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第11章 第19話 はじめての主人公 真

〇早苗




 この環境は最悪です。下ネタ? と思わしき変なことを言っているし、パチンコ台がなんちゃらとかよくわかりませんし、ゴミまみれですし、煙草臭いですし。真剣に吐き気がします。まぁ私が選んだ環境です。私にはこのゴミのような環境がふさわしい。



 ジンくんを傷つけました。根拠のない成長のために。でもそれでいい。私が何も変われなかった時に、ジンくんが後腐れなく玲のもとに行けるために。私が我慢すれば……。



「おい、飯」



 いつの間にか夕食時になっていたようです。エターナルさんが何か食べ物と思しき食事を持ってきてくれました。



「これは……カップラーメンですか?」

「ああ。嫌いか?」

「いえ、食べるの初めてなので……いただきます」



 木の箸……割り箸でしょうか。それを割り、食べてみます。



「……美味しいですが、特別美味しいわけではありませんね」

「そりゃそうだろ。カップラーメンなんだから」



 こういうのはもっと美味しいものだと思っていました。それだけ普段美味しいものを食べさせてもらっていたのでしょう。



「でもそんな暗い顔するほど不味くはねぇだろ。お前は笑ってた方がかわいいぞ」

「ちょっと。なに手出そうとしてんの」



 エターナルさんがそう言うと、アクアさんが守ってくれました。でもこれじゃいけないのは事実です。



「みなさんはどうしてそんなにクズなんですか」



 そう訊ねると、全員の視線が私に向きました。しかしひどいことを言ったのに、怒りの感情は見られません。



「俺らからしたらお前ら普通の人間がどうしてそんなに真面目なのかの方が気になるね」

「ねー。クズって言うけどさー、本能に従ってるだけじゃん。ギャンブルは楽しいし、お金は大事だし、異性と遊びたいのは生物として当たり前のことでしょ」

「クズの方がどう考えても楽しいだろ。真面目に生きてお前みたいになるくらいならクズの方がいいね」



 うわ、クズです。自分たちを正当化しました。



「ジンくんを傷つけたくせに……!」

「そりゃお前もそうだろ」

「それは……そうですが……」



 そう。私もこの方たちと同じです。同じ、クズ。



「でもだからこそ、それを隠したいんです。私は私のままにしていたらジンくんを傷つけてしまいます。ジンくんと一緒にいるには今まで通り……ジンくんの幸せのために行動しなきゃいけないんです。それでジンくんを幸せにできるならと思っていましたが……それなら私でなきゃいけない理由もないんです。斬波でも、玲でも。誰でもいいんです。ジンくんの彼女には私がふさわしいと証明したい……。でもそれだと……ぁぁぁ……」



 駄目です。言っていて自分でもわけがわからなくなってきました。自分が何をしたいのか、何をするべきなのか。環境が変わったところで私には……。



「難しく考えすぎなんじゃねぇの。お前はお前のままでいいんだよ」



 エターナルさんの優しい声が聞こえてきます。でも騙されません。



「そんな甘い囁きはいらないんです。言っときますけど絶対にあなたなんかとは付き合いませんからね」

「いやそんなの関係なくさ。好きなら好きでいいんじゃねぇの」



 ……言っている意味がわかりません。好きなら好きでいい? 言葉として成り立っていないような気がします。



「ようするによぉ、お前は塵芥と付き合いたいんだろ? だったらそれ以外のことなんていらねぇだろ」

「……玲はあなたに惚れていたと勘違いしていたようですが、残念でしたね。あなたは代用品です。ジンくんの代わり。それがあなたです。……玲はジンくんが好きなんですよ。斬波だってそう。私じゃなくたって、いいんです」


「だからそれがいらねぇって言ってんだよ。俺は昔イフリートの彼女寝取ったことがあるぜ? そいつとヤりてぇと思ったからな」

「そんなこともあったな。あん時は殴り合いしたっけ」



 エターナルさんとイフリートさんがゴミみたいなことを言って笑い合っています。



「なんですか? 私に玲と殴り合えとでも言うつもりですか?」

「そうだな。どっちも譲れねぇならそうするしかねぇだろ」


「そんな……馬鹿なんですか。そんなことしたって意味なんか……」

「じゃあ譲ればいいだろ? 玲に。それがしたくないからここにいるんじゃねぇのかよ。結局お前はその程度なんだろ。あの女なら無理矢理襲ってでも付き合おうとするだろうぜ。ガキでも孕めばその時点で結婚決定みたいなもんだからな。ま、俺は下ろさせるが」


「……本当に、最低」

「知ってるよ。でも本当に好きなら、それくらいの覚悟は必要だって話だ」



 ……本当に好きなら。玲を蹴落としてでも、ですか。その覚悟は私にはあるのでしょうか。



「……私はわがままだそうです。実際今までほしいものは全部手に入れてきました。そのための努力はしてきたんです。でもそれじゃ駄目だから……」

「わがままでいけない理由なんてどこにある。結局世の中は弱肉強食だ。強い奴は弱い奴を蹂躙できる。それを否定して理屈で雁字搦めになっている奴なんざ、食われて当然だ」



 エターナルさんが突然私の身体に覆いかぶさり、その顔を近づけてきました。アクアさんも動きましたが、わずかに遅い。



「俺もほしい女は必ず手に入れる。たとえ別の男の物だとしてもな」

「……そうですね」



 私は抵抗することなく、スカートのポケットに手を入れ、ボタンを押しました。その瞬間部屋の扉が開き、黒服の男たちが部屋に踏み入ってきました。



「な、なんだお前らっ!?」

「私の手の物です。私が無防備でジンくんを傷つけた人と一緒にいるとでも? ありえないでしょう」



 武藤家の人たちがあっという間に3人を制圧したのを見届け、私は服の乱れを直します。



「おい、夜まで世話してやっただろ!? その恩はどうしたよ!?」

「恩ならありますよ。でも先程のあなたの言葉通りです。……ですが本当は呼ぶつもりはありませんでした。感謝自体はしていますからね」



 でもそれは、昔の私……いえ。今の私の話です。でもこれからは、違う。



「私はジンくんを愛しています。ジンくんに幸せになってほしい。あなたたちを捕まえることがジンくんの幸せです」

「……結局、元通りってわけ?」



 手持無沙汰なアクアさんが訊ねてきますが、少し違います。



「以前の私は、自分の幸せをジンくんの幸せだと思っていました。だから間違えてしまったんです。私の不幸をジンくんにも押しつけてしまいました」



 ジンくんを幸せにするためのヒロイン。それが今までの私の役割でした。でもそうじゃない。私はヒロインなんて呼ばれるほど、性格のいい人間じゃありませんでした。



「ここからは私が主役です。ジンくんを幸せにするヒロインじゃない。誰と戦ってでも、私は私の幸せを手に入れる。教えてくれてありがとうございます。肥やしは肥やしらしく田舎に戻ってくださいね」

「……お前、ほんと性格悪いな」



 今そう言ったのは誰でしょう。エターナルさん? イフリートさん? トラリアルさん? アクアさんかもしれません。でも誰でも構いません。



「それが私ですから」



 今の私には玲も斬波もいない。ジンくんしか見えていませんから。

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