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バレンタイン前編

 二年生の一大イベントである修学旅行が終わった。


 これで、あとは四月になるまで何もないかと思っていたが……。


 俺は、そういえばそんなものもあったなと思っていた。





「お兄! はい!」

「おお、ありがとな」

「お、お父さんには!?」

「はいはい、ありますよー」

「うぉぉぉ!! このために一年間頑張ってきたんだ!」

「もう、大袈裟だよー。たかだかチョコレート一つで……」

「バカいうな! お父さんの年に一度の一大イベントだぞ!?」

「えぇ〜めんどくさいなぁ」

「まあ、そう言ってやるなよ。ほら、親父遅刻するぜ」

「そ、そうだった! 俺の昼飯はこれで決まりだ!」

「ちょっと!? お父さん!?」


 親父はテンションマックスで家から飛び出していった。

 そう、本日はバレンタインデーというやつである。

 俺は正直言って、あまりピンときていない行事だった。

 なにせ、生まれてこのかた飛鳥と小百合からしか貰ったことがないし。


(……まあ、今年はもらえると思うけど)


 俺も準備を済ませ、家を出ようとすると……。


「お、お兄!」

「あん?」

「こ、これ……渡しておいてくれる?」


 その手には、気合のこもったラッピングされたものが……。


「……啓介にか?」

「う、うん……直接渡すのは恥ずかしいし……」


(妹が見たこと無い顔しとる! 親父には見せられんな……死んでしまう)


「そ、そうか……どうなってんだ?」

「……何も聞いてないの?」

「ああ、そういうのは良くないと思うからな。本人が話したいなら別だが」

「えへへ、お兄らしいね」

「あとは、啓介のことは信用しているからな。弄ぶような真似はしないだろうと。というか、そういうタイプでもないし」

「うん、そう思う。と言っても、何も進展というか……何もないんだけどね」

「ふーん……俺でよければ協力するが?」

「えっ!? お、お兄が? シスコンの?」

「まあ、可愛い妹に違いないが……何処かのチャラ男よりかは、あいつの方が数倍良いからな。親父も、きっとそう思うさ」

「い、言わないでよ!?」

「いうかよ。死人が出るぞ……俺は友達を失いたくない」

「わ、笑えないよね……」


(その場合は……俺が止めるしかあるまいな)


「まあ、とりあえず渡せば良いんだな?」

「う、うん……あと……ラインで感想くださいって言っといて!」

「わかった。送らなかったら、俺がぶん殴ると言っておく」

「ダメだよ!?」

「ククク、では行ってくる。啓介、覚悟するが良い」

「だ、大丈夫かなぁ?」


 俺は覚悟を決めて、学校へ向かうのだった。








 その道中にて、いつも通り綾と合流する。


「お、おはよ」

「おう、おはよ」

「あ、暑いね」

「いや、寒くね?」

「あ、あれ、おかしいなぁ……」


 手でパタパタと自分を仰いでいる。

 その頬は赤みを帯びていて、色気すら感じる。


(この顔にさせているのは俺だという優越感があるな……)





 そして、電車を降りて……。


 学校へ歩いているタイミングで……。


「と、冬馬君!」

「お、おう」

「こ、これ……バレンタインのチョコです! 受け取ってください!」


 両手で箱を持って、それを突き出してくる。

 その顔は恥ずかしそうで……俺の胸が熱くなる。


「は、はい!」


 俺は感じたこと無い感情に戸惑いつつも、それを宝物のように受け取る。


(誰だよ、さっきまで気にしてないとか言ってたやつは……こんなに嬉しいものだなんて知らなかったぜ……)


「えへへ〜良かった」

「うん?」

「だって、誕生日プレゼントはあげられないから……」

「綾……」

「だから、バレンタインくらいはあげたかったの」

「誕生日か……そうだな、俺は四月だからな」


 綾の出立は三月の十日……つまり、旅立ちまであと一ヶ月もない。


「もっと早く気づいてたらなぁ……一年の時とかに」

「どうだろうな?」

「えっ?」

「その場合、色々と違ったんじゃないか?」

「どういうこと?」

「最終的に綾とは付き合ったかもしれないが……友達関係や、真兄とか、弥生さんとか……そういったものを含めての出会いじゃないのか?」

「……そうだね。うん、そうだよね」

「あのタイミングだからこそ、今こうしているかもしれない」

「うん、きっとそうなんだよね」


(ふむ……綾はプレゼントを渡せないことや、祝えないことを気にしているのか)


「じゃあ、予約でもしとくか」

「ふえっ?」

「誕生日プレゼントは綾をもらうことにする」

「……えぇ〜!? そ、それって……」

「ああ、そういうことだな。だから、気にしなくて良い。それを楽しみに頑張るとするさ」

「あぅぅ……楽しみにされちゃった……」

「あっ、言っておくが無理強いはしないからな?」

「……へ、平気……冬馬君ならいいもん……何されても」

「ゴフッ!?」


(……恐ろしいカウンターを食らってしまった……思わず崩れ落ちるほどの)


「へ、平気?」

「お、おう……相変わらず恐ろしい奴め……」

「よくわかんないけど……えへへ、やったね」

「全く、綾には敵わないよ」

「冬馬君は、私にメロメロですもんねー?」

「……まあな」


 こんなやりとりも、あと一ヶ月後には……いや、それはいうまい。


 その笑顔を見て思う——今は、この目に焼き付けておこうと。



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