反社
「はっ、はっ、はっ」
簡単に稼げると言われて振り込め詐欺の受け子になった。
「止まれー!」
それが間違いだった。直接会ってお金を渡すと言われて誘い出された先には警察が居た。逃げた。走って逃げた。で、今警察に追われてる。なんだよ絶対にうまくいくって言ったのに。全然うまくいかないじゃないか。だまされたのか。そもそもおかしかった。自分一人で行けなんて。言われたことをやっただけなのに。なんでこんなことに、なんで自分だけこんなことになる。いつもそうだ。いつもいつも。間違いだった。簡単に金が稼げるなんてそんな訳なかった。間違いだった。間違いだった。お願いしますお願いしますお願いします許してください。神様神様神様、許してください。許してください許してください許してくださいお願いします。間違いでした。間違いでした間違いでしたから。間違いだってわかりましたから。
「止まれー!」
「ひっ、ひっ、ひい、ひい、ひい」
警察はすごい形相で追ってきていた。捕まったら地面に倒されるんだろうなあ。地面に倒されて押し付けられて、上からのしかかられて、手錠とかされるんだろうきっと。抵抗したらなんか殴られたりとかもするかもしれない。蹴られたりもするかも。でも、今まで警察がそういうことをすることに対して何とも思っていなかった。抵抗したり逃げたりしたからそうなるんだろって思ってた。警察の暴行とか仕方ないと思ってた。だって悪いことしたんでしょ?って。捕まったらパトカーに乗せられて写真撮られるのかな。んで色々と言われるんだろうな。取り調べとかされるんだろうな。嫌だなあ。親にも電話されるんだろうな。ニュースとかになるんだろうか。ヤフーニュースとかになるのかな。ヤフーニュースの地域の欄に載るんだろうか。振り込め詐欺の受け子を逮捕。本名がさらされて、年齢がさらされて、パトカーの真ん中に乗ってる写真を使われて。
そしたら地元の友人達とかから電話とか来るのかな。ラインとか。もう実家には帰れないかなあ。実家に帰ったらなんか色々と言われるんだろうな。陰口とか、後ろ指さされるんだろうな。ただでさえそういうのが旺盛だからあそこは。そういう土地柄だから。もう誰とも話も出来ないような事になるのかな。実家の人達も引っ越しとかしないといけなくなるのかな。もう親とかも粗大ごみを見るような目で見てくるのかな。友達ももう会ってくれなかったりするのかな。
でも、
「止まれー」
それをしたんだよな。それをしたんだよ。そうなるような事をしたんだよな。間違いでした。間違いだったって気が付きました。
「ぐっ、ぐっ、ぐうう」
足が痛い。暑い。息が止まりそう。痰が。喉の奥に痰が。痰が絡んでる。間違いでした。間違いでした。悪かったですごめんなさい。捕まりたくないです。逃がしてください。もうしません。もう絶対にしません。間違いでした。間違いでしたから。
しかし、
「ぎい、いい、ひい」
しかしあの時、受け子になったら簡単に金が稼げると言われて誘われたあの時、あの時果たして間違いだと思っただろうか?
「簡単に金が稼げる。どうせ死んでもあの世に金は持っていけないんだ。だったら俺たちが使ってやったほうがなあ?いいだろ?そう思わないか?」
「ぐう、うう、うげえ」
ゲロ吐きそう。吐きそう。すでに胃液は何度も上がってきていた。辛い。酸っぱい。上がってくるたび地面に吐いたり、飲んだりした。
「待てーお前ー!」
ダメだもうだめだ。だめだだめだだめだ。もう無理走れない。走れない。捕まる。足止まる。もう足動かない。太ももが燃えるように熱い。もう上がらない。もう無理もう無理。どうにもならない。涼しい所に行きたい。酸素。酸素の涼しい所。涼しい酸素の所に行きたい。もう無理。もうだめ。ダメだと思う。ダメだ。
明滅する視界の中に交差点が見えた。小さい子供がよちよちと、低空を浮かんでる風船を追っていた。なんか最近よく見る奴。酸素とガスの配合をどうにかしたらああなるんだろうと思う。小さい子供がその風船を追ってた。馬?キリンかな。
キリン?風船を追って子供が交差点に降りた。信号は赤。え?車。車は?
車が向かってる。子供の方に。信号青だもんな。そら向かうよな。ああ、あぶね、轢かれる。
それからはとりわけ全部がゆっくりに見えた。
ただでも結論を言うと、気が付いたら子供を突き飛ばしていて代わりに自分が車に轢かれていた。
走って疲れていた。横になれる。よかった。
目を覚ました。空が見えた。起き上がると大草原の只中に居た。なんだどうした?車に轢かれて凄い飛ばされたのか?
「・・・」
呆然としていると目の前の草をかき分けて誰か出てきた。髪の赤い女の人だった。怪我をしているらしい片腕を押さえてる。血が出てる。
「なんだ貴様!」
女の人は片手で剣を構えた。マジか?これはもしかして・・・。
その後すぐに、周りから人間ではない。だからつまりファンタジー系の。なろう系の。なろう系でよくある最初の感じの。こういう奴の最初の所で出てくるような敵が。
だからあの、ゴではじまってンで終わる名称の。四文字の。マジックザギャザリングで言ったら赤のカードでよく出るクリーチャーの。
それが群れになって出てきた。
「くそ、追いつかれたか」
赤い髪の女の人が言った。なんでだろう?とてもゴで始まってンで終わる奴に、群れとはいえ負けるようなキービジュアルじゃないけどなこの人。声優さんも名のある人がやってそうだけど。沢城さんとか。負けるわけなさそうだけど。これが同人誌とかならいざ知らず。
そんでよく見たらゴブリン、あ、敵の群れの中にいったい頭巾をかぶって杖を持ってるやつがいた。魔法を使うビジュアルの。あれか?あれが原因なんだろうか?
「キイイイイ!」
で、なんかぼんやりしていると、そいつが魔法を唱えたらしく杖を天に掲げた。
「危ないっ!」
赤い髪の人がそう言ってこっち来た。飛びかかってきた。あぶね!
次の瞬間、その場に大量の電が降り注いだ。
死んだと思った。
でも、
死ななかった。電が当たると思ったらなんかキンっていって敵の群れの一匹に飛んで行って逆にそいつをやっつけた。
全部そうだった。
電は一つも当たらず、全部敵に跳ね返って行った。
「リフレク?」
FFでそういう魔法あったよね?あれか?
何で?
あ、反社だから?
反社だから反射?
あー。
気が付くと立っていただけで、敵は全滅していた。そこらへんからプスプスと煙が上がっていた。
「お前一体なんなんだ」
自分の事を助けてくれようとした赤い髪の女の人が立ち上がって言った。
「いやあ・・・」
いやあ、何でしょうかね。
わかりません。
わかりませんけど。
「ただ」
「・・・ただ?」
ただ、子供を助けてなろう系ってべたじゃない?大丈夫?