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結婚式前編

 綾との数少ない時間をのんびりと過ごしたいが……。


 こればかりは仕方がない。


 なんだかんだいっても、学生の本分は勉強な訳で……。


 ここで成績が悪いと、これからの受験にも響くし……。


 何より、綾の親父さんに心象が悪くなってしまう。


 というわけで、バレンタインデー後は勉強漬けの日々である。








 そして、無事試験も終われば……もう三月になってしまう。


 結果を受け取った、その帰り道……。


「終わったぁ……」

「お疲れさん」

「冬馬君こそ……終わったね」

「ああ、終わったな」

「終わっちゃったね……」

「「………」」


 気まずい訳でもないし、覚悟は出来ていたはずだが……。

 どうにも、別れが近いことを実感してしまう。

 寒さもおさまってきて……これから春になるというのに。

 別れを考えるだけで……とてつもない寒気に襲われた気分になる。


「桜……見たかったね」

「そういや、一緒に見たことないか。じゃあ、帰ってきたら花見でもするか?」

「冬馬君……うん! そうしよ!」

「おう。さて、いよいよ明日だな」

「ふふ、そうだね。私のために、本当に有難いね」


 三月に入ったということで、明日は真兄と弥生さんの結婚式がある。

 綾の出立前に合わせてくれた……本当に感謝しかないな。

 あと、一週間で綾は……もうやめるか。

 別に悲しい別れではないし、これからの未来のための時間なのだから。








 翌日、駅で待ち合わせをして……式会場へ向かう。

 こういう時、制服は楽で良いよな。

 学生は制服で参加って感じらしいし。


「うわぁ……初めてきたぁ……」


 白いチャペルを見て、綾が感激している。


「なるほど……綾的には、こっちの方がいいと」

「ふえっ!?」

「うん? ……もしかして、声に出てたか?」

「は、はぃ……」


(心の中で言ったつもりが……つい、出てしまったか。この際だ、勢いで聞いてしまうか)


「うむ……どっちが良い?」

「へっ?」

「その、あれだ……和風か洋風とかあるだろ?」

「え、えっと……どっちでも素敵です。冬馬君とできるなら……それだけで良いもん」

「そ、そうか……」

「冬馬君は?」


(……ウエディングドレスか、着物かということか。どっちも捨て難いが……)


「お互いに、何となく和装が似合うと思う」

「ふふ、冬馬君なんかは特に似合いそう」

「いやいや、綾の方が……」


 すると……。


「あらあら、こんなところにバカップルがいるわ」

「全くだね」


 振り返ると、二人がいた。


「おう、博か」

「加奈! おめでとう!」

「ふふ、ありがとう……あの兄さんが結婚かぁ……何だか、不思議な気分ね」

「全くだ……あの真兄がねぇ……」


 俺と黒野が顔を合わせてしみじみしていると……。


「清水さん」

「なに? 中野君」

「なんか、兄妹みたいだよね……あの二人って」

「ふふ、そうかも。両方、真司先生の弟と妹だもんね」

「じゃあ、私が姉ね」「俺が兄か」

「「………」」


 二人当時に言葉を発し、顔を合わせて黙り込む。


「ははっ!」

「もう〜! 二人ともおかしいよぉ〜!」

「これは、後で話し合う必要がありそうだな」

「ええ、そうね」





 ひとまず保留にして、会場入りをする。


 本当に身内だけの結婚式なので、限られた人数しかいない。


 しかも、どうやら俺達は早すぎたらしい。


 なので、談笑して待つことにする。





 そして、綾と博がトイレに行ったので、黒野と話していると……。

 こちらに、見かけない女性が挨拶に来る。

 すこし歳をめしているが、すらっとした綺麗な方だ。


「あのぅ……貴方が、冬馬君かしら?」

「は、はい、そうですが……」

「お母さんよ」


(……なるほど、この方が)


「お初目にかかります。吉野冬馬と申します。真司さんには、大変お世話になっております」

「まあまあ、噂通りしっかりした男の子ね……貴方には、是非お礼が言いたかったの」

「えっ?」

「あの子が言ったんです……私を許しはしないって」

「……そうですか」

「でも……もう恨みもしないって。それは、貴方のおかげだって……自分を慕ってる貴方が、前に進んでいるのに……その自分がカッコ悪いところは見せられないって………貴方のことを、自慢の弟分ですって」

「いえ、俺はなにもしていませんよ。真兄は、元々良い男ですから。今も昔も、俺の憧れの男です」


(そうだ……俺だってそうだ。真兄が、俺を自慢の弟分と思ってくれるから……俺も、そうでありたいと思うんだ)


「……ありがとうございます……うぅ……私は何もしてあげられませんでしたが……あの子は良い出会いに巡りあえたのですね……あの人たちのように」

「お母さん……ほら、洗面所いこ。せっかくの結婚式なんだから」

「そ、そうね……すみません、失礼します」

「いえ、また後でお話しできたらと思います」


 黒野はお母さんを連れて、部屋を出て行く。


「そういや……あの人達のように?」

「よう!」

「やあ、冬馬」

「蓮二さん! 淳さん!」


 入れ替わりで、真兄の親友がやってくる。


「おう、色々と大変だったみたいだな?」

「偉いね、冬馬」

「いえ……未だに悩んでばかりですよ」

「ははっ! それで良いんだよ」

「うんうん、俺たちだって似たようなものだよ」

「結婚かぁ……考えるよな」

「身近な人がするとそうですよね」


 俺は久々に会う二人に、色々な話を聞いてもらう。


 そう……この人たちだって、俺の兄貴分なのだから。

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