テスト返却日
それから数日が過ぎ……。
期末テストの返却日を迎える。
ふぅ……どうにか、キープはできたか。
無事に、学年総合の五位をキープできていた。
これなら、文句が出ることもあるまい。
張り出されている紙を眺め、一安心する。
「冬馬君! すごいねっ!」
「まあ、頑張った方だな。綾のおかげで、苦手な英語が出来たからな」
「私は下がっちゃったなぁ〜。せっかく、冬馬君が国語を教えてくれたのに。お父さんにも、説得材料になるかと思ったのに」
「そればかりは仕方ないさ。どうやら、相当悔しかったようだからな……なっ、智」
「まあね、連続記録を更新できなかったし。そっちと同じ理由で、飛鳥と付き合ったからとか言われたくなかったから」
「むぅ……なんか、愛の重さで負けたみたいで嫌です」
「綾、そういうのは比べるものじゃないさ。何より、前回は手を抜いていたというか……やる気がなかったんだろ?」
「ああ、そういうことだね。だって相手がいなかったから。清水さん、ありがとう」
「あっ、はい、こちらこそ」
智が握手を求めて、綾がそれに応じる。
……まあ、智なら許してやるか。
「なんか、温まってる所悪いけど……私いるからね?」
腕組みをした黒野が横にいた。
「おっと、黒野は三位か」
「また三位よ。まったく、嫌になっちゃうわ。博は上がったっていうのに」
……《《博か》》。
いつの間にやら、呼び捨てになっている。
あれから数週間経ったが、どうやら進展しているようだな。
俺と綾も今は敢えて放置して、見守るスタンスを取っている。
「博は四位だもんな。というか、トップファイブは俺の知り合いだな」
智、綾、黒野、博、俺の順に名前が並んでいる。
「まあ、あなたと博に負けなかっただけ良しとしましょう」
「呼んだかい?」
振り返ると、博がこちらに向かってくる。
どうやら、たった今学校に来たようだ。
「あなた、四位よ」
「うそ……ほんとだ」
「全く……運動神経も良くて、高身長でモデルみたいな体型で、イケメンで頭いいとか……どんだけハイスペックなんだか」
「「「「いや、それはブーメランだから」」」」
「あん?」
「冬馬にだけは言われたくないかな」
「そうね、鏡でも見てきたら?」
「冬馬君、もっと自覚を持って!」
「みなさん、無駄ですよ。冬馬は昔からこんなです、なので、色々と女性泣かせで有名でしたし」
「むぅ……」
綾が頬を膨らませている。
うん、すこぶる可愛い。
「智、俺は泣かした覚えはないが?」
「はぁ……清水さん、苦労するね」
「綾、しっかりね。何かあれば、私に言いなさい」
「清水さん、旧友として謝ります」
「おい?」
「ハハ……頑張ります」
釈然としないが……まあ、こういうのも悪くないか。
教室に入り、実際のテストの用紙が返される。
そして、休み時間になると……。
「なあ、冬馬」
「ん? マサか、どうした?」
「俺とも遊ぼうぜ!」
「あん?」
「博とかと遊んでんだろ!? ずるくね!?」
「いや、アレは……」
黒野と博を会わせるためだったし……。
いや、でも……そうだな、そういうことも必要だよな。
「じゃあ、テストも終わったし遊ぶか?」
「まじか!? 俺、明日なら部活もないぜ!」
「土曜日か……うん、俺もバイトもないしな」
綾に軽く目線を向けると、微笑んでいる。
おそらく、楽しんできてと言っているのだろう。
「じゃあ、俺も参加しようかな。少し気晴らしがしたかったし」
「良いぜ! ただ、三人で何するかだな」
「ぼ、僕も入れてもらって良いかな?」
視線では気づいていたが……自分から話しかけてきたか。
「ああ、俺は構わない。啓介も参加でいいか?」
「おう! もちろんだぜ!」
「うん、おれも平気。でも、この面子だと限られるね」
「うーん……とりあえず、所沢に集まるか? 確か、地元こそ違うが二人も方向は一緒だろ?」
「所沢だっけ? 確かに通り道だね」
「俺もそうだな。自転車でもいけるぜ」
「じゃあ、とりあえず駅前で飯でも食ってから考えるか?」
「賛成」
「同じく」
「ぼ、僕も」
「じゃあ、決まりだ」
詳しいことは帰ってから連絡することにして、その場は解散する。
そして、放課後になると……。
「おう、冬馬」
「真司先生?」
「少し時間はあるか?」
「ああ、平気。綾は、今日は女子会らしいし」
「お前、ちゃんと男友達と遊んでるのか?」
「一応、明日は男だけで集まるつもりだけど……」
「おっ、そうか。なら良いんだ。大概の人は離れ離れになるが、限られた友達は一生涯続くかもしれないからな。嫌じゃないなら、なるべく付き合うようにしたほうがいい」
「うん、わかってる。それを言いに来たの?」
「たまには教師らしいことをしようと思ってな。ただ、本題は……あの部屋に行くか」
「わかった」
真兄と共に、いつもの空き教室に入る。
「で、どうしたの?」
「うむ……クリスマスについてだ」
「弥生さんと過ごすんじゃないの? それとも、許可が出なかった?」
「いや、一応イブの日に会うことになっている。泊まりは無理だが、何とか十一時までは許された」
「へぇ、良かったね。あの親父さんが許すなんて」
「清水にも、礼を言わないといけないな。どうやら、バイト中に俺を褒めてくれたらしい」
「へぇ〜それは知らなかったな。まあ、妹の黒野とも仲が良いしね」
「それだっ!」
「はい?」
「クリスマスの夜に、お袋と三人で飯を食うことなってな……」
「そっか……迷ってる感じ?」
「どうなんだろうな……? 自分でも、よくわからん。ただ、逃げるつもりはない」
「じゃあ、どうしたの?」
「あ、あいつ、彼氏でも出来たのか? というか、中野がそうなのか?」
なるほど、本題はこれか。
そりゃ、担任なら色々と気づくわな。
……ここは、正直に言ったほうがいいか。
「うーん、微妙な感じ。ただ、そうなる可能性が高い。そして、俺と綾がアシストしてる」
「そうか……まあ、あいつは良い奴だし、お前が認めている奴なら安心か。今更兄貴ヅラするのも違うしな……少し、寂しいけどな」
「わかるわかる。俺も麻里奈に彼氏できたら寂しい」
そういや、啓介を連れて来てって言ってたな。
うーん、複雑である。
「そうだよな……そっか、あいつも高校生だもんな。ずっと小さいままだと思っていたが、そんなわけがないんだよな。冬馬、あいつは不器用でいじっぱりなところがあるから、フォローを頼む」
「ああ、できる限りのことはする」
うむ……いつの世も、お兄ちゃんというのは妹が心配なのである。