第十話「ヒロトはローキに協力したい」
次の日曜日に、俺はヒロトと一緒に電車に揺られて隣町まで来ていた。
道すがらヒロトに「スパチャ送る方法ってなんなんだよ?」と問い続けたけれど、ヒロトは「まあまあ」とお茶を濁して、答えようともしてくれない。
く、もったい付けやがって。
歯をぎりぎりさせながら屈辱に耐えていると、やがてヒロトは電車を降り、駅の改札を抜け、駅前商店街の中を歩いて行った。
俺は戸惑いながらヒロトの後について行く。
商店街を抜けてしばらくすると、
「ここなんだけどさ」
と言ってヒロトは今にも崩れそうな廃墟の前で立ち止まった。
「は?」
どういうこと?
この廃墟の中に入るの? なんで? それがスパチャを送ることとどう繋がるの?
っていうか、そもそもどうやってスパチャを送るってんだよ!?
「こっからは無言な? ちょっとでも変なことしたらヤバイ」
「何がヤバイんだよ!」
「しっ!」
ヒロトは人差し指を口の前に持ってきて、怖い顔をした。
うぐ。
その真剣な表情を見て、俺は思わず口ごもる。
この先にいったい何が?
っていうか俺はどこに連れて行かれるんだよ!
雑草が生い茂っている庭を通り過ぎ、みすぼらしい扉の前に立つヒロト。
ヒロトは何者かに気付かれないように、慎重にノブを回す。
え? カギかかってないの?
きいいっ、と不気味な音を立てて扉が開いた。
ヒロトは俺の方を向いて、顎で俺に合図を送る。
『行くぞ』
その唇はそう動いたような気がした。
屋内に入ると、ひんやりとした空気が俺たちの身体を包んだ。
電気は点いていないので、薄暗い。
窓を通して入ってくる太陽光だけが頼りだ。
玄関には汚れた靴が不気味に転がっている。
しばらく誰にも使われたことのない靴だった。
先に目をやると、そこからフローリングの廊下が奥の方まで伸びている。
だけど当然奥の方は真っ暗で、何があるのかは判別出来ない。
ヒロトは緊張した面持ちで、靴も脱がずに玄関から家に上がる。
土足でいいの? とは思ったけど、こんなホコリだらけの廊下を靴下で歩いたら、一瞬で雑巾のように汚れてしまうだろう。
俺もヒロトに続いて靴のまま家に上がった。
ヒロトは真っ暗で足下に何があるかも分からない廊下を、突き進んでいく。
一度、なにかぐにゃぐにゃしたものを踏んづけたけど、あれはいったい何だったんだろう。
暗くて分からないし、確かめるのも怖いので、そのままスルーした。
「う!」
とその時、突然止まったヒロトの背中に顔をぶつけた。
「しっ!」
ヒロトは振り返ってたぶん俺に怖い顔をしたと思うんだけど、暗すぎて良く分からない。
どうやら行き止まりに突き当たったようだ。
で、恐らくそこに扉があるらしい。
ヒロトは慎重に扉の外側にある何かを探し、そしてそれを押した。
ぴんぽーん、という軽快な音が鳴って「はーい」という男性の声が扉の向こうから聞こえてくる。
は? なに? インターホン? なんで?
そして目の前の扉ががちゃり、と開いてこちらに光が差し込んできた。
まぶしくて何にも見えない。
顔の前で手をかざして、扉を開けた人物をなんとか確かめようとした。
すると――
「ああ、ヒロト。良く来たね。さあ、お友達も入って、入って」
扉を開けた何者かは、ヒロトの後ろにいた俺にも、そう優しく声を掛けた。
だんだん目が明るい光に慣れてきて、その人物の姿も見えるようになって来た。
三十代くらいの男性で、ハーフパンツとTシャツといったラフな格好をしている。
「ああ、ローキ、紹介するよ。俺の叔父さんのコースケおじさんだ」
その男性は、無精ひげがぽつぽつと生えた口元をにやりと歪めるとこう言ったんだ。
「初めまして、ローキくん。コースケっていいます。ねるPをやってるんだ」
と。




