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第1話「気が付けば異世界」2

(でも、白い馬……金髪の美女……何処かで見た事があるような? デジャヴって奴かしら)


 どう考えても普通の人生で味わう事が無いであろう場面でありながら、映美は不思議な既視感を覚えていた。それによって再び考え事に夢中になった映美を、馬上の美女は暫くの間見下ろしていたが、やがて困ったような顔で再び口を開く。


「弱ったな、返事が無い。見慣れぬ服装をしているし、やはり外国の者だろうか。おい、聞こえているか?」


 その問い掛けで映美は我に返る。未だ夢を見ているという認識である映美だったが、無視をするというのも流石に気が引けた。ゆっくりと立ち上がり、口を開く。


「ごめんなさい、少し考え事をしていました」


 その映美の言葉を聞いた美女は安心した様に息を吐くと、軽やかに馬から降りる。その身のこなしに、運動が得意ではない映美は軽く感動を覚えるが、同時に美女が腰に帯剣している事に気付いて胸がどきりとする。そんな映美の気持ちを知ってか知らずか、美女は映美に近付くと笑顔で口を開く。


「いや、気にしないで良い。だが、君はこんな所で一体何をしていたのだ?」


(何だか偉そうな話し方をする人ね。でもこの口調……やっぱり何処かで)


 美女の言葉を聞いて映美はそう思ったが、不思議と嫌な感じはしなかった。その口調に見合う高貴さが目の前の美女からは溢れている気がした。そしてその言葉から、少なくとも目の前の美女が自分を此処に連れて来た訳ではない事は分かった。無論、演技である可能性もあったが、そんな事をするメリットも特に無く、何よりそうしている様には見えなかった。


「それが、私にも分からないんです。気付いたら此処に居た、という感じで。此処は何処なのでしょうか?」


 初対面だが悪い人には見えない。そう思った映美は正直に答え、ついでに疑問も投げ掛ける。それを聞いた美女は映美を見ながら何かを考える様な間を少し空け、口を開く。


「そうか……不思議な事だが、嘘を吐いている様には見えないな。そういう事情ならば、私の事も知らないだろう。私はクリスチーナ・レン・イーストロード。このイースト王国の第一王女であり、かつ騎士団の長でもある。まあ、長ったらしいからクリスと呼んでくれて良い。そして此処はイースト王国の南部にあるサウザン平原だ。特に何も無いから旅人くらいしか通らない場所なのだが、だからこそ悪事にも使われかねない。そこで騎乗の訓練も兼ねて見回りに来たら、君を見付けたという訳だ」


 クリスの言葉を聞きながら、映美は衝撃を受けていた。先ず、こうもはっきりと意思疎通が取れるという事はこれは恐らく夢ではないという事に。そして地名等から考えて此処は元居た世界では無く、所謂異世界に来てしまっているという事に。それらは俄かには信じ難い事であったが、それ以上の驚きを映美は感じていた。


(クリスチーナ・レン・イーストロードに東の王国、サウザン平原。このちょっと安直な名前には猛烈に聞き覚えがあるわ。というか、私が書いている小説の内容そのままじゃない! えっ、私、自分が書いてる小説の世界に来ちゃったの? そんな事ってあり得る!?)


 漸く自分が置かれている状況を理解したが、それを直ぐに受け入れる事が出来ない映美の頭の中は混乱の極みと言っても良かった。尤も、この状況をすんなりと受け入れる事は誰にも出来ないであろうが。そうとは知らないクリスは、その混乱に伴う映美の動きを少々訝しく思いながらも続けて口を開く。


「さて、此方が言える事は概ね言ったと思う。差し支えなければ君の事も聞かせて欲しいのだが、頼めるかな」


 そのクリスの問いに対して、映美は即答する事が出来なかった。無論、自分の事が分からないという訳ではなく、何処まで話して良いかを即断しかねた為である。幸いにして頭の回転は悪くない方だと自負している映美は、どうすべきかを頭の中で考え始めていた。


(未だ偶然、私の小説と同じ名前が付いているだけの別世界に来たという可能性もあるけど、ほぼ間違いないと思って良いわね。だとすればクリスチーナに全てを正直に話した場合、設定通りであるなら恐らく信じてはくれる。でもその後どう扱われるかは分からないし、他の人に漏れた場合には尚更だ。私だって世界の全員の設定を考えている訳ではないんだから)


 そこまで考えた所で、あまり長く待たせてはクリスに余計な疑念を抱かせてしまうと判断した映美は、名前だけを伝えて後は覚えていない事にして乗り切る事にする。


「私は……エイミー。エイミー……ブリッジと言います。でも覚えているのはそれだけで……」


 しかし自身の本名を正直に伝えた場合、明らかに世界観とは合っていない為に今後怪しまれたりする可能性もある。すんでの所でそれに気付いた映美は、咄嗟に偽名を名乗る。それは自身の本名を英語風にしただけのものだったが、存外その響きは悪くないと思えた。


「そうか……何があったかは分からないが、それは難儀であろうな、エイミー。そういう事情であれば、行く当ても無いだろう。もし良ければだが、近くの村まで乗せて行くからそこで落ち着いて考えてみると良い。過去の事は直ぐには思い出せないかもしれないが、今後の事を考える事は出来るだろう。都まで乗せて行っても良いのだが、馬具無しでの長時間の騎乗は恐らく辛いだろうからな」


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