バレンタイン後半
学校に到着すると……。
男子から、とてつもない空気感が伝わってる。
ソワソワだったり、ギラギラだったり……。
みんな、なんでもない顔しているが……そういうことなんだろうな。
(ふっ、俺は綾から貰えたから余裕だな。これが勝者の余裕というやつか)
俺はいつも通りに窓際の席に着き……違和感に気づく。
「あん?」
「どうしたの?」
一月の席替えによって、隣になった綾が話しかけてくる。
最後の学期ということで、真兄が俺と綾を隣にしてくれたってわけだ。
他のみんなも、快く了承してくれたしな。
「いや……な、何でもない」
(机の中に何か入って……いや、これはまさか……だとしたら)
「……えいっ!」
「や、やめなさい!」
俺は抵抗しようとするが、万が一綾に怪我でもさせたらと思い……。
それを、呆気なく奪われてしまう。
「あ〜! チョコレートだっ!」
「いや、それは……」
(ん? 俺は何故悪いことをした気になってる? 別に俺が頼んだわけじゃないし、なにも問題はないはず)
「やっぱり、冬馬君モテるんだね……」
「まあ、関係ないがな——俺は綾以外に興味はない」
「はぅ……!?」
綾が机に突っ伏して悶えている……おい、可愛いじゃねえか。
「なになに!? どうしたの!?」
「綾を泣かせたら……」
黒野と森川がすぐにやってくる。
時間がないからか、最近はいつでも一緒にいるな。
「待て待て、俺は無罪だ」
「なるほど……チョコレートね」
「うわぁ……五個もあるし」
「おそらく、綾が居なくなることを狙ってのことね」
「ウンウン、しかも本気度が高そうだし」
「うぅー……」
「おい、俺の可愛い彼女を不安にさせるなよ」
(……しかし、手紙がないのは助かったな。あるのはただのチョコレートだけで、名前も書いてないし。これなら、返事をする必要もない)
「ふふ、そうね。綾、平気よ——それにいいじゃない」
「ふえっ?」
「付き合ってる男がまるでモテないなんて嫌よ」
「あぁーわかるかも。私だけが知ってるのもありだけど、あんまりなのもねぇ」
「そ、そうなのかな?」
「というか、モテても関係ないのだが? 俺は綾に惚れてるわけだし」
「あぅぅ……」
「それもそうね」
「私たちが見張ってるしね」
その後、昼休みの時間になると……。
「冬馬〜!!」
「飛鳥、うるさいわ」
「おっ、どうした?」
俺は席を立って、廊下に出る。
この二人が揃って俺を訪ねて……そういうことか。
「はいっ! 義理だかんね!?」
「言わなくてわかるでしょうに。ほら、私からも」
「おう、ありがとな」
すると、二人の視線が俺の席の紙袋に向かう。
ちなみに、あれは綾が用意してくれた。
「あれ〜? 今年はいっぱいあるね?」
「ミスターコンテストの影響でしょうね」
「あぁーなるほどね〜。まあ、中学時代は私が牽制してたしね」
「そうね。私と飛鳥がいて、女の子は寄ってこなかったし」
「おい? お前らが原因かよ……まあ、良いけどな」
「むしろ、冬馬はアキとのカップリングで人気が」
「やめい!」
「ふふ、そうだったわね。じゃあ、戻るとしましょうか」
「うん! じゃあね〜!」
「ったく……おう、またな」
飛鳥が去り、最後に小百合が俺に耳打ちをしてくる。
「冬馬……アキにあげたから」
「なに?」
「ついでに言うと……この間、告白もしてきたわ」
「ほう? ……どうなった?」
「ふふ、それは本人に聞いてちょうだい……じゃあね」
そう言い、小百合も去っていく。
「さて……俺も渡しておくか」
遠目から食べ終わってるのを確認して……。
席を立って、啓介の元に行く。
「おい、啓介」
「な、なに?」
俺らとは違う面子で飯を食ってる時は、なるべく俺らは近寄らないようにしている。
俺たちは気にしないが、啓介の周りの奴らが気にするからな。
「ちょっと話がある」
「目が怖いよ? はぁ……ついにカツアゲかな」
「ははっ! 言うようになったな!」
「痛いよ!?」
思わず背中を叩いてしまう。
「おっと、すまんすまん。あんたら、悪いな。少し借りるぜ」
啓介を体育館の横に連れ出し……。
「おい、これ」
「と、冬馬君から?」
「馬鹿言うな……麻里奈からだ」
「あ、ありがとう……貰ってもいいのかな?」
「貰わなかったら、俺がぶん殴るところだ」
「ハハ……じゃあ、有り難く頂きます。は、初めて女の子から貰ったなぁ……それが冬馬君の妹さんなんて……不思議だね」
「まあ……たしかにな。あの時カツアゲされてた奴がねぇ……」
(確か、この場所だったな。ヤンキーもどきに絡まれてたっけ……)
「あのね、この間……お金は全額返したよ」
「あん? ……ああ、親の財布からってやつか」
「お父さんには殴られたけどね……でも、その後に褒めてもくれた。よく言ったって……そして、よく返したと」
「そうか……まあ、あいつらが悪いんだけどな」
「そうかもしれないけど……僕が弱かったからだし、実際にしちゃったことには変わりはないから。だから、これで良いと思う」
「お前が納得してるなら良いさ」
啓介も成長したな……。
これなら、麻里奈と友達になるくらいは許してやるとするか。