第11章 第16話 許さない
〇ジン
「……ここが奴らの潜伏先か」
トラリアルから電話を受けた俺たちはとあるアパートの近くで様子を確認していた。
「そこの201号室。どうやらエターナルさんの彼女が借りている部屋みたいです」
「あの浮気野郎……!」
どこかから情報を仕入れた杏子の説明に怒りが混み上げる。わかってはいたがクズだあいつ。どうしようもない。
「どうする。警察に電話するか」
「園咲家的にはあんまりよろしくないよね。もちろん危なかったら躊躇なく呼ぶけど……」
「関係ない。私が全員ぶっ潰す」
頭に血が上った斬波が拳をポキポキと鳴らす。実質それでいいんだろうが……。
「……ちょっと待ってほしい。あの電話、なんか変だったんだ」
「あーしも同意見。電話は聞いてないけどつまり、トラ姉のことでしょ」
アクアの言葉に頷く。何かが変だったんだ。
「昨日もそうだけどトラやイフリートがいつもと違うっていうか……敵意がなかった」
「……私が言うのはあれだけど、反省したってことでしょ。……ううん。反省って言うより、悪いことしたな、って、それくらい。生き方はきっと変わらない。私たちは一生クズだと思う。それでも塵芥に悪いことをしたなとは……思ってるんだよ」
アクアの言葉に同意したくないが、同じ意見だ。でなければ俺も昨日、あんなに油断しなかった。トラリアルから目を離すことなんてありえなかった。
「なんだろう。犯罪者を刑務所に入れるって、つまりそういうことなんだと思う。娯楽もない場所でただ働き続ける。頭に思うことはなんでこんな辛いことやってるんだろう。そんなことばっかり。そんなことを考えている内に、ひどいことをしたなって気づくの。……だからたぶん、早苗さんを人質に金を請求するとかそういうことじゃないんじゃないかな。みんな本質は変わってない。トラ姉はギャンブル好きだし、イフ兄はクズだし……私も、駄目人間のまま変わらない。それでも……そういうことなんだよ」
場が静まり返る。だが納得できない。俺は納得できないんだ。
「たかが数ヶ月真面目に働いただけで改心なんかさせるかよ。そんなもんじゃ済まさない。あいつらが何を考えてようが、知ったことか。俺はあいつらを許さない。……まだ、絶対に」
そうだ。それにエターナルだっているじゃないか。あいつは玲さんを裏切ったままだ。何も反省なんてしていない。だから報いを与えないと。玲さんが苦しんだ分を倍にして。後悔させなければならない。
「行くぞ」
どこか空気が緩くなったみんなに低く声をかけ、アパートの階段を上がる。201号室のノブを捻ると、開いた。それに気づいた斬波が駆け出す。
「早苗っ!」
俺を跳ね除け靴のまま部屋に押し入った斬波。俺も続くと、そこではありえない風景が広がっていた。
「あははっ。……あ、斬波、ジンくん。こんにちは」
早苗が俺の兄たちと談笑していた。