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3話、新たな日々

 私の懐妊がわかってから、2ヶ月が過ぎた。


 季節は2月、真冬になっている。王都でも冷たい北風が吹く頃だ。私は相変わらず、アンドリュー兄さんやエレイン義姉さんの住まう王都の屋敷にいた。もう、5ヶ月目に入っている。お腹もちょっとだけ、膨らんできた。4か月と少し経ったら、生まれてくるのだと思うと不思議だが。

 そんなこんなで婚約を解消してからは、今迄以上にのんびりと過ごしていた。


 アンドリュー兄さんがある日に、私に釣書もとい、お見合い相手の肖像画などを持ってくる。いらないとは言ったのだが。目を通すだけでもいいからと兄さんは、客室のテーブルに置いて行ってしまった。仕方ないので、釣書に目を通してみる。

 まずはケルン伯爵家の当主であるらしい男性、肖像画も両手に収まるサイズの絵が添えてあった。穏やかそうな深みのある藍色の髪に淡い琥珀色の瞳の美男が描かれている。ふうんと思いながら、肖像画を眺めた。次は、サーヴァント侯爵家の次男に当たる男性だ。肖像画もケルン伯爵と同じくらいの大きさだった。栗毛色の髪に青の瞳の生真面目そうな若い美男子が描かれてはいるが。あまり、ピンとこない。最後に、セリア公爵家の三男たる男性だ。同じように肖像画を見てみた。黄金の髪に濃い紫色の瞳の正統派の王子様然とした超美男が描かれている。

 まあ、お顔立ちは皆様方、よろしいんだが。両親や兄さんはどんだけ私を面食いだと思っているんだろう。ちょっと、カッコいいなと思える方で一向に構わなくてよ?!

 あ、混乱し過ぎて言葉遣いが変になってしまった。ため息をつきながら、私は肖像画や釣書をテーブルに置いた。


 1週間後に、私はお見合いをすることが決まる。兄さんが言うには、かのケルン伯爵がお見合いの相手らしい。確か、深みのある藍色の髪に淡い琥珀色の瞳の男性だったか。年齢は今年で27歳らしい。詳しく聞いたら、奥方がいらしたらしいが。2年前に流行病に罹り、亡くなっているとか。子もおらず、独り身だとも言っていた。また、小さく息をつく。ソファーから立ち上がったのだった。


 心配したメイドのアニーが応接室まで、付き添ってくれた。今日はさすがに私も妊婦用とはいえ、デイドレスを着てお化粧もしている。まあ、踵が低い靴は履いているが。髪はハーフアップにしてある。


「お嬢様、何かあった時のためにドアは開けておいてください」


「わかったわ、心配をかけるわね」


「いえ、頑張ってくださいね」


 私は微笑みながら頷いた。アニーがドアを開けてくれた。小さく深呼吸をして、応接室に入る。一歩を踏み入れた。


 応接室の向かい側のソファーに、深みのあるまっすぐな藍色の髪を短く切り揃えた、淡い琥珀の瞳が印象的な目も覚めるような美男が腰掛けている。私はお腹が出てきているので、カーテシーの代わりに軽く一礼をした。


「……ああ、あなたがケリア子爵令嬢ですか?」


「はい、初めまして。マチルダ・ケリアと申します」


「頭を上げてください」


 柔らかくも低い声、男性が穏やかに告げた。私は言われた通りに、頭を上げる。


「今日は、遠方からご足労いただきありがとうございます。こちらから本来は、出向くべきなのですけど」


「気にしないでください、私も王都に用事がありましたから」


「そうですか」


「まあ、立ち話も何ですから。座ったらどうでしょうか」


「わかりました」


 私は頷いた。向かい側のソファーに腰掛ける。やはり、ケルン伯爵は綺麗な顔立ちをしているわね。ちょっと、見入ってしまう。


「本当に身ごもっていたんですね」


「え、あの?」


「……失礼、話では聞いていたのですが。半分、疑っていました」


 ケルン伯爵は、そう言って何とも言えない表情をした。私もどう答えたものかと困惑してしまう。


「本当に申し訳ない、失言でした」


「いえ、私はそんなに気にしていませんから」


「そうですか、では。ケリア子爵令嬢、お体に障ってはいけませんから。私はこれで失礼します」


「はい」


「……明日、手紙を送ります」


 伯爵は、そう言ってソファーから立ち上がる。応接室を去って行った。


 翌日、言葉通りにケルン伯爵から手紙が届いた。私はペーパーナイフを手に取り、封を切った。こう書いてある。


<ケリア子爵令嬢へ


 お元気ですか?


 昨日は、いきなり帰ったりして失礼をしました。


 お腹の子供さんも元気だといいなとも思いますが。


 さて、今日からしばらくは、領地に帰る事になりました。 


 それをお知らせしたいのもあり、手紙を書いています。


 それでは、またお会いできる日を楽しみにしています。


 敬愛するケリア子爵令嬢へ


 ダヴィッド・フェン・ケルン>


 手短に綴ってある。私は、読むと返事を書くために頭を働かせた。メイドのアニーを呼んだのだった。


 あれから、10日が経っていた。私は毎日のようにケルン伯爵と手紙のやり取りをしている。昨日は、手紙と一緒に冬に咲く白いシクラメンの花束が届けられた。これには驚いたが。伯爵は、母君に女性へのプレゼントは何がいいかを訊いたと手紙に書いていた。そうしたら、お花がいいのではと教えてもらったらしい。まあ、たくさんではなく、5、6本程がリボンで纏められた物ではあった。後で、アニーに言って花瓶に生けてもらったが。今も部屋を彩ってくれている。


「ケルン伯爵様から、お手紙が届きましたよ」


「あら、そうなの」


「はい、今日はお菓子も一緒に添えられています」


 アニーがそう言いながら、手紙と小さな紙箱を手渡す。紙箱は一旦、テーブルに置く。そうしてからペーパーナイフで手紙の封を切る。


<ケリア子爵令嬢へ


 お元気でしょうか?


 こうして、あなたに手紙を送るようになってからは返事が待ち遠しくて仕方なくて。


 今日は、領地の視察に行っていました。


 その際に、ケーキ店があったのでクッキーを買ってみたのですが。


 何でも、珍しいドライフルーツを生地に練り込んだクッキーだそうです。


 女性なら喜びそうだと思い、あなたにお贈りしたのですが。


 後で差し支え無ければ、感想を教えていただければ、有り難いです。


 それでは。

 敬愛するケリア嬢へ


 ダヴィッド・フォン・ケルン>


 内容はそう綴ってあった。紙箱は落ち着いた藍色でリボンも淡い水色の物を使ってある。私は早速、リボンを解いて紙箱を開けてみた。


「……あら」


「まあ、お菓子ですか?」


「ええ、ドライフルーツが使われたクッキーだそうよ」


 紙箱の中にはメッセージカードが入れられていた。手に取って読んでみる。


<ケリア子爵令嬢へ


 ケーキ店の店員に訊いてみたら、ドライフルーツは南国産のパインアップルという珍しい果物が使われているとか。


 気に入ってくださったら、良いのですが。


 D・ケルン>


 ケルン伯爵はなかなかに、几帳面な方のようだ。メッセージカードには簡単にクッキーについての説明書きがある。私は何だか、嬉しくなって笑ってしまっていた。アニーは驚いていたが。後で、クッキーを美味しくいただいたのだった。


 翌日、私は短めにお礼の手紙を書いた。


<ケルン伯爵様へ


 昨日は、珍しい菓子をありがとうございました。


 なかなかに美味でした。


 南国産のドライフルーツは初めて見たのですけど。


 お味は甘酸っぱいながらに、芳醇な感じでした。


 また、お礼の品を考えておきますね。


 それでは。

 敬愛するケルン伯爵様へ


 マチルダ・フェン・ケリア>


 そう締めくくると、アニーに言って封筒を出してもらう。中に便箋を入れてから、封蝋を施した。ケルン伯爵に届けてほしいと言ったのだった。











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