そして……
そして、散々遊んだあと……。
「あっ、暗くなってきたね」
「えぇー!? お姉ちゃん、もう終わりなの!?」
「でも、私達子供だしね」
「お兄達はこのあと、どうするの?」
「まあ、ちょっと待ってろ。綾、ちょっと……」
「うん?」
綾の耳元で、こっそり言う。
「このまま、俺の家に連れて行って、飯でも食うか? そうなると、夜のデートは出来ないが……」
「うん! それが良いよ!」
綾は笑顔で即答した……俺は思わず抱きしめる。
「きゃっ!?」
「あぁー! お兄がイチャついてる!」
「お姉ちゃん顔真っ赤だよ!」
「も、もう……は、恥ずかしいよぉ」
「おっと、すまん。つい嬉しくなってな」
俺は幸せ者だ、こんなに理解があり同じ気持ちでいてくれる人がいるのだから。
「あぅぅ……」
「ちょっと、二人を見ててくれ」
「えっ? う、うん」
俺は喧騒から少し離れ、電話をかける。
「もしもし?」
『あら、冬馬君。綾と誠也は迷惑かけてない?』
「ええ、大丈夫ですよ。綾はもちろん、誠也もいい子ですから』
「本当にありがとうございます。旦那もいないし、私も忙しいからどうしようかずっと迷ってたの。流石に、二日連続では休めないから。今回、冬馬君が言い出してくれて助かったわ』
「いえいえ、俺にも妹がいますので」
『ふふ、そうだったわね。それで、何か用だったの?』
「実は、誠也がまだ遊びたいと言っているのですが……」
『あら……あんまりわがまま言うようなら』
「いえ、大したものではないですよ。それで、うちでご飯でも食べてもらおうかと思いまして……」
『……いいの? 私としては、すごく助かるけど。夜は、綾と二人っきりでイチャイチャするんじゃないの?』
「ええと……まあ、その予定ではありましたけど。というか、母親が言うセリフですかね?」
『ふふ、貴方のことを信頼してるからよ』
「それは……ありがとうございます。しかし、信頼を裏切るようで申し訳ないですが……ただ、イチャイチャしたら止まれない自信があるので。綾のお父さん挨拶する前に、それをしてしまうのは宜しくないかと」
『はぁー……相変わらず出来た子ね。言わなければわからないのに。私はともかく、夫は気づかないわね』
「まあ、そうかもしれないですけど……俺のわがままですね」
『ふふ、まあ良いわ。じゃあ、あとで迎えに行くわね。それまで、二人のことよろしくお願いします』
「ええ、お任せください。それで、お願いがあるのですが……」
とあることを頼んでみると……。
『……ええ、もちろん良いわよ』
「ありがとうございます」
通話を切って、綾達の元に戻る。
「どうだって?」
「ああ、俺の家で預かることになった。誠也、今からうちに来るか?」
「えっ!? 良いの!?」
「ああ、お母さんの許可は取ったからな」
「やったぁ! ねえ! ゲームしたい!」
「ああ、良いぞ。好きなゲームを選びな、相手してやるぜ」
「じゃあ、買い物行こっか?」
「そうですねー、そうしましょう」
遊園地を後にして、電車に乗り……。
俺の家の最寄りのスーパーで買い物をする。
「何にしようかなー。これと、これがあれば良いかな」
「ま、麻里奈ちゃん、すごい……」
麻里奈は食材を比べながら、サクサクとカゴに入れていく。
その姿は、周りの主婦と遜色ない。
「まあ、うちの台所を一手に担ってるしな」
「お姉ちゃん! アイス食べたい!」
「うーん……まあ、いいかな」
……なんか、いいな。
少し後ろで、三人の様子を眺めるが……。
「どうしたの?」
いつの間にか、綾が俺の顔を覗き込んでいた。
「いや——家族になったら、こんな感じかと思ってな」
「ふえっ? ……っ〜!」
「イテッ!?」
背中をばんと叩かれたようだ。
「も、もう! まだ早いもん!」
そう言って、二人の元に駆け寄っていく。
「ふむ……照れ顔は最高に可愛いな」
そんな当たり前のことを思うのだった。
買い物を済ませ、家に帰る。
「じゃあ、お兄は誠也君と遊んでて。わたしは、料理するね」
「あっ、手伝うよ……足手纏いかもしれないけど」
「いえいえ、そんなことないですよ! 嬉しいです!」
二人はキッチンに立ち、話しながら作業をしている。
こうしてみると……母さんがいた頃を思い出すな。
「にいちゃん?」
「おっと、すまん。じゃあ、俺らは大人しく待つとするか」
約束通りに二人でスマブ○をしたり、マリカ○をしたりして遊ぶ。
そのあとは、四人で楽しく食事をし……。
途中で、親父も帰ってきて……。
「よし! 今日から二人ともうちの子だ!」
「違うから! 両親いるから!」
調子に乗った親父をどつき……。
「でもでも! お兄と結婚すれば良いんだよね! そうすればお姉ちゃんができるもん!」
「そうなの!? 僕のお兄さんになってくれるの!?」
「えっ、あの、その、それは……」
「二人とも、落ち着け。俺たちはまだ高校生だ」
興奮する二人を宥め……迎えの時間がやってくる。
「どうも、お世話になりました」
「いえいえ、私は何もしていませんよ。出来た娘がやってくれましたから」
「麻里奈ちゃん、どうもありがとう」
「い、いえ! わたしもお姉ちゃんが出来たみたいで楽しかったです!」
「あらあら。誠也、いい子にしてた?」
「うん! ねっ!? にいちゃん!?」
「ええ、きちんと料理を運んだり、片付けたりしてくれましたよ」
「ふふ、なら良かったわ。綾、じゃあ先に帰ってるわね」
「えっ?」
「綾、少し時間をくれるか?」
「う、うん……」
綾をバイクに乗せ、ひと気のない丘に登っていく。
「この辺でいいか」
「と、冬馬君……?」
「正直言ってクリスマスは好きじゃなかったんだ」
「えっ?」
「どうしても母さんを思い出すから」
「そうだよね……」
「でも、今回は違った。麻里奈も親父も、本気で楽しんでた。それも、綾のおかげだ」
「わ、わたしは何も……料理だって足手纏いだし」
「そんなことないさ。麻里奈は喜んでたよ。親父とも……母さんが生きてたら、こんな風景だったのかなとか話したり」
「うん……」
綾は俺の手を握り、たわいもない話を聞いてくれる。
「まあ、その、なんだ……ありがとな」
「ううん! お礼を言うのはわたしの方だよ。誠也、すっごく楽しそうだったもん」
「そうか……あぁー」
「どうしたの?」
俺は覚悟を決めて、言葉を発する。
「綾、俺は……綾のお父さんに会ったら言うつもりだ——娘さんと結婚を前提にお付き合いしていると」
……言えた、あとは綾の返事を待つのみだ。