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前兆

 食事を終えると、夢野さんは早々に帰った。「あっ、やば!じゃあね!」と言ってたから、何か用事があるのかもしれない。

 玄関まで見送ると、彼女は「また来るからね!」と言い残した。

……えっ、このイベント2回目もあるの?

まさかの宣言に、やや胸がときめくのを感じていると、隣に立つ霜月さんの姿が目に入った。

その横顔は、どこか切なそうに見える。さっきのベッドの事を気にしているのだろうか。

夢野さんの姿が見えなくなったところで、俺は彼女に声をかけた。


「もう気にすんなよ。別に床でも寝れるんだし」

「……はい。あ、あの……よかったら私のベッドで寝ますか?」

「押し入れじゃねえか」

「いえ、あの、元の部屋というか……」

「気にすんなって。別にいいから」

「……はい」


 ********


ご主人様、怖がってた……。

もしかしたら、嫌われたのかもしれません。

こんな力……私でも怖いのですから……。

ぐっと握りしめた拳には、自分でも怖いくらいの力が篭る。

……私、ここにいていいのかな?

そう考えてから首を振った。元より居場所なんてなかったのだから、考えても仕方ない。

私は押し入れの中で、ぎゅっと固く目を瞑った。


 ********


 目を覚ますと、一階の方から物音が聞こえてくる。どうやら霜月さんが朝食を作っているらしい。

 その音につられるように下へ行くと、霜月さんはせっせと朝食を作っていた。

 自宅にメイドがいるという状況に見慣れたせいかもしれないが、つい後ろ姿にみとれてしまった。

 すると、霜月さんはこちらに気づいて、視線を向け、何故か首を振った。


「ご主人様、いけません」

「?」

「そねような目で見られても、ご主人様の熱い気持ちに答えられません」

「いや、誰も求めてねえよ」


 すっかり元通りじゃねえか。なんか心配して損したわ。まあ、そっちの方が気が楽だけど。


「少々お待ちください」

「ああ、先に顔洗ってくるからいいよ」


 俺は安堵を覚え、洗面所へと向かった。 


 ********


 クラスメートもすっかり霜月さんを見慣れたのか、初日の浮わついた空気は、すっかり雲散霧消していた。

 もちろんメイド服のせいで悪目立ちはしているが。

 たまに他のクラスから、一緒に写真を撮って欲しいと頼まれているが、それも直になくなるだろう。

 最初に撮影を頼まれた時……

「も、申し訳ありません……お友達の少ないご主人様を差し置いて」

 などと抜かした仕返しはいずれしてやりたい。

 こんな感じで普通の日常が続けばいいと思っていたのに……。

 

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