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第5章 第3話 打ち崩せ堅物!

「ちょっとお父さんあの未来って子、どうなってんの!?」



 早苗の新メイド、武藤未来さんの厳しすぎる価値観によって部屋を追い出されてしまった俺と斬波。斬波が武藤家当主の父親に電話しているが、あまり効果はないようだった。



「なに!? 従者の躾くらいできないと駄目っ!? そんなこと言ったら寺門さんを管理できなかった早苗のお父さんはどうなるの!? 黙るなぁっ!」

「もういいよ、斬波。お父さんに言っても仕方ないだろ」


「ジンが早苗に会えないと私が会う合法的な理由がなくなるでしょっ!?」

「あぁそうね……」



 とは言ってもどうするか……と思っていると、斬波が俺にスマートフォンを差し出してきた。



「お父さんが代われって」

「えぇっ!? お父さん!?」

「君にお父さんとは呼ばれる筋合いはないが、とりあえずひさしぶりだね」



 斬波のお父さんと話すのはつい最近のゴールデンウィーク以来だ。そう時間は経っていないとはいえ、緊張することに変わりはない。



「未来の件はすまない。君に不快な思いをさせたことだろう」

「いえお父さんに気にしていただくことでは……」


「君にお父さんとは呼ばれる筋合いはない。だが早苗様と結婚するということはこういうことだ。ああいう古い考えの者を説き伏せていかなければ、君たちの結婚は祝福されないだろう。それは君が一番知っていることじゃないか?」

「そう……ですね……」



 お義父さんやお義母さん、園咲家の人たちはみんな俺に優しくしてくれているが、それを支える武藤家の人たちは必ずしもそうではない。特に大人世代の人たちには。そのせいで俺の脚が動かなくなったといっても過言ではない。



「それ以上私から言うつもりはない。君は私の言うことを何も聞かないからね。よくばりすぎるし自分で行動したがりすぎる。それができるなら構わないし、できないのなら考えを改めればいいだけの話。そうだろう?」

「い……いえ……決してお父さんの言葉を無視しているわけでは……」


「君にお父さんとは呼ばれる筋合いはない。三度目だ。……とにかく、君が斬波を雇っている。その意味をよく考えることだ」

「……はい。ありがとうございます……」



 お礼を言うと同時に電話が切れる。仕事モードじゃないお父さんは怖いな……。



「お父さんなんだって?」

「斬波を使ってでも自分で何とかしろって。まぁ実際何とかなんだろ」



 斬波にスマートフォンを返し、車椅子に乗り換える。またお父さんの言葉を裏切るようで申し訳ないが、正攻法で武藤家と戦うつもりはない。今回の敵は、未来さんだけだ。



「それで、何の用でしょうか」

「早苗の朝食を持ってきた。文句あるか?」



 斬波に車椅子を押してもらい、俺たちは再び早苗の部屋に行って未来さんと対峙する。俺の膝の上には早苗と俺の分の朝食がある。



「主の朝食の世話もできないなんてメイド失格じゃないか?」

「そうですね。以後気をつけます。それでは」



 部屋の前で早苗の分だけの朝食を取り上げ追い返そうとする未来さん。



「助けてくださいジンくんっ! もう勉強なんてしたくありませんっ!」



 姿は見えないが、早苗の悲鳴が聞こえる。待ってろよ早苗……今俺が助けてやるからな……!



「勉強させてるのか? 早苗は勉強できないからな。なら俺が見てやるよ」

「いいえ、結構です。自慢ではないですが、私は全国2位の学力を持っているので」

「勝ったぁっ! 俺全国1位! ばーかばーか俺の方が上ぇっ!」



 ここに来てからというもののうざいとしか思われなくなった俺の唯一の特技! 園咲家は勉強に興味ないからというのが大きな理由だが、全国2位なんていう勉強ガチ勢なら悔しくて仕方がないだろう。と思ったのだが、未来さんの顔色は何一つ変わっていない。



「私は常に50位以内には入っています。ジン様はどうですか」

「え?」


「事前に情報を確認してまいりましたが、高1では100位~200位以内。それ以前だともっと低いでしょう。これが意味することは一つ。私の方が頭いいです」

「ああああああああっ!」



 クソっ! 作戦を完全にやり返されたっ! めちゃくちゃ悔しいっ!



「それと休暇中に本邸でお見かけしましたが、ジン様は勉強以前にマナーや常識について学んだ方が良いかと。箸すらまともに持てないようでは言語道断。最低限テーブルマナーくらいはできるようになってください」

「だ……だってしょうがないじゃん……。今まで箸なんて使ったことなかったんだし……」


「ジン様の家庭環境についてはよく聞いております。だからこそ学ぶべきところを学ぶべきでは」

「ぐぬぬぬぬ……!」

「ジンってほんと正論に弱いよね。私もだけど」



 何も言い返せないでいると、後ろの斬波がため息をついて口を開いた。



「あのね、後輩。まだ早苗のこと全然知らないよね? だから私たちが引き継ぎのためにも……」

「私の胸部ばかり見ている方に教わることなどありません。まずは性欲を抑えてください」

「おい斬波お前そんなキャラじゃなかっただろっ!?」

「しょうがないでしょジンのせいで本音隠せなくなっちゃったんだからっ!」



 仕方ない。当初の作戦通りに進めるとするか。これが駄目だったら一度退くしかないが……。



「クレープ! 食べたくないか?」

「は?」



 元々敵意に満ちていた瞳が理解不能なものを見るようなものへと変わる。



「お前ん家、田舎の方だろ? 偏見かもしれないけどそういうの食ったことないんじゃないか?」

「確かに私の家は神事や祭の管轄をしています。そういったものには無縁です。ですがそれでいいと思っています。人間はクレープ、などという嗜好品など食さなくても生きていけますから」



 そう語る未来さんの表情に嘘の色は見えない。だがこの言葉は未来さんに向けたものではない。



「クレープ! 食べたいですっ!」



 部屋の中から目を輝かせた早苗が顔を覗かせた。こうなったらこっちのものだ。



「早苗様、いけません。まだ朝食も済ませていないでしょう?」

「おいおい未来さんいいのか? クレープを食べるというのは玲さんとの約束だ。約束を破る結果になるが」

「ぐぬっ……!」



 約束という言葉を出すと、未来さんが悔しそうに歯ぎしりをする。正論を吐く相手への対処法。それはそれ以上の正論をぶつけることだ。これは早苗に拾われてから知ったこと。俺だって何も学んでいないわけではないんだ。まぁ約束は完全に噓だが。



「というわけで早苗は俺が連れ出す。お前もついてこないといけないわけだが、どうする? 未来さんの分も用意してもらうことになってるけど」

「しっ……仕方ありませんね。用意してもらったものを残すわけにはいきませんから……」



 少し顔を赤くし、目線を逸らしながら辛うじてそう言う未来さん。これで後は策を弄する必要すらない。



 堅物を崩すには、快楽堕ちだ。

斬波ちゃんのキャラがおかしなことになっています。完全にキャラが暴走しちゃってますね。


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