第十二話「なぎさはローキにひとこと言いたい」
「で、なんで私が呼び出されてるのよーっ!」
放課後の図書室になぎさの声が響き渡った。
ここ図書室には俺となぎさの他にはヒロト、そして図書委員長であるお馴染みのさやか先輩がいた。
カウンターとして使われている二つの机の片方がさやか先輩。
もう片方が俺たち三人が占拠しているといった格好だ。
「しっ! ここは図書室だ。他の人たちの迷惑になるから静かにしろよ!」
俺が図書委員らしく注意すると、なぎさは、
「私たちの他に人なんていないじゃないのよっ! それともアンタは見えない人でも見えるっての? 見えちゃう人なの!?」
と激しく憤った。
「まあまあ」
と両手の平をなぎさに向けてなだめる。
さやか先輩は微笑まし気な笑顔を口元に浮かべて、こちらに視線を向けた。
「ローキくん? ここで会議するのは構わないけど、利用者の人が入ってきたら静かにお願いね」
「はい! もちろんです!」
と元気よくうなずいてから、俺はなぎさとヒロトの方へと振り向いた。
「さて、今日みんなに相談したいのは、ダイヤちゃんにどんなスパチャを送ったら良いのか、ってことなんだけど」
「それでなんで私が呼ばれるのよ!」
「だってお前もパンリスでねるPじゃん? 学校じゃ数少ないリスナー仲間なんだからさ、相談に乗ってくれてもいいじゃん。それにこういうのは女性の意見を訊いた方がいいかな、と思ってさ」
「だから私ねるPでもなんでもない、って言ってんじゃん!」
なぎさは不満顔でそう言うと一瞬ちらっとさやか先輩の方を見た。
さやか先輩はそんななぎさと目が合うと、くすりと小さく笑う。
「だから、こういうのは勢いが大事だと思うんだよ! 『ダイヤちゃん、俺だー!』でいいじゃん」
ヒロトが面倒くさそうに言う。
「それじゃ、お前と同じだろ! もっとなんつーか、強いメッセージや俺の想いを込めた文をだな?」
「じゃあ『ダイヤちゃん、好きだー!』でいいじゃん」
「お前の脳みそは、二つの文章しか作れないのかよ!」
そんな俺たちのやりとりを呆れた表情で見ていたなぎさが、ぼそりと呟く。
「っていうかさ、他人に相談する時点で間違ってんじゃない? こういうのは自分の言葉を伝えた方がいいんじゃないの?」
「おお」
と俺は思わず声を上げた。
もの凄く面倒くさそうに言っているけど、それは決して投げやりでないしっかり考えられた意見だった。
「なによ」
俺の視線に気がついたのか、なぎさはふて腐れたように俺を睨み付ける。
「実はさ、ちゃんと文面は考えて来てあるんだ。それを二人に見てもらおうと思ってさ」
「なんだ、そんなのがあるんなら早く見せなさいよ」
なぎさはわずかに目を見開いて、俺を促す。
俺はポケットからスマホを取り出し、いそいそとメモ帳アプリのアイコンをタップした。
「1000円のスパチャだと200文字じゃん? だから200文字以内で二つ考えてきた」
「ふうん、どれどれ?」
俺のスマホ画面にヒロトとなぎさが身を乗り出してのぞき込んできた。
「で、これがまず一つ目なんだけど」
画面をフリックして一つ目のスパチャ案を表示する。
『ダイヤちゃん、いつも楽しく配信観てます! 最近のダイヤちゃんはMステ出たり、オリコン一位取ったりと、大活躍ですね! でもどんどん遠くに行ってしまうようで、ちょっと寂しく感じたり……ナンチャッテ、うそ、うそ! そんなことないですよ! ダイヤちゃんにはもっともっとビックになって欲しいです。これからもダイヤちゃんの活躍を見守っています! ダイヤちゃん大好きです!』
「キモいーーーー!」
文章を読み終えたタイミングでなぎさが雄叫びを上げた。
あまりの大音響に、となりで本を読んでいたさやか先輩が思わず身体をびくっとさせたほどだ。
「なんでだよ。ダイヤちゃんへの応援、そこはかとないダイヤちゃんへの想い、今後のダイヤちゃんへの期待、全てが盛り込まれた完璧なコメントじゃんか」
「その『想い』ってのがキモいのよ! 『寂しい』とか『大好きです』とか! 更に『ビックになって欲しい』って何様!? あと『ナンチャッテ』って取り繕うように否定しているところが一番キモい! オジサン構文かっ! 狙ってやってるの!?」
「……じゃ、じゃあ、次のヤツはどうだよ?」
俺は再び画面をフリックさせ、二つ目のスパチャ案を見せる。
『昨日、学校帰りに激辛ラーメン屋に行ってきました! 初めて10辛の壁を破って13辛ラーメンを食べました! 舌は痛いし、麺をすすると喉がむせて大変だったけど、なんとか完食。食べ終わってみればまた食べたくなるほどおいしいラーメンでした。激辛大好きなダイヤちゃんにも是非食べて貰いたいな。お勧めです!』
「日記かーーーーっ!」
なぎさが俺のスマホをたたき落とそうとしたので、すかさず手を引っ込めてその難は逃れた。
「違ぇよ! ちゃんとダイヤちゃんが激辛が大好きだっていうことを、分かった上で迂遠なところから会話を始めるという高等テクニックをだな」
「スパチャコメントで自分語りしてどうすんのよ! 見も知らずのあんたの日常を読まされるダイヤちゃんの気持ちになってみなさいよ!?」
「いや、俺のことも知ってもらわないと始まらないし」
「そこから間違ってる!」
今にも俺に掴みかからんばかりにエキサイトしているなぎさ。
「俺のコメントの方が潔くて圧倒的に良いんじゃね?」
ヒロトもぼそりとあまり有り難くない感想を呟く。
「そうかなあ」
正直どっちのコメもベストオブベストだと思うんだけど、やっぱりこの二人に相談したのが間違ってたかなあ。
こっそりコースケさんに最初のコメの方を送っちゃおうかな、なんて思っていた時、
「じゃあ、さやか先輩にも訊いてみなさいよ!」
といきなりなぎさが、さやか先輩の方へと話を振ったのだ。
「え? 私ですか?」
といきなり話が振られて驚いていたさやか先輩だったけど、すぐにいつものおだやかな表情に戻った。
「そうですね、仮に私がVTuberなるものをやっていたとしましたら――」
そこまで言いかけたさやか先輩は、なぎさに何か意味ありげな視線を送った。
そして再び視線を俺の方にもどすと、口元に優しげな笑みを浮かべて、こう言ったんだ。
「返事は、し易いコメントだとは、感じましたけど?」




