その後もカードは良いテンポで次々と開封されて行く。
その度に「ああ!」とか「おお!」とか一喜一憂するコースケさん。
途中でカードが三連続でダブった時には、首を傾げ「うーん、どうも僕には運が無いようだ。ヒロトとローキくんにも開けて貰っていいかな?」と言って俺たちの協力を求めてきた。
そんなわけで、俺とヒロトがそれぞれ五回ずつ菓子を開封することになった。
結果、30個購入して、ダブリはあるけど12種類のカードは全てコンプリート。
だけど案の定7500分の1と言われた幻の直筆サインカードは引き当てることは出来なかった。
それでもコースケさんは目をきらきら輝かせて、テーブルの上に並べられたそれらを嬉しそうに眺めていた。
子どものように楽しんでいるコースケさん。
こんな大人になることが理想だな、と俺は改めて思う。
「せっかくだからダブったカードは二人にあげるよ。二人とも最推しはいるだろうけど、基本箱推しだろ?」
そう言ってコースケさんは気さくにダブリのカードを俺たちに配ってくれる。
俺の手元にねるねが元気に飛び跳ねているシーンを切り取ったカードが収まった。
推しのダイヤちゃんじゃないけど、思わず口元がほころぶのを自分で感じていた。
ふと隣のヒロトを見ると口元がほころんでいる。
きっと俺も同じような表情をしているんだろうと思う。
コースケさんが用意してくれたマグカップに満たされたコーヒーを啜りながら、ちょっと満たされた気分になった。
「ところで二人ともスパチャはもう良いのかい? 二回目以降は依頼が来ないけど」
コースケさんのその言葉に俺はヒロトと顔を見合わせてから、ゆっくりとうなずいた。
「はい、やっぱりスパチャは自分で稼げるようになってからやろうと思いまして」
すでに2000円分のスパチャ代を支払った俺としては、今月の小遣いが逼迫していたし、これ以上金を掛け続けることは、一高校生としては恐怖を感じるものがあった。
それに毎回コースケさんに負担を掛けるのが申し訳なかったというのもある。
あとダイヤちゃんからコメントを貰えるのは嬉しいけど、ダイヤちゃんと近づけたか? 繋がれたか? と言われればそうでもなかったようにも思う。
スパチャを送るリスナーは俺の他にも大勢いるし、高額スパチャをぽんぽん投げる大人リスナーに太刀打ちできるわけが無いからだ。
俺がコースケさんにそんなようなことを言うと、
「ガチ恋勢は業が深いねぇ。さらにお近づきになることを求めるんだねぇ」
と笑顔で「やれやれ」と云った具合で首を小さく横に振った。
俺は、はっとした。
最も『わきまえた』リスナーと言われる、ねるPの立場からすると、やっかいリスナーと思われたのかもしれない。
不快に思われたのかも知れない。
俺は「すみません」と速攻で頭を下げる。
「いやいや、謝る必要なんて無いよ。どんな風にVを好きになるのかは、そのリスナーの勝手だからね。ましてキミは他人に迷惑を掛けているわけじゃないんだから、構わないんじゃないかな?」
なんて寛容な人なんだ。
これはコースケさんが大人だからなのか、それともねるPだからなのか、はたまたコースケさんの性格によるものなのか。
「でもよ、Vの人ともっと仲良くなりたい、というか、繋がりたいと思ったらどうしたら良いのかな。やっぱ、もっと面白いコメントを送らなくちゃいけねぇのかな」
ヒロトが俺とコースケさんのやりとりを見ながらぼそりと言う。
俺はこくりとうなずいた。
「時々、神のようなコメントする人いるからなあ。俺そんなコメント考えつかないし。神コメントは、ねるPにも多いですよね」
「そうだねぇ。Vの配信を一段上へと盛り上げるようなコメをする人がいるね。あれは独りよがりなコメじゃなくて、どうしたら配信が盛り上がるかを考えてるリスナーだよね。僕も見習いたいよ」
コースケさんは腕を組んで「うんうん」とうなずく。
と、そこで何かを思い出したようにはっと顔を上げた。
「僕は推しを遠くから愛でるタイプのリスナーだから、正直言うとVとお近づきになりたい、という考えは賛同出来ないけど」
と言ってからコースケさんは言葉を切った。
そしてもの凄く複雑な表情で、口をもごもごさせる。
しばらくの間その状況が続いたけど、やがて「ええい!」と何か吹っ切るかのようにかぶりを振ると、言葉を続けた。
「Vの人とお近づきになるヒントは――あると思うんだ」




