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あれから……

 ……あれから、もうすぐ一年か。


 桜が咲いて散り……梅雨が訪れて明けて……。


 暑い夏が来て終わり……涼しい秋が来て……。


 寒い中、受験の時期になって……年が明けて……。


 そして……今日(こんにち)に至る。








 ……よし!よし!


「よし!!」

「あったか!?」

「ああっ!」

「やったな!」

「あんがとな、アキ。一緒に来てもらって」

「なに、気にすんなよ。俺とお前の仲じゃねえか」

「……おう」


(良かった……これで、胸を張って綾に会える)


 無事に志望大学に受かった俺は、全身から力が抜けてしまう。


「おいおい、これからだろうに。ほら、学校行こうぜ」

「ああ、そうだな」


 泣いたり落ち込んだりしている人混みを抜け、俺達は校舎を出て歩き出す。


「ふぅ……」

「お前でも、緊張すんだな」

「当たり前だろ……いくらA判定だろうが、落ちるときは落ちる」

「だな……実際にそういう奴もいるし。でも、お前が頑張ったしな」

「そういうアキこそ、しっかり大学に受かってるじゃんか」

「まあ、俺はお前ほど高めは狙ってないしな。ただ、あいつに馬鹿にされるのは勘弁ならないから……それなりに頑張ったけどな」

「結局……どうなったんだ?」


(あれから一年近く経つが……俺自身忙しいのもあり、いまいちわかっていない)


「ああ……これから、告白してくる」

「……そうか、決めたのか」

「随分と待たせちまったけどな……もし振られたら笑ってくれ」

「ああ、安心しろ。そのときは、俺が一日中付き合うさ」

「持つべきものは友ってやつだな……よし、じゃあ——行ってくる」

「ああ、行ってこい——大丈夫さ、あいつは中学から四年も待っていたんだから」

「……本当に待たせちまったなぁ……」


 そう言い、アキは別の方向に向かっていく。


(アキ……頑張れよ)








 電車に乗った俺は、学校へと向かい……。


「冬馬!」

「ど、どうだった!?」

「おう、博にマサか——受かったよ」

「そ、そうか……おめでとう」

「おおぉぉ——! 良かったぜ!」

「二人とも、ありがとな」


 この二人には本当に世話になった。

 綾がいなくなって落ち込んでいる俺を、随分と励ましてくれた。


「これで、あとは啓介だけだね」

「あいつは国立大だからな」

「でも、平気だろ!」

「まあ、信じるしかないな」


 この二人も無事に受験を受かり、あとは啓介だけになった。

 卒業式前日にわかるらしいが……受かると良いな。

 そうでないと、交際は認めん。


(いや、別に付き合ってるわけでもないらしいがな。しかし、受験勉強を一緒にしたりしていたらしいし……どうなるかね)






 ひとまず二人と別れ、職員室に向かうと……。


「吉野じゃん!」

「吉野……その顔は受かったみたいね」

「ああ、お前達もか?」

「モチのロン! といっても、私は就職だけどね〜」

「ええ、問題ないわ」

「じゃあ、良い報告ができそうだな」

「お互いにね〜」

「兄さんに報告でしょ?」

「ああ、行ってくる。では、またな」


 小百合や智、そして綾は推薦組だから、とっくに終わってるし……。

 剛真も就職受かったし……飛鳥は専門学校いくらしいし。


(これで、ほとんどの奴らが終わったか……)


 そんなことを考えつつ、職員室に入る。


「おっ、来たか」

「どうも」

「……良かったな」

「そんなにわかりやすい?」

「ああ、言わなかったが……この間まで酷い顔してたぞ?」

「……なるほど。だから、みんながよそよそしかったのか」


(ここ数日は、確かに色々考えてしまったな)


 何せ——綾と同じ大学に行けるかどうかだったから。


「よく頑張ったな。清水は元々成績も良いし、生活態度も良い、さらには留学の経験もある。推薦を受けることは難しいことじゃない。もちろん、それまでの本人の努力があってこそだが」

「うん、そう思う」

「お前は二年の途中からだが、一流と言われる大学に受かった。十分に誇って良いことだぞ?」

「自分の頑張りは認めてるつもりだよ」

「そうか……なら良い」


 そう言うと、俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「ちょっと? ここは学校……」

「良いじゃねえか、この時くらい……兄貴分として祝わせてくれ」


 その目からは、涙が出ていた……。


「真兄……ありがとう」

「へっ……らしくねえが、嬉しいもんだな」

「真兄こそ、改めておめでとう」

「おう、サンキュー。今度、顔を見せてやってくれ——二人でな」

「ああ、必ずいくよ」


 その後、軽い世間話をして……退出する。


(真兄に子供かぁ……早くあってみたいな)


 真兄と弥生さんが結婚して、大体二ヶ月で妊娠が発覚した。

 そして、ついこの間生まれたばかりってわけだ。

 俺も受験があるから会ってなかったが……。


「綾が帰ってきたら、一緒に見に行く方が良いよな」





 その後、自宅に戻ってくると……。


「お兄!」

「ど、どうだ!?」

「受かったよ。二人とも、ありがとう」

「よ、良かったァァァ!」

「お祝いだぁぁぁ!」

「お、落ち着けって!」


 泣き出す二人を、何故か俺がなだめることに……。


 たけど、嬉しいよな……この一年、二人にも心配かけたし。


 でも、これで胸を張って……綾、君に会うことが出来る。


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