第6章 第5話 望み
「プレゼントって何をあげればいいんだろうな」
多くの店を巡り、脚に限界が来たジンがベンチに座ってため息をつくように零した。
「早苗ならほしいものは買うだろ? もしいらないものだったら……」
「ジンからもらえたなら何でも喜ぶと思うけど」
「だからこそだよ。何でも喜んでくれるからこそ……ちゃんと喜ばせたい」
「真面目だねぇ……」
ジンの隣に腰をかけ、私も悩む。
「早苗が喜ぶものなんだと思う?」
その答えを言ってもいいものかと。
「そうだね……」
私はその答えを持っている。でもそれはジンからは出ない発想だろう。早苗は気づかないだろうけど、もしそれをあげたとしたら私のプレゼントになるわけで。
「プレゼントってそういうもんだよ。結局はあげる側の気持ちだからさ、たとえ答えが間違っていたとしても……プレゼントとしてはそれが正しいんだと思う」
結局出てくるのはありきたりなはぐらかしの答え。でも……それでいいのだろうか。私の役目はジンのサポート。ジンが望むことを叶えてあげるのが私の仕事で、私に許されることだ。
それを失ったらこの買い物は。ただのデートになってしまう。
ただ店を巡っただけ。楽しい会話もしていない。記憶に残ることだって。ただ何もしていなくても、幸せだという記憶だけが残るだけだ。それは……よくないことだと、思う。
「さて、私は私で早苗のプレゼント選んでこようかな」
私が今から行くのはジュエリーショップ。ジンがついてきてくれるなら、自然と早苗がほしいものを教えることができる。
1万円以内の、ピンクでハート型のアクセサリーがついたペアリング。それが早苗がほしいものだ。
ゴールデンウィークでジンの実親相手にした疑似結婚式。それがロマンチストな早苗にドストライクだったようで、空いた左手の薬指を最近よく眺めている。でも高級品がほしいのかというと、そうではない。ジンらしさ。安価で、ピンクでハートという女の子のステレオタイプっぽい普通に考えたらダサいやつがご所望の物だ。ずっと一緒にいた私にしか、このこだわりは伝わらないだろう。
「ごめん、ちょっと左脚がきつい。俺ここで待ってるよ」
「……そっか」
そうだよね。私の望み通りになんかいくわけないよね。
「じゃあちょっと、待ってて……」
「ストップ」
そう言ったジンの手元には、いつの間にか。ピンクの大きなリボンがあった。
「これ今日のお礼。さっき雑貨屋回った時に買っといた。誕生日プレゼントはまた今度選ぶよ。斬波の分のプレゼントも選ばなくちゃいけないのに斬波と一緒だとよくないからな」
……やっぱジン、センスないな。私ロックが好きって知ってるよね? 今日も白黒でまとめてるのに……こんな女の子女の子したピンク色の大きなリボンなんて。ダサいなんてレベルじゃないでしょ。
「ありがとう……!」
なのになんで、こんなにもうれしいんだろう。こんな……こんなの全然趣味じゃないのに……。無意識に手が動き、ヘアゴムを解いて髪を結ってしまう。
「どう……?」
「めちゃくちゃかわいい!」
「……そう」
やっぱりプレゼントに正解なんてないのかもしれない。こんな100円程度の布でもこんなにうれしいんだから。何をもらっても早苗は喜び小躍りするに決まっている。
「……もしもし、早苗」
ジンから離れ、私は電話をかける。
「ごめん……今日遅くなるから……。私とジン、夜ご飯いらないって言っといて」
「はぁっ!? ちょっ……ちょっと待ってくださいっ! ジンくんと何を……!」
もう駄目だ。抑えるなんてできない。もっとこの幸せを満喫したい。今の私にはそれしか考えられなかった。