第11章 第20話 理屈と感情
〇ジン
「ジン様、何をしているのですか!?」
「見ればわかるだろ。帰るんだよ。未来も手伝ってくれ」
別居先に戻った俺はすぐに荷物をまとめ帰り支度を始める。未来にもそう伝えたが、どうやら納得していないようだ。
「つまり……早苗様ではなく、玲様を選ぶということですか?」
「それ以前の問題だ。俺が帰る条件はエターナルを捕まえることだっただろ。それが完了したから帰るんだよ」
「で……ですがエターナルさんは早苗様と一緒に……」
「早苗をあんまり舐めるなよ。大前提として、玲さんを弄んだエターナルを許すわけないだろ。早苗は理屈よりも感情派だからな。学んだお礼で見逃すなんてことは絶対にしない。エターナルを許せない。その想いは消えないよ」
まぁその感情派が理屈を追い求めたからこんなことになったわけだが。
「それで……その後はどうするつもりですか……?」
「どうするつもりって?」
「それはもちろん……早苗様と玲様、どちらを選ぶのか、です」
「そんなもん決まってんだろ。玲さんを女性として見る」
そう伝えると、未来の身体がふるふると震え出した。これは理屈で感情を押し殺してるんだろうな。
「それはつまり……早苗様にチャンスはもう、ないということですか……?」
「チャンスはないってなんだよ。人の感情は当たり前に変わる。だからもう二度とそれっきりってことはありえないよ。俺がアクアを許したようにな」
ただ……まぁ……。
「現状、早苗と付き合うつもりはない。今の俺は兄貴たちを許せない。だからそいつらに頼った早苗も……悪いけど、信じられない。あいつらと楽しく談笑できるような奴とは付き合えない」
よし、荷造り完了。手で持てないものは後で車で運んでもらおうとしよう。
「じゃあ俺はリビングの方見てくるから……」
「待ってください!」
未来が俺を引き止める。何を言われても変わるつもりはない。なんて言うつもりはないが、今この時に限っては無駄だというのに。
「早苗様は……ジン様のことがまだ好きです。でも今のままではジン様とは付き合えない。そう思ったから、自分が成長するためにジン様に嫌われてでも、御兄弟と一緒にいることを選んだのではないのでしょうか……!?」
「……わかってるよ、それくらい」
早苗に悪意はないことはわかっている。いつまでも変われない自分に付き合わせるわけにはいかないからあえて嫌われて、玲さんのところに行きやすいようにしたことも。全部わかっているんだ。早苗が考えていることくらい、俺なら全部わかる。俺は早苗とは違い、どこまで行っても理屈派だから。だからこそだ。
「早苗はこれを望んでる。だったらそうするしかないだろ」
「……?」
未来はわかっていないようだが、それならそれでいい。どうせすぐにわかるのだから。
「大丈夫だよ。俺も早苗も、帰る場所は一緒なんだから」