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VTuberと付き合いたい!  作者: おーゆみ
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第十一話「コースケはリスナー同士で協力したい」

 扉の中に入ると小綺麗な玄関があって、俺たちはそこで靴を脱いでスリッパに履き替えた。

 中の部屋はフローリングの床で、整理整頓は行き届いていて新築のマンションのよう。

 外の廃墟はいったいなんだったんだろうと思うくらいの違いがあった。

「親からこの家を譲り受けたんだけどさ。周りの道が細すぎる影響でこの家取り壊せないんだ。建て替えたくても建て替えることが出来ない。だからこんな風に部屋の中だけリノベーションしたってわけ」

 コースケさんは俺たちにコーヒーやおやつを準備してくれながらそう説明した。

 そして「秘密基地みたいでいいだろ?」と子どもみたいに、にんまりと笑う。

 俺はその笑顔を見て、ようやくほっと落ち着いた。

 ヒロトが事前に、ヤバイヤバイと煽りまくるせいで、今の今までずっと緊張していた。

 だけど、この少年のようなコースケさんの笑顔を見たら、それは嘘みたいに消え失せた。

「せっかくだからローキを驚かせようと思ってさ。ホラゲみたいで面白かったろ?」

 コーヒーをずずっとすすりながらヒロトが言う。

「余計な演出だったけどな」

 まあ、ちょっと変わった非日常を過ごせた感はある。ただ同意はしない。

「ローキくんは、ダイフレなんだよね? ダイヤちゃんってあの裏表なさそうなところが良いよね。自分が陰キャでコミュ症であることも隠そうとしないし、トークも自然体だし」

 コースケさんが自分もテーブルの席について、そう話しかけてきた。

「わかりますか! ……でもこの前も思ったんですけど、あんなトークがうまい女性が陰キャだとコミュ症だなんてことありますかね?」

 コースケさんもコーヒーを一すすりながら「うんうん」とうなずく。

「それはあれなんじゃないかな? 『ダイヤ』っていうキャラクターは彼女の仮面ペルソナ。つまり彼女の心の鎧みたいなもんでさ。その仮面を被っているときは心強く持てるとか、そういうことなんじゃないのかな?」

 ほへー。

 さすがはコースケさんは大人だ。

 俺が考えたこともないような、深い考察をしてくる。

「ところでローキくんもスパチャを送ってみたいんだって? この前ヒロトのスパチャを代わりに送ってやったら『俺の友達もたぶんやってみたいと思う』って言うから『じゃあ、連れてきなよ』って言ったんだよね」

 コースケさんの話を訊いて、隣に座っているヒロトをまじまじと見つめてしまった。

 お前、いいヤツだな。

 ……っていうより――

「お前スパチャ送ったの!? ってことは、うら先に?」

 ヒロトはドヤ顔でうなずく。

「まあね。人生初スパチャ! やりきったよ、俺は!」

「いくらのスパチャだよ! どんなコメント送ったんだよ!」

 矢継ぎ早な俺の質問に余裕の表情でヒロトは答える。

「1000円のスパチャだよ! コメントは――」

 ヒロトはいったん言葉を切って、満足そうな表情で、グっとサムズアップをした。

「『うら先、俺だー!』って!」

「バカなのかーっ!」

 俺は思わず立ちあがっていた。

 そしてその勢いのまま、ヒロトに詰め寄る。

「せっかくのスパチャでそんなムダなコメント打ってどうすんだよ!」

 バカか! バカなのか!?

 もっとVに何かが伝わるような、有意義なコメントを送るべきなんじゃないのか!?

 日頃、楽しませて貰っている感謝、とか! 自分の想いとか!

「ムダとはなんだよ、ムダとは! ちゃんとうら先に反応してもらったぜ! 『あら? ヒロトくん 自己紹介してくれてありがとうー』って」

 目をきらきらさせてそう語るヒロトを見て、これは何を言ってもダメだ、と俺は理解した。

 でもまあ、確かに送った人間が満足していて、Vに反応されているのならそれはそれでOKなのかも知れない。 

 とその時、ふと思った。

「あれ、でもそのスパチャってコースケさんが送ったんですよね? コースケさんの名前でスパチャが表示されるんじゃ」

 俺のその質問にコースケさんは深くうなずいた。

「もちろん、送る前に自分のアカウントネームは『ヒロト』にしておいたよ。キミもスパチャ送りたいのなら、『ローキ』にして送ってあげるよ」

 簡単に言っているけど、なんだかんだでアカウントの名前を毎回変えるのって面倒くさい上に時間がかかる。

 それを見も知らぬ俺のためにわざわざやってくれようとは、なんて良い人なんだろうか―― 

 と思ったけど、いや、待てよと、一瞬思いとどまった。

 これにはきっと裏があるのかも知れない。

 100円のスパチャを送るのに1000円くらい取られるとか、そういうことが。

 そんなことが頭を過った俺は、恐る恐るコースケさんに訊いてみる。

「……もしかしてスパチャ代以外にお金が必要ですか? 手数料的な」

「いやいや、スパチャの金額だけで構わないよ。でもそうだね。ただ、出来れば――」

 コースケさんはそこまで言って、言葉を切る。

 そして何かをたくらむような表情でにやりと笑った。

 ほら、やっぱりなにか交換条件があったんだ。

 きつい肉体労働やらされるとか、似合わないコスプレの写真を撮られるとか、四つん這いになって「ブヒィブヒィ」鳴かされるとか!

 頭の中でいろいろな想像がぐるぐるしていたその時、コースケさんの口が開いた。

「来週ねるねるのコラボ菓子が出るんだけど、それを買うのを少し手伝って欲しいんだ。もちろんお金は出すよ」

 ……へ? 菓子を買う?

「それだけですか?」

「それだけってキミ、めちゃくちゃ大変なことじゃないか! 直筆サインが当たるか当たらないかの瀬戸際なんだから」

 コースケさんは不服そうな顔で俺のことをまじまじと見つめる。

 ねるねのコラボ菓子の話は俺にも聞き及んでいる。

 菓子と一緒にオリジナルカードが封入されているんだけど、その中にわずか12枚だけ直筆サインが書かれているカードがあるらしい。

 コラボ菓子は生産数が限定されており、その数は9万食。

 つまり直筆カードを当てる確率が実に7500分の1というとんでもなく少ない確率だったりするのだ。

 おまけにコラボ菓子はお一人様10個までしか購入できないという制限もある。

 そういうわけで、コースケさんは俺に話を振ってきたのだろう。

 でもこんな交換条件なら大歓迎だ。 

 同じパンリス――『パンタシア』リスナーのこと――の頼みならお安いご用だった。

 だから俺は力強くうなずきながら「おまかせください!」と言ったんだ。

「ありがとう。ねるねるの直筆サインは狭き門だからね。協力者は少しでも欲しかったんだ」

 コースケさんはそう言ってにっこりと笑った。

 こんな年下の俺に、しかも同担でもないのに「ありがとう」と言えるなんて、さすがはねるPだな、と思った。

 ねるP、つまり綿津見わたつみねるのファンは『パンタシア』の中でも、熟練された、老練なファンが多い。

 自分たちが出過ぎもせず、かつそれでいてねるねの配信を盛り上げよう、という意識が普段のコメント欄からも感じられる。

 たまにねるねが視聴者参加型ゲーム配信をする時にそれは際立つ。

 つい先日こんなことがあった。

 ねるねがオープンワールドのファンタジーRPGをプレイしていた時のこと。

 ねるねのゲーム配信中、何人かのねるPがゲーム内に紛れ込んでしまったのだ。

 アクセスコードをねるねは公開していなかったので、紛れ込んだのは本当の偶然、または執拗なリトライの末のことなのかも知れない。

 ただそこからがねるPの真骨頂だった。

 ねるPはねるねがゲームをプレイするに当たって、特に絡もうともせず、ねるねに付かず離れず動いているだけだった。

 だけど、ねるねがHPが足りなくて死んでしまいそうになった時には、すかさず回復魔法を掛け、また大ボスと対峙して圧倒的にねるねが劣勢になった時には、ねるPがちょこっとだけ加勢する。

 だが倒すところまではしない。その手前ですっと引いてしまうのだ。

 最後はねるねがとどめを刺して大団円。

 その時ねるPたちは何をしていたかというと、丘の上でねるねの激戦をまるで我が子の成長を見守る親のように佇んでいたのだ。

 その姿はまるで賢者か仙人のよう。

 とまあ、ねるPはこんな風に『わきまえた』リスナーが多いんだ。

 『パンタシア』グループの中で、わきまえたリスナーと言われるのはねるPと、シャクヤクさんの赤備隊あかぞなえたいの『隊員』が双璧である。

 隊員のわきまえ方はまたちょっと方向性が異なるんだけど、それはまた別の時に語ろう。 

 そういえば、なぎさもねるPだけど、あいつもそういう意識高い系リスナーなのかな?

 まあ、それはともかく、今回は、スパチャだ。

「いくらのスパチャを送る? 次のダイヤちゃんの配信の時に送ってあげるけど、どんな文面かも考えて欲しいな」

 コースケさんがそう矢継ぎ早に問いかけて来た。

 スパチャは100円から5万円の金額内で送ることが出来る。

 せっかくの初スパチャ、100円じゃもったいないし、何万円もの大金を出せるほどの立場にいない。そうなると――

「ヒロトと同じ1000円で行きます!」

 1000円あれば、ゲーセンで100円ゲームが10回出来る。

 学校帰りにラーメンも食べることが出来る。

 でもダイヤちゃんに俺の想いを伝えられるということを考えれば、たいした投資では無い!

「文面は、ダイヤちゃんこれからも頑張ってください! ずっと応援してます――」

 と言いかけた時、コースケさんは右手のひらを大きく広げ、俺の目の前に突き出した。

「ちょっと待った。せっかくのスパチャの文面を、そんな今思いついたような言葉にしちゃって本当に良いのかい?」

「え?」

 戸惑い気味にそんな声を上げた俺に、コースケさんは言葉を続ける。

「幸いダイヤちゃんの配信は今日はお休みで、次の配信まで二日ある。もっとじっくり考えた方が良いんじゃないのかい?」

 「最高のスパチャをさ!」と熱く語るコースケさんに俺は無意識の内にこくりとうなずいていた。

 さすがは熟練のリスナー、コースケさん。

 言っていることはもっともだった。

 スパチャは確かに通常のコメントに比べると目立つ。

 でも俺の他にもスパチャを送るリスナーはたくさんいる。

 俺はそんなリスナーたちの中に埋没してしまいそうな、スパチャを送っちゃいけないんだ。

 たくさん送られてくるスパチャの中でも一際目立たなくてはいけないんだ。

 ダイヤちゃんに、俺を覚えて貰うためにも――

 俺は自分の身体の中に、闘志というものがめらめらと燃えてくるのを感じていた。 

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