文化祭その二
その後も、客を撃退しつつ、接客を続ける。
そして、お昼の前に少し休憩を取ることになった。
「綾はどうする?」
「わ、私は……裏で休憩してるね……」
綾は人気がえげつなかったので、その疲労度は他の人とは桁が違う。
なので、疲れてしまったようだな。
「そうか……俺は確認と、妹達を迎えに行ってくる。俺が戻るまでに、表に出るんじゃないぞ?」
「うん、わかった……」
あらら……相当疲れてるな。
何か、飲み物でも買ってくるとするか。
皆にその場を任せて、俺は教室から出る。
……なんか、めちゃくちゃ見られてるな……。
「ねえねえ!あれって!?」
「そうだよねっ!私あの人に入れたよ!」
「最近いないタイプの男前だよね!」
「うんうん!ガタイも良いし!」
「でも、やっぱり……」
「「「「「彼女一筋の硬派な男って素敵!!!!!」」」」」
……居心地が悪いな。
いや、しかし……これも綾のためだ。
俺がコンテストでそこそこの結果が出せれば、周囲も認めてくれるだろう。
一階の入り口に着くと……。
「おいおい……恥ずいな……」
俺の執事服姿の写真がデカデカと張り出されていた。
確か選考委員会っていうのがあって……残った10名から選ばれるんだっけ?
周りのざわつきを無視して、それらを眺めてみる……。
「おっ……以前、俺に絡んできた奴もいるな」
確か、綾に何度もしつこく告白した奴だ。
名前は……澤田拓海といったか?
しかも……あいつ——俺の悪口を書き込んだ張本人らしい。
証拠はないけど、小百合が調べた感じではそうだったらしい。
「もしや……あいつがストーカーなのか?」
最近は、近寄らなくなったとは聞いていたが……。
悪口も書き込めず、綾には近づけないから……とか?
いやしかし……それだけでは……まあ、用心はしておくとするか。
「さて……おかしいな。さっき着いたって連絡があったんたが……」
「やめてください!」
ん?なんだ?後ろを振り返ると……。
ガラの悪そうな連中に、女子が絡まれているが……あれは……。
「いいじゃんよー。こんなところに一人で来てるんだからさー」
「そうだぜ?ナンパしてくれって言ってるようなものじゃん?」
「はぁ!?私は弟に会いに……」
瞬時に判断した俺は、そいつらに近づき……。
「おい」
「あぁ!?イッ——!?」
肩に手を置き……力を込める!
「ここはナンパする場所じゃねえぞ?他の客に迷惑だ」
「な、なんだ!?てめーは!?」
「俺と待ち合わせしてる女性だが?」
「え?え?」
「悪かった!なっ!?」
「何ビビってんだよ?」
「バカ!こいつ力が……イテテ!?」
そいつは耐えきれずにしゃがみ込んだ。
「さあ?どうする?」
「わ、わかった!謝るから!」
「す、すみませんでした!」
「ほら、さっさと——消えろ」
「ヒィ!?」
「こいつなんか毛色が違うぞ!?」
そう言い残して、そいつらは帰って行った。
「か、カッコいい——!!」
「にいちゃんすげー!!」
「あれって写真の人だよね!?入れちゃおう!」
……どうやら目立ちすぎたな。
「あ、あのぅ……?」
「啓介に会いに来たんですよね?」
「え?弟のこと知ってるの……?いや、その前に……助けてくれてありがとうございました」
「いえいえ、同じバイトの人間ですからね」
「え?…………吉野君!?」
「ええ、そうです。どうも、恵美さん」
「へぇ〜……男前さんなんだね……あれ?あの写真の人……」
「恥ずかしながら、ミスターコンテストに出るもので……」
「じゃあ、私も入れちゃおうっと」
「ど、どうもです……内緒にしてくださいね?」
「友野さんとか店長さんに?」
「ええ、からかわれるので……」
「うーん……無駄だと思うけど……」
「はい?」
「ううん、わかったわ。私は言わない」
………何か含みのある言い方だなぁ……。
ん?メールがきたな……。
お父さんがトイレに行ってるから、私も行ってきます。
お父さんはアレなそうなので、少し時間がかかるそうです。
「なるほど……じゃあ、クラスに案内しますよ」
「え?いいの?」
「ええ、またナンパされたら大変ですからね。大事な友達のお姉さんですし」
「ふふ……啓介も言ってたし、店長さんや友野さんも言ってたけど……本当に良い男ね?」
「何を言っているんだか……まあ……可愛い彼女のために、そうでありたいとは思っていますけどね」
「あっ、聞いてるわよ。啓介から……とっても可愛くて。いつもラブラブだって」
「ハハ……あんにゃろうめ……」
そんな会話をしつつ、教室へ戻っていると……。
「あっ——!!冬馬!!」
「けげっ!?飛鳥!?」
「知らない女……浮気だっ!」
「違うわ!ボケェ!」
「綾ちゃんに言わなきゃ……!綾ちゃーん!!」
「待て待てい!!」
だが、陸上部エースのスピードは凄まじく……。
あっという間に消えて行った……。
「えっと……ごめんなさいね?」
「いえ、お構いなく。ああいう奴なんで」
恵美さんを置いていくわけにはいかないし……。
まあ、綾も信じたりしないだろうよ。
と、思っていましたが。
「と、と、冬馬君!?その可愛い人は誰なの!?」
俺は襟を掴まれ……締められています。
「お、落ち着けって!なっ!?」
「なんかヒーローみたいに守ったって!名前で呼んで歩いてたって!」
「飛鳥——!!てめー!」
「へへー、バイバーイ!」
「どうなの!?」
これは疑ってるとかではないな……。
興奮して、よくわかってない感じだ。
ならば……これしかあるまい。
「どうもしねぇ——俺が好きなのはお前だけだ」
「ふえっ?……あっ——」
耳元で囁くと……綾が崩れ落ちた。
「さて……落ち着いたか?」
「う、うん……あぅぅ……ごめんなさい!あ、あのね、別に」
「わかってる。綾が疑ってないことは。俺としては——可愛い綾が見れて大満足だ」
「はぅ……ずるいです」
「はわぁ〜……すごいわね」
「ほら、この方が新しいバイトの人だ。そんでもって啓介のお姉さんでもある」
「そ、そうだったんだ……ごめんなさい!えっと……初めまして、清水綾っていいます」
「こちらこそごめんねー。田中恵美です」
「で、肝心のあいつは?」
「えっと……確か、材料が足りなくて……」
「なるほど……恵美さん、ここで待っていると良いですよ」
「そうですよ!こんな可愛い方ですもんね!」
「本気で言ってそうね……そうさせてもらうわ。ありがとうございます」
「では、俺は妹達を迎えに行ってきます」
俺は再び、待ち合わせ場所に向かうのだった……。