冬馬君はつい承諾してしまう
さて、後30分で仕事が終わろうとした時、それは現れた。
俺は、とりあえず冷静を装う。
何故なら、他にお客様もいるからだ。
これから言うのは、あくまでも個人的意見である。
よく店員とお客が知り合いの場合……こうなることないか?
「あ!誰々さんじゃん!ここでバイトしてたの!?」
「あ!何々君!そうなの!えー!偶然だね!」
……というような会話をよく見る。
まあ、このくらいなら良いとは思う。
後は暇だったり、他にお客様がいなければありだとは思う。
もちろん、店長から許可が出た場合の話だ。
だが仕事が疎かになったり、他の従業員の迷惑になったり、友達とずっと喋ったりする奴を見ると、俺はイライラする。
お金を貰っている以上は、しっかりと働くべきだと思うからだ。
従業員同士でも、仲が良いのが悪いとは言わない。
だがずっと喋ってたり、お客様が呼んでるのに気づかなかったりする。
それに静かに食べている人には、迷惑以外のなにものでもないからな。
長くなってしまったが、つまり俺の取るべき行動は……。
「お客様は、2名様でよろしいですか?」
「え?あ、そうだよね。はい、2名です」
「お姉ちゃん、知り合いー?」
「後でね、今お仕事中だからね」
ほう……わかっているな。
今、正直好感度が上がったぞ。
「では、席にご案内いたします」
俺は2人を4人用の席に案内し、仕事に戻る。
2人用は、埋まっているからな。
「何々?お友達?随分可愛い子だね?」
やたら嬉しそうだな……だが……。
「……店長、仕事してください」
「冬馬君の言う通りだな」
「はーい……」
めちゃくちゃ落ち込んでるな……ハァ、仕方ない。
「店長、後で話してあげますから」
「え!?よーし!お仕事頑張るか!あと、別に話しても良いからね!」
なんというか……憎めない人なんだよな……。
その後、黙々と仕事をこなしていると、清水が手を挙げている。
なんだか、恥ずかしそうにしているな……何故だ?
ちなみに、清水達以外のお客様はいない状態だ。
何故なら、注文に20分もかかっているからな。
「お客様、ご注文はお決まりですか?」
「ひゃい!あ!はい!」
おいおい……どうした?顔真っ赤だぞ?
「お姉ちゃんの、お友達ですか?」
……今は、お客様いないな。
モードを切り替えるか。
「ああ、そうだよ。同じクラスだよ」
「男嫌いなお姉ちゃんの友達!えっと、清水誠也って言います。よろしくお願いします」
うむ、礼儀正しく良い子だ。
こういう子は好きだな。
俺とは違い、捻くれてなさそうだ。
容姿も、ジャニー○系で俺とは正反対だ。
「ご丁寧にありがとな。俺の名前は、吉野冬馬だ。よろしくな」
「冬馬さんですね!はい!お願いします!」
「で、清水?大丈夫か?」
「う、うん。こういうとこ初めてで……」
「僕がお願いしたんだ。お父さんとお母さんが仕事でいないから、ラーメン食べたいって」
「なるほど、そういうことか。だから、注文も時間かかったのか」
「それは、また違うんだけど……」
「ん?どういう意味だ?」
「ううん!なんでもないの!……えっと、この味噌ラーメンをお願いします」
「僕も!後、餃子と炒飯も!」
「はいよ。じゃあ、少し待っててな」
俺は厨房に戻り、友野さんにオーダーを伝える。
「冬馬君、炒飯と餃子をお願いしても良いか?」
「はい、やりますね」
まずはフライパンに油を入れ、強火のままで放置。
次に餃子を専用機に入れ、タイマーをセットする。
炊飯器から米をよそい、卵をかき混ぜる。
油がパチパチいわなくなったら、卵を投入!
「すぐに米を入れてっと……」
フライパンを振りつつ、おたまで米と卵を絡ませる!
そしたら塩と胡椒を入れ、またフライパンを振る!
次に、焼豚とネギを入れる。
仕上げに、特性醤油ダレを少々入れる。
そして、軽く混ぜ合わせたら完成だ。
そのあとは餃子の水を切り、油を入れ蓋をする。
「友野さん、味確認お願いします」
「どれ……うん、美味い。合格だ」
よし!滅多に褒めない人に褒められると嬉しいよな!
1年かけて、ようやく合格が増えてきたな。
ちなみに不合格の場合は、俺のまかないになる。
「もう、上がりだろう?ラーメン食ってくか?俺のスペシャルだ」
そう言って、口角を上げる。
いやカッコいいわ、こういう人。
ちなみにスペシャルとは、店には出していないものだ。
調味料をブレンドして作る、友野さんオリジナル味噌ラーメンだ。
これが、物凄く美味い。
「マジですか!?食いたいです!」
「あいよ。じゃあ、餃子と炒飯出してあがりな」
「はい!ありがとうございます!」
俺はご機嫌で、清水達に提供する。
「どうぞ、召し上がれ」
「凄いね!吉野君!炒飯作れるんだね!カ、カッコイイと思う!」
「お兄さん、凄い!お姉ちゃんは何も作れないんだよ!」
「ちょっと!?」
「ほう、そいつは意外だ」
「はぅ……もう、誠也ったら」
「気にすることはないんじゃないか?誰にでも得意不得意はあるだろう。完璧な人間なんかつまらないぞ」
「吉野君……えへへ、ありがとう」
……悔しいが、いちいち可愛い奴だ。
「……じゃあ、ごゆっくりどうぞ。俺は上がるからな」
「あ、うん。ごめんなさい、邪魔して……」
「別に邪魔じゃない。それに……褒められて嬉しかったよ」
俺が裏に戻ると、店長がニヤニヤしていた。
「冬馬君、彼女なの?あの子、ずっと見てたよ?」
「違いますよ、ただのクラスメイトですよ」
「えー?あの目は違うよ。恋する乙女だよー」
「乙女って……店長、歳を考えてくださいよ……」
俺は、ロッカーを開けて着替える。
「うーん、勿体ない。冬馬君いい子だから、モテると思うんだけどなぁ」
「いやいや、今はそういうのはモテないですよ。じゃあ、飯食っていきますね」
「そうなんだねー。うん、ごゆっくりどうぞ」
俺は裏口を出て、表から入り直す。
すると、友野さんがこっちへ来る。
「ラーメンはあの席に置いたからな。なんだ、可愛いし性格も良さそうじゃないか。大事にしろよ?」
そう言って肩を叩き、厨房内に戻った。
……友野さん、貴方もですか……!
これは、しばらくからかわれそうだな……。
俺は仕方ないので、同じ席に着く。
もちろん、清水とは対面に座る。
「よ、吉野君!炒飯美味しい!」
何故か、清水の顔が赤く見える……気のせいか?
「美味しいです!」
「そうか、ありがとな」
俺は、ラーメンをすすったあとに答えた。
そして照れ臭くなり、誠也君の頭を撫でてしまう。
「うわっ……凄い、お父さんみたい」
「ん?どういう意味だ?」
「うちのお父さんは、海外出張してるの。だから、滅多に会えないから……」
そうか……寂しいよな。
生きていても会えないんじゃな……。
「でも、良いんだ。お父さんは頑張ってるもん」
「そうか……偉いな、誠也は」
「へへ、褒められた」
「吉野君……ありがとう」
その後、黙って食事をとる。
せっかくのスペシャルラーメンが伸びてしまうからな。
そして、食べ終わった。
いや……相変わらず美味いなぁ。
今なら、どんな頼みも聞いてしまいそうだ。
俺は、少し余韻に浸る。
「ほら!冬馬君!送っていかないと!」
「い、いいんです!迷惑かけちゃうので……」
「ダメだよ!危ないよ!娘がいる身としては心配だよ」
なんだ?人が余韻に浸っているというのに……。
「店長、うるさいですよ。よくわからないが、俺が行けばいいんでしょ?行きますよ」
「それでこそ、冬馬君だ!じゃあ、お疲れ様!また、よろしくね」
「え?え?……良いの?送ってもらっても……」
「わーい!僕も、もっとお話したい!」
……俺は、今なんと答えた?
送るとかなんとか……そういうことか。
仕方ない……一度承諾したものを反故にするのは、俺の信念に反する。
俺は、清水を家まで送ることになったらしい……。
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