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 ようやく、出発をして動物園に向かっているが……。


「真兄……偉いね?タバコの匂いがしないね?」


「バカ!言うなよ!昨日頑張ったんだよ!」


「いや、事前に真兄がタバコ吸うのは言ってあるから。もちろん、平気かどうか確認した後でね」


「フフ……私のためにありがとうございます」


「い、いえ!た、タバコを吸う男性は……?」


「嫌いではないけれど……その気持ちが嬉しいと思いますわ」


「そ、それなら、良かったです。まあ、俺もこんななりをしてますが……一応、こいつらの先生なんでね。タバコの匂いをつけて帰すわけにはいかないですから。だから、昨日は車の掃除で大変でしたよ」


「兄さん……だから、いつも……私がいる時は……」


「そういや……俺と綾がいる時も、絶対近くには来ないもんな……」


「確かに……そうかも」


「へぇ〜、名倉っちカッコいいじゃん」


「ステキな考えだと思いますわ」


「あ、はい……」


 ……真兄が照れている……新鮮だな。

 でも、やっぱり……尊敬に値する漢だと思う。




 その後、無事に動物園に到着する。


「さて……冬馬、どうすれば良い?」


「黒野……」


「わかってるわ。私はさっきので満足したから……弥生さん、もしよろしければ兄さんに付き合ってもらえないでしょうか?」


「か、加奈……!」


「……良いのかしら?詳しいことは知らないけど……あんまり会えないのよね?」


「いえ……綾と吉野のお陰で、これからは会えると思うので……今日は、兄をお任せします」


「フフ……良い妹さんね?」


「え?あ、はい……昔からそうでした。賢く聞き分けが良く……色々なことを我慢させてきた……加奈……いや、なんでもない……」


「兄さん……?」


 ……さて、真兄が言おうとしたことはアレかな?

 ということは……そろそろ、俺の出番かもな。

 あとでタイミングを見計らって話す必要があるな……。


 動物園の中に入り、真兄と弥生さんが並んで歩き出す。

 その後を俺と綾、後ろに黒野と森川が続く。

 ちなみに、真兄が全員分の料金を支払ってくれた。


 園内を散策していると……。


「へぇー、意外と面白いものですね。動物園とか子供の時以来ですよ」


「今回は、私の好きなことですみません……男の人には退屈でしょうか?」


「いえ!貴女といるならどこでも楽しめそうです!」


「フフ、そんなに気を使わないでくださいな。同い年なんですから」


「え?あ、はい……そうしますかね」


「それに……貴方のことは、昔から知っていますから」


「はい?……会ったことが……?」


「それは後にしましょう。私も、たった今気づいたことですから」



「わぁ……!可愛いね!ライオンさん!」


「か、可愛い……?カッコいいじゃなくてか?」


「え?可愛いだよ?」


「いや、可愛いのはお前だから。首をコテンと傾げて」


「はぅぅ……い、今は動物さんです!」


 ……うん、童心に帰ってる綾も良い。

 目がキラキラしてて、こっちまで楽しくなってくるな。


「高校生にもなってと思ったけど……意外とアリかも〜」


「確かにそうね。意外と楽しいわ」




 その後も親交を深めてつつ、園内を散策した。

 そして、ひとまず小休憩を取ることにした。

 今は、みんなで園内にある休憩用のテーブルを囲んでいる。


 真兄と弥生さんも話が弾んだようで、結構いい感じに見える。


「真司さんは、どうして教師になろうと思ったのですか?」


「大した理由じゃないんですが……まあ、見ての通りヤンチャしてきましてね。でも、別に悪さをしたいわけじゃなかったんですよ。エネルギーの行き場がなかったというか……でも、そういう奴って結構多いんですよ。家庭環境だったり、生まれつきの性質上学校に馴染めなかったり……そんな奴らを理解するって言ったらおこがましいですが……少しでも手助けができればと思いまして……」


「とても立派だと思います。だって……そこに救われた少年がいるじゃないですか」


「えっ……?」


「私は、冬馬君の中学時代を知っています。冬馬君のお母さんが亡くなったことも……そして、荒れていったことを……同じ思いをした男の子に、私は何も出来ませんでした……でも、ある時から明るくなっていたんです。その時に聞きました、何があったの?って。そしたら、兄貴と慕う人が自分を救ってくれたって……その時はわからなかったけれど……冬馬君、この人がそうなのね?」


 ……同じ思い……そうか、弥生さんは母親を……。

 だから、俺に優しかったのか……善二さんも……。

 やっぱりガキだな、俺。

 こんなに、俺を想ってくれてる人達がいることに気づかずに……。


「……はい、そうです。真兄が、自分ばかりが不幸だと思ってた俺を、暗闇から救い出してくれました。そして、綾という大切な女性と付き合う上でも、真兄が背中を押してくれました。でなければ、俺は踏み出せなかったかもしれません。照れ臭くて中々言えなかったけど……真兄、ありがとう」


「先生!私からも、ありがとうございます!冬馬君の背中を押してくれたから、私もこうして大好きな人と付き合うことができました!」


「お前ら……へっ、ガキンチョ共が……そうか……俺は、憧れてた大人に少しは近づけてたのか……」


「ええ、とてもカッコいいと思いますよ?」


「真兄はカッコよくて、俺の憧れる大人だよ」


「えへへー、私もそう思います!」


「よしてくれよ……ったく……今日は、そんな予定はなかったっつーの……」


「グスッ……アタシ、こういうのダメ……」


「何言ってるの……とは言えないわね、私も……」


 多少変な空気になったが、これはこれでアリだな。


 俺も、中々言えるタイミングもないし。


 ……次は、俺が真兄の背中を押す番だな。

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