ダブルデート後編
博はしばらくブツブツ言っていた。
「えっと、名倉先生が兄ってことは? 黒野は会った時には黒野だったから……」
「まあ、色々とややこしいしな」
「そうだよね、私達との関係もあるし」
「そうか、二人は知ってだということだよね? 清水さんはわかるけど、なんで冬馬が?」
「あっ——ごめんなさい、吉野。貴方のことを考えてなかったわ」
「いや、気にすることない。俺も博になら言っても問題ない」
「とりあえず、もう一回座ろうか?」
綾の提案通りに、ひとまずベンチに座りなおす。
「まあ、詳しい話は後々にして、簡単に説明をするとだな……」
俺が名倉先生と昔からの知り合いということ。
そのきっかけが、母親が亡くなったということ。
黒野は幼い頃に両親が離婚して、母親の姓を名乗っているということ。
父親は行方知れずということ、兄とは最近になって交流を再開したことなどを話す。
「そっか……謎が解けたよ」
「何かしら?」
「いや、最近雰囲気変わったなって思ってたからさ。柔らかいというか、笑うようになったというか……」
「えっ? ……そ、そうかしら?」
「うん、てっきり彼氏でもできたと思ってたよ」
「い、いないわよ、そんなの」
「そっか……あの人がお兄さんなんだ」
「まあ、そんな感じだ。ほら、行こうぜ。詳しく聞きたかったら、また今度話すとしよう」
「そうそう! また四人で遊んでもいいし!」
「綾の言う通りね、それも悪くないわ」
「俺も賛成かな。冬馬、俺は何も言わないのが正解でいいのかな?」
「ああ、そうしてくれると助かる。可哀想なんて思ったらぶっ飛ばすからな?」
「わかった、何も言わない」
やはり、博もいい奴だな。
友達になれて良かったと思える。
これもそれも……綾のおかげなんだけどな。
「博、サンキュー。綾もありがとな」
綾の頭を軽くポンポンする。
「ふえっ? ……私、何かしたかな?」
困惑する綾の手を引いて、アトラクションへ向かう。
アトラクションの進歩ってすげえ!
「ひゃっ!?」
「うおー!」
「こ、子供騙しね……キャァ!?」
「うわっ!?」
3Dスクリーンから怪獣たちが飛び出す!
いや、飛び出すように見えている!
俺たちは車に乗っている設定で、怪獣達の足元を逃げ回る!
……少し疲れた。
「な、なんだあれ?」
「す、凄かったね……」
「舐めてたわ……」
「いや、びっくりしたよ……」
数年ぶりに馴染みのある遊園地に来たら、いつの間かあんなものまであるとは。
「さて……先に昼飯にするか?」
「そうだね、もうお昼時だし」
「賛成ね」
「俺もお腹空いたかな」
満場一致ということで、中にあるイタリアンレストランに入る。
ここは人気の店らしいが、今は空いている。
ひとまず席に着き、それぞれ注文をすませる。
「でも、あれよね、一番良い時にきたわよね」
「リニューアルしたばかりで綺麗だもんねっ!」
「それもあるけど、今日は平日だしね」
「まあ、普通は学校に行ってる時間帯だな」
「特別感って言ったら良いのかしらね?」
「ウンウン、わかるよー。みんなが授業してる時に遊んでるもんね」
「そういえば、俺達の学校の生徒もいたね。それに、同じクラスの奴もいたし」
「ん? そうなのか?」
「冬馬は交流を深めたのが最近だからね」
「まあ、吉野なら平気でしょ。来年もクラス替えはないし」
「良かったよねー。今のクラス楽しいもんっ!」
「どうせ、綾は吉野がいるからでしょ?」
「違いないね。もはや、恒例の行事だしね」
「も、もぅ……そんなこと……あるもん」
「ふっ……人のことを言えるのか? 二人して息ピッタリだが?」
「へっ?」
「はい?」
「そうだよねっ! 二人ってお似合いだもん!」
「ま、まさか、綾にからかわれるとは……」
「はは、ありがとうと言っておくよ」
「ちょっと? 随分と余裕ね?」
「い、いや、そんなこともないんだけど……」
黒野が隣の席の博に詰め寄る。
いや、気持ちはわかる。
急に近づかれると、それまでの余裕はどっかに飛んでしまう。
甘い香りとか、その瞳とかに神経を奪われるからな。
助け舟を出そうかと思ったが……タイミングよくきたようだ。
商品が来たことで、会話は中断される。
「さて、とりあえず食べちゃおうぜ。頂きます」
「そうだね、頂きます」
「まあ、そうね。頂きます」
「ほっ……頂きます」
食事が終わって、再びアトラクションに乗る。
バイキング、コーヒーカップ、オクトパス……。
その後、ひとまず目星を付けた物は乗ったので、お土産コーナーに入る。
そこは商店会のようになっていて、多種多様なお土産屋さんがある。
お土産屋さんを見ながら、ソフトクリームを食べる。
「あっ、ついてるぞ?」
「ふえっ?」
「動くなよ……ほら」
ほっぺに付いているソフトクリームを取ってやる。
「あ、ありがとぅ……」
「まるで子供みたいだな?」
「うぅー……少し楽しいだけだもん」
「吉野、綾は昔からこういうデートに憧れていたのよ」
「うん?」
「あ、あのね、冬馬君と二人きりも良いんだけど……友達とタブルデートみたいなのをしてみたかったの」
「ああ、なるほど。それで、今日はテンションが高いのか。早く言ってくれりゃいいのに」
「だ、だって……男の人はあんまり好きじゃないって雑誌とかに書いてあったから……」
「まあ、イチャイチャはし辛いものね」
「俺達も気まずいしね」
「綾」
「は、はぃ……」
「雑誌に載ってるのは俺じゃない。今度から、俺に聞くように。それに、別にイチャイチャするだけが恋人のする事ではないだろうし。綾が楽しければ、俺はそれを見れれば楽しい——わかったか?」
「冬馬君……うんっ!」
「あらま、嬉しそうな顔しちゃって……仕方ないわね、中野」
「なんだい?」
「可愛い綾のためにタブルデートをしてあげましょう」
「異論なしだね」
ひとしきり遊んだ後、遊園地をあとにする。
さて……あとは、俺が出る幕じゃないな。
博のタイミングもあるだろうし、暖かく見守るとしよう。