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第6章 第7話 兄妹

〇ジン




「あはははははっ! 似合わねぇぇぇぇははははっ!」



 早苗と斬波とおまけで俺の誕生日パーティー当日。早苗の祖父母と斬波の両親を迎えるためにエレベーターの前に立っていた俺は、扉が開いて目に映った人の姿に笑いをこらえることができなかった。



「うっざ……見んなし……」



 エレベーターの開くボタンを押しながら舌打ちをする少女の名前は須藤悪亜(すどうあくあ)。事情があって現在園咲家本邸で雑用をしている俺の実の妹だ。めちゃくちゃ嫌いだし二度と会いたくなかったが、こんな姿が見れるなら大歓迎だ。



「めちゃくちゃ良さそうな着物着てる……! 似合わな……!」

「しょうがないでしょ付き人なんだから!」



 女子高生らしくギャルギャルしていたアクアの姿はどこへやら。今のアクアは髪も黒く、顔は親譲りで良くて。良いとこのお嬢様だと言われても違和感がない仕上がりになっている。



「儂の付き人に文句でも?」

「い、いえ……またお会いできてうれしいです……」



 どういうわけか、アクアを付き人に選んだ早苗のおじいさんがギロっと瞳を向けてくる。そうだよな……俺だってアクアと同じ。身分不相応の役柄を言い渡された存在だ。決して笑えない。



「おじいさま、おばあさま、こちらに来てください!」



 ドレスを着た早苗と未来さんが会場の食堂へと祖父母を案内する。後は2人だ。



「斬波、誕生日おめでとう」

「私の誕生日なんて覚えてないでしょ」

「覚えてるさ。昨日も連絡したじゃないか」



 斬波とその両親が簡単な挨拶をする。だが斬波の態度はそっけないし、服だってメイド服から着替えない。今日は斬波の誕生日パーティーでもあるはずなのに。



「早く食堂行くよ。私なんかの案内なんていらないだろうけど」



 斬波が両親を食堂へと連れて行こうとすると、お父さんだけが俺へと寄ってきた。



「ジン君。斬波に何かしたか?」

「いえ別に……普通に仲良くしてますけど……」


「じゃあなぜ斬波が辛そうな顔をしているんだ。君は斬波を幸せにするんじゃなかったのか?」

「そう……ですかね……? 普通に見えますけど……」



 俺から見た斬波は仕事と私事の中間といった感じだ。特別不機嫌さを感じない。両親から見たらそうではないのだろうか。



「……まぁ常に幸せな人間なんていないからね。ただ約束を破ったら……わかってるね?」

「はい。俺は必ず斬波を幸せにします」

「君を信じよう。それに今君がするべきことは斬波のケアではないからね」



 お父さんが食堂へと歩いていくのと入れ替わりに。



「なんか……あんたと話してこいって」



 気まずそうな顔をしたアクアがやってきた。



「……お前と話すことなんてないんだけどな」

「あーしだって一緒だから。ほんとはこんなとこ来たくなかったし……なんであーしにこんな仕事やらせたんだか……」



 綺麗なエレベーターホールにいるのは、汚い本性を隠すように着飾った俺とアクアの2人だけ。これ以上来賓はいないし、ここには誰も訪れない。



「大方俺の身内だからだろ……言いたくないけど余計なことしやがって……」

「つーかさ、あーしも一応来賓なんだけど? もっと座れるとこ連れてけよ」


「お前にはここで充分だよ。ていうかここから動くなよ。お前が勝手に離れたら逃げたと思われる」

「はっ。一丁前にあーしの心配? 良い人ぶってんじゃねぇようぜー」



 憎たらしい言葉を吐き散らし、アクアは綺麗な着物のまま絨毯に胡坐でどかっと座った。



「……なんで隣座ってくんのよ」

「脚が痛いから」



 俺も綺麗なスーツのままアクアの隣に座り込む。



「……炎司(イフリート)は?」

「イフ兄は本邸にはいない。逃げ出したからもっと過酷なとこ送られたみたいだよ。あーしらと違って未成年じゃないしね」


「そりゃかわいそうに。ざまぁないな」

「つーかあーしの給料からあんたに入る分の金引かれてなかったんだけど。あれないとあのメイド雇えないんじゃないの?」


「お前はイフリートとその友だちを捕まえるのに役立ったからな。……その分で好きなもんでも買えよ」

「あんな田舎じゃ買えるものなんかないっての」


「知らないのか? ねっとしょっぴんぐ、っていう便利なシステムがあるんだってさ。日本全国どこでも……」

「知ってる知ってる。実際ネットで買ったしね。ほらこれ」



 アクアが俺に差し出してきたのは、青と白のストライプのネクタイ。袋にも入っておらず裸のままで渡してきた。



「なにこれ」

「誕プレ。……あんたの好きなもんなんて知らないからさ、こんなもんしか選べなかった」



 そう語るアクアは俺の顔を一切見ず、何の変哲もないエレベーターへと顔を向けている。



「ありがとう」

「ん」



 俺もそれに倣い前を向きながらお礼を言うと、そっけない言葉が返ってきた。その体勢のまま巻いていたネクタイをはずし、アクアからもらったものを着ける。



「馬鹿じゃないの? 絶対元のやつの方が高いから」

「値段なんてわかんねぇよ。着けたいものを着ける」


「あっそ。つか知ってる? うちのクソ両親。警察に出さずに船に乗せたんだってさ。金稼げって」

「……あいつらなら船から飛び降りて逃げ出すだろ。ちゃんと止めろよ」


「止めたけど、あーしの言葉なんて上司が聞くわけないでしょ。話聞きそうなあんたの彼女のジジイなんて今日初めて話せたし」

「そりゃ……俺たちはな」


「まぁだからなんつーか……気をつけなよ。あいつら、絶対復讐とかしてくるだろうから」

「……お前もな」


「あとそれと……誕生日おめでとう」

「ん」

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