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2話、婚約者のエイベルとの話し合いと別れ

 あれから、1ヶ月が過ぎた。


 私の懐妊がわかってからだが。現在で、4か月目に入っていた。医師のイェール先生からも安定期に差し掛かっているから、ゆっくりなら外で散策も良いと言われている。まだ、そんなにお腹は大きくなっていないが。既に妊婦用のゆったりとしたドレスに、踵の低いヒールを履いている。義姉さんからのアドバイスだ。

 そして、兄さんはエイベルが今日にこちらを来訪すると告げた。ご両親のギリア伯爵夫妻も一緒らしい。私は懐妊している事を伯爵夫妻には、手紙で知らせていた。エイベルには内密にしていてほしいとも、頼んである。伯爵夫妻はかなり怒り心頭でいるらしい。それはそうだろう。

 もちろん、お2人には生まれてくるであろう子供の事でエイベルには責任を問わない代わりに、私が1人で育てるとも伝えている。ギリア伯爵は怒りがより強まり、夫人は悲しんでいたと兄さんは言っていた。

 1人で考え込んでいた。客室のドアがノックされて我に返る。返答すると、エレイン義姉さんが入ってきた。


「……マチルダ、時間が来たわよ」


「そうなの、行きます」


「私も心配だから、一緒に行くわ」


 私は頷く。ソファーから立ち上がり、エレイン義姉さんと2人で応接室へ向かう。


 客室を出たら、廊下でアンドリュー兄さんが待ち構えていた。義姉さんが私の右手をそっと握る。その意外な力強さと、温かさに不思議と勇気づけられた。


「マチルダ、俺も心配だから同席する。応接室には、家令や護衛の騎士も近い所に控えさせておいたしな」


「え、何で?」


「……もし、あいつがお前に手出しをしてきたら。男手が必要になるかもしれんしな」


「そうなの」


「まあ、そうならない事を願っておくが」


 兄さんはそう言って、苦笑いした。私もそれには同意だ。3人で応接室に行った。


 応接室に着くと、兄さんがドア越しに声をかける。家令が開けて、中に通す。


「……遅くなって、申し訳ない。お待たせしてしまったようですね」


「いや、今日は話し合いの場を提供してもらった事に感謝したいぐらいだよ。ケリア子爵」


「ギリア伯爵、今日は妹のマチルダも一緒ですが」


 先に入った兄さんがギリア伯爵と、言葉を交わす。次に義姉さん、私という順で入室した。

 私達がドアに背を向ける形で伯爵や夫人、エイベルのいるソファーの近くまで行く。そうして、向かい側にあるソファーの内、2人掛けの方に兄さんや義姉さんが腰掛ける。隣の1人掛けの方に、私が落ち着く。

 本来は握手やカーテシーをすべきなのだろうが。公式の場でもないから、伯爵方からも不平不満は出なかった。


「うむ、マチルダ嬢。愚息を許してくれとは言わん。ただ、本当に君には申し訳ない限りだ」


「……伯爵、いえ。おじ様」


「何だね?」


「私が身ごもっているのは、既にご存知かと思います。今日にお呼びしたのは、ギリア伯爵令息との婚約を解消したいからです」


「そうか、やはりな。父親はエイベルだね?」


 伯爵は沈痛な面持ちで、訊いた。私は頷いた。


「はい、ただギリア伯爵令息には責任を追及する気はありません。私がお願いしたいのは、生まれてくるであろう子供と引き離さずに。静かに暮らす事だけです」


「わかった、それは出来得る限り叶えよう。それと、婚約解消を君がしたいと言うだろうことは予想はしていてね。書類も持ってきているんだ」


「そうですか、わかりました」


 私が頷くと、伯爵は近くに控えていた執事に目配せをした。執事は速やかに、持っていた茶封筒から1枚の紙を取り出す。伯爵が受け取ると、テーブルに置く。それを兄さんの方に向けた。

 夫人は終始、うつむいたままで一言も発さない。エイベルも無表情で口を真一文字に結んでいる。


「ああ、これは。婚約解消の書類ですね。既にギリア伯爵令息のサインがなされていますが」


「そうだ、後はマ、ケリア子爵令嬢のサインがあれば。解消は成立するな」


「マチルダ、サインをするかい?」


「はい、今日はそのつもりで最初からいましたし」


「わかった、ペンとインクを」


 兄さんが指示をすると、家令が応接室を出ていく。しばらくして、ペンとインクを持って戻ってくる。私はペンを受け取り、インクをテーブルの上に置いた。兄さんが用紙をこちらに滑らせてくれる。受け取ると、用紙の一番下にある欄に自身の名前をサラサラと記入した。書き終えると、インクの蓋を閉める。家令に返した。用紙を伯爵の方に滑らせた。


「……ふむ、これで王宮に提出すれば。婚約解消は成立する。それでは我々はこれにて失礼しよう」


「ケリア子爵令嬢、うちのバカ息子が本当に悪い事をしたわね。今まで我慢を強いて、申し訳なかったわ」


「母上?!」


「……今からでも、遅くないわ。ケリア子爵令嬢に謝りなさい!」


「な、僕がこいつに?」


 エイベルもとい、ギリア伯爵令息は信じられないという表情になる。私はどうでもよくなって、彼に冷たい視線を向けた。


「あなたにこいつ呼ばわりされる謂れはないはずですけど」


「お前如きが僕に指図をするな。頭も悪いバカ女が!」


「……やはり、あなたとは合いませんね。お帰りください、エントランスはあちらです」


「くっ、僕の子供を身ごもったというのもお前の嘘だろう。お前なんかに手を出すはずもない!!」


「あら、そうおっしゃるのね。だから嫌だったのよ。あなたに伝えるのは」


 売り言葉に買い言葉だ。私が今までの憂さ晴らしをするかのごとく、言い募ると面白いくらいにギリア伯爵令息は噛み付いてくる。顔を真っ赤にさせて、ソファーから立ち上がった。テーブルを回り込んで、こちらにやって来ようとする。素早く家令が動く。大股で応接室を突っ切ると、私の前に立ち塞がる。


「お待ちください、お嬢様が懐妊なさっているのは事実です。だと言うのに、何をなさるつもりですか?」


「そこをどけ!」


「どきません、旦那様。いかがしましょう」


「……そうだな、ギリア伯爵令息は体調を悪くされたようだし。速やかにお帰り頂こう」


「わかりました、来なさい!」


 家令の一声で、騎士の2人がドアを開けて入ってきた。小走りでギリア伯爵令息を取り囲む。伯爵と夫人がソファーから先に立ち上がる。2人は令息を振り返りもせずに、応接室を去っていく。騎士がギリア伯爵令息の両腕を掴んで、拘束した。そのまま、引きずって連れて行かれる。私はそれを無表情で見送った。


 伯爵方が帰った後、私は大きくため息をつく。エレイン義姉さんがやってきて、肩に手を置いた。


「ご苦労さまだったわね、マチルダ」


「ええ、色々とありがとう。義姉さん」


「そうね、まだやることは残ってはいるけど」


 義姉さんは肩を竦めた。兄さんも立ち上がると、笑いかける。


「お疲れさん、後は新しい婚約者を選んで。お産に備える事くらいだな」


「あ、その2つが残っていたわ」


「まあ、今は難しく考えなくていい。お前だけの身体じゃないしな」


「うん、もう客室に戻るわね」


「そうしてくれ、後片付けは俺達がやるよ」


 私は頷くと、応接室を出た。廊下にてお世話をしてくれているメイド達が待っていた。一緒に客室へと戻ったのだった。


 あれから、1週間が過ぎた。

 兄さんが私を書斎に呼んだ。ちなみに、義姉さんも一緒だが。


「ミリー、伯爵から連絡が来てな。何でもお前とあいつとの婚約が無事に解消されたとの事だ」


「あ、そうなの。王宮に受理されたのね」


「ああ、これで一仕事終わったな」


 私やエレイン義姉さん、アンドリュー兄さんもほっと胸を撫で下ろす。その後、兄さんはポツポツと事の顛末を説明してくれた。


 まず、ギリア伯爵はすぐにエイベルを勘当したらしい。何でも、あの男は恋人の1人であったミランダ騎士爵令嬢も身ごもらせていたとか。伯爵はそれを知って堪忍袋の緒が切れたらしく、エイベルから貴族の身分も剥奪する。結局、実家を追放された挙句に平民に落とされてしまった。

 ミランダ騎士爵令嬢は両親の勧めもあり、とある子爵家当主に後妻として嫁いだ。その当主たる男性は、前妻を病気で亡くして独り身で長年いたらしい。ミランダ嬢の事情を聞いて、自分で良かったらと婿候補に名乗り出てくれた。今はその男性とミランダ嬢は、仲睦まじく暮らしている。母子共に無事にいるとか。兄さんの話によると現在、懐妊して8ヶ月に入っているらしい。今は真冬の1月だ。後、1ヶ月と少し経ったら出産の予定だとか。

 私はミランダ嬢と赤ちゃんが無事に生まれてくれたらと、願わずにはいられなかった。兄さんと義姉さんもそれには同意してくれたのだった。


 

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