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修学旅行その四

 精神力を総動員しつつ、卓球台がある場所に行くと……。


「オラァ!」

「ふっ、甘いわ!」


 二人の男女が色気も何もない声を出し合っている。


「……何やってんだ?」

「あれって、小百合さんとアキくんだよね?」


 アキと小百合がガチバトルを繰り広げている。

 ギャラリーには飛鳥や智、剛真や森川もいる。


 すると、二人が俺たちに気づく。


「冬馬! 綾ちゃんだ! イエイ!」

「い、いえい?」

「綾さん、無視して良いですから。冬馬、貴方も来たんですね」

「よう、飛鳥に智。なあ、何だこれ?」

「アキが一人ぼっちでいるところに、小百合が絡みまして……」

「あいつってば、女遊びばっかしてたから、男の友達いないからねー。智と剛真とは一対一じゃそこまで仲良いわけでもないし。一番仲良い冬馬は、今は綾ちゃんの側にいないとだしねー」

「なるほど……」


(小百合のやつが動いたってことか? ……綾も含めて、小百合には世話になったし。どれ、軽く手助けてもしてみるか)


「綾、少しいいか?」

「ふふ、もちろん。冬馬君の、そういうところ好き」

「お、おう」


(いかん……ニヤニヤを抑えなくては)


「ヒュー!」

「こら、からかうんじゃありません」

「私も智好き!」

「えぇ!?」


 ひとまず、この二人は安心だな。

 このまま、上手くいくことを願うとしよう。



 人波をかき分けると……。


「あれ? 冬馬?」

「あら? どうしたの?」

「いや、めちゃくちゃ注目されてるぞ?」


 この二人は、学校ではほとんど接点がない。

 かたや女子にモテモテの男、こちらも女子にモテモテの女の子。

 いわゆる、敵対関係だと思われてる。

 当たり前だが、中学時代を知らない奴も多いしな。


「ちょうど良い。お前なら公平にやってくれそうだ」

「ふふ、そうね。いい加減、疲れてきたわ。全く、もう一度お風呂に入ろうかしら?」

「けっ、お前が風呂に入ろうがどうでもいいわ」

「あら、そんなこと言って……見たいんじゃないの? すっかり女日照りのアキクン?」

「あぁ!? 女日照りでも、お前なんかに興味があるか!」

「おいおい、一向に話が進まないが?」

「今から、こいつと勝負する」

「どっちらかが先に5ポイント先取するかをね」

「それで負けた方は、勝った方の言うことを聞くことになってる」

「そうなのよ……私、純潔を汚されちゃうわ」

「うげぇ……いらねえ……」

「……貴方の下半身をもごうかしら?」

「ヒィ!? お、恐ろしい女……」


(小百合も素直じゃないしな……アキも小百合には遠慮がないから、意外と上手くいくと思うのだが……まあ、くっつける必要はないが、手助けくらいならいいだろう)


「わかった」


 そして、勝負が始まる。


「この口悪女!」

「この軽薄男」


 小百合が取る。


「はっ! 男にモテないくせ!」

「いいわよ、 可愛い女の子にモテるから」


 アキが取る。


「くそ〜! 俺だってなぁ!」

「いつまでグジグジしてんのよ、アンタらしくないじゃない」


 小百合が取る。


「わ、わかってる! でもよ……」

「ふん、一度女遊びで痛い目見たからって」

「なっ!?」


 アキが精彩を欠く。

 小百合が取る。

 小百合が取る。

 小百合が取る。


「勝負ありだな。小百合の勝ちだ」

「クソ!!」

「ふふ、じゃあ——覚悟はいいかしら?」

「ああ、好きにしろ。あっ、待った、もぐのは勘弁してくれると……あん?」


 ……小百合の顔が見る見るうちに赤くなっていく。


「な、なんだよ?」

「べ、別に……」


(ふむ……らちがあかないか)


「アキ」

「あん?」

「小百合が、明日一日荷物持ちをして欲しいそうだ」

「と、冬馬?」

「小百合は生徒会長として、見回りもするんだろ?」

「ええ、そうね。もちろん、観光も楽しみつつね」

「はんっ、ご苦労なことだ」


 俺は、小百合に視線を送る。


「冬馬……コホン! では、アンタには……明日、私に付き合ってもらうわ」

「ちっ、仕方ねえ。負けたしな……わかったよ」

「決まりだな。じゃあ、俺はこれで」


 俺が立ち去ろうとすると、小百合が駆け寄ってくる。


「冬馬……その……ありがとぅ」

「なに、気にするな。お前には色々と世話になってる。綾の留学の件もな」


 生徒会長である小百合は、相手の受け入れ先と話したり、綾の生活態度などを報告したらしいからな。


「べ、別に大したことはしてないわ。綾ちゃんはいい子だから、なにも誤魔化すこともないし……冬馬は偉いわね」

「うん?」

「離れ離れになるのに、私のことまで考えて……私、頑張ってみるわ」

「そうか……ああ、応援してる」

「ふふ、ありがとう」




 俺が綾の元に戻ると……。


 綾は森川とおしゃべりをしていて……。


「おう、冬馬」

「剛真か。どうだ、森川とは?」

「う、うむ……クリスマスに……した」

「あん?」

「口づけを……」

「ああ、そういうことか。良かったな」


 俺は、ぽんと肩を叩く。


「これもお主のおかげだ。発散したかったら、道場で相手をしてやろう」

「まあ、その時は頼むよ。受験勉強ばかりしてたら、肩が凝りそうだからな」

「ああ、それが良い」

「お前も、相談があれば言えよ?」

「ああ、そうさせてもらおう。付き合いが長くなりそうだからな」

「お前が振られなければな?」

「ぐっ……善処する」


 ……みんな形は違うが、前へと進んでいる。


 これは、俺も負けていられないな。



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