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朝食

 翌日、自宅前にて俺は二人を見送った。

 二人はまるで、ちょっと近所に買い物にでも行くようなテンションだから、まったく実感が湧かない。


「じゃあ、霜月さん。幸人を頼んだよ」

「は、はい……」

「襲われそうになったら、程々に去勢していいからね」

「わかりました……程々に」

「おい」


 そこまで息子が信用できないか。てか、去勢に程々とかあるのか。あとあっさり了承しないでくれ。

 そんなツッコミをする間もなく、二人はさっさとタクシーに乗り込み、行ってしまった。

 車の音が完全に聞こえなくなると、家の中は普段よりしんとしていて、耳が疼くような静寂が訪れる。

 しかし、今はそんな静寂を寂しいと思う余裕はなかった。


「「…………」」


 さて、どうしたものか。

 こうなってしまった以上、俺の一存で帰ってもらうわけにもいかないし、とはいえ年頃の男女が一つ屋根の下というのも……。

 いや、勝負に負けた以上、そこばっかり気にしていても仕方がない。

 まずは話しかけて、少しずつ……


「あの……」

「わひゃいっ!」

「…………」

「あ、ご、ごめんなさい……いきなり話しかけられてびっくりしちゃって……」


 どうやらハードルは高そうだ。ていうか、こんなんでメイドとしての仕事は大丈夫なんだろうか?

 なんか掃除中に壺とか割りそうだし、塩と砂糖間違いそうなんだけど……。

 前途多難な共同生活に、不安いっぱいになっていると、霜月さんは「あの……」と口を開いた。


「お食事にしますか?お風呂にしますか?それとも……」


 それはメイドじゃなくて、新妻じゃないのか?しかも今は朝だぞ?

 ていうか、それとも……って、まさか……!

 思春期男子特有の邪な期待が膨らむのを感じながら続きを待つと……霜月さんは、言いづらそうに言った。


「また寝ますか?」

「いや、さっき起きたばかりなんですけど」


 二度寝を許してくれる優しさは評価しよう。寝ないけど。


「で、ですよね……では、朝御飯の支度をしますので、少々お待ちください」

「手伝おうか?」

「い、いえ、ご主人様にそのような真似はさせられませんっ」


 首をぶんぶん振りながら断った霜月さんは、パタパタと速歩きでキッチンへ向かう。

 その後ろ姿を見ていると、果たしてこんな状況に慣れる日が来るのかが疑わしく思えた。

 ……ま、まあいいや。とりあえず流れに身を任せよう。


 *******


 手伝いはいらないとのことだったので、自分の部屋で緊張しながら待っていると、割りとすぐに「できました」とドアをノックされた。

 果たして……どんな料理が並んでいるのだろう?

 覚悟を決め、リビングのドアをゆっくりと開ける。


「おお……」


 そこには、いかにも朝食という感じの料理がテーブルに並んでいた。

 ぷるっと半熟の目玉焼きに、カリカリのベーコン。ほうれん草のおひたしに、キャベツやトマトのサラダが並び、味噌汁がいい匂いで鼻腔をくすぐってくる。

 いや、待て。

 まだ味はわからないじゃないか。

 俺の怪訝そうな視線を見た霜月さんは、不安そうにあわあわしだした。


「あ、あの……苦手なものとかありましたか?」

「いや、大丈夫ですよ。好き嫌いとかないんで」

「ほっ……よかったです。事前に聞いた通りでした。じゃあ、冷めない内にどうぞ」

「あっ、はい……いただきます」


 その辺は聞いてるんだな……父さん、母さん。余計な事言ってないよな?

 両親の口の軽さに一抹の不安を感じながら、とりあえず味噌汁を啜る。

 すると、自然に感想が零れた。


「……めちゃくちゃ美味い」


 な、何だ、この味噌汁……今まで食べたどんな味噌汁より……いや、比べようのないくらい……うっかり服がはだけたり、周りの服をはだけさせたりするレベルの美味さ……!!

 俺の感想に、メイド服がはだける気配のないまま、霜月さんは頬を染めた。


「あ、ありがとうございます……」

「ていうか、本当に俺の好みの味とか聞いてるんですね」

「ええ。お母様から、ご主人様の情報はほとんど……身長や体重……学校の成績……お宝の隠し場所……」


 おっと不穏な単語が聞こえてきましたよ?

 俺はベーコンと白米を口の中に押し込み、ゆっくり咀嚼して飲み込み、気持ちを落ち着けてから口を開く。


「霜月さん。お宝の隠し場所っていうのは何の事でしょうか?」

「……ご主人様の……エッチな本、34冊の隠し場所です」


 冊数まで把握していやがる!あ、あの母親、いつの間に!ていうか、メイドさんに報告する必要あった!?ないよねぇ!?


「えっと、あとは……」

「もういいです!もういいですから!」


 何だ!あとは何なんだ!?

 聞きたいけど怖くて聞けない!身に覚えもないし!

 結局、自分の秘密やら何やらを頭の中で確認しながら、俺は美味い朝食をゆっくり味わう暇もなく、さっさと平らげた。


 *******


「ねえ、本当に大丈夫かしら?あの二人……」

「大丈夫だよ。幸人は僕達の子だ。あの子ならきっと彼女を……」


 *******


 時計を見ると、いつも家を出る時間を少し過ぎていた。そろそろ出ないとまずい。

 すぐに身支度を整え、靴を履いていると、霜月さんがリビングから出てきた。


「それじゃあ、いってきます」

「あっ、私も行きます」

「いや、さすがに学校まで来なくてもいいですけど」

「いえ、わ、私も今日からご主人様と同じ学校に通いますので」

「……は?」

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