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メイドとゲーム

「あ、本当にあった」

「マジか。見せてくれ」

「あうぅ……」


 俺と横田は、霜月さんが動画共有サイトに投稿しているゲームプレイ動画を発見した。ちなみに、アカウント名は『美少女ゲーマーメイド』。まんまである。ていうか、自分でよく美少女とか名乗ったな。

 霜月さんの方に目をやると…………まあ、美少女に見えなくもない。肌も長い黒髪も綺麗だし。胸も割とあるし……いや、今はそんなのどうだっていい。

 気を取り直し、もう一度確認してみた。


「えっと……登録者、2名……」

「…………」

「ま、ま、まだ始めたばかりなので……」

「で、ですよね」

「そうだよ。ここからだよ、なあ」


 フォローになってるんだかよくわからないフォローをしながら、次は動画数を確認した。


「23本……思ったより上げてますね」

「あ、このゲーム俺も知ってる」

「さ、さあ、お二人とも……紅茶が冷めないうちに……」


 霜月さんが話を逸らそうとするのをスルーし、動画の再生を開始した。すると……


「ど、どうも……うぅ、暗い……今度ご主人様に電球を付け替えてもらわねば……」


 ……真っ暗で何も見えない。なんだ、これ。

 すると、ゲームの電源が入ったのか、ぼんやりと画面の明かりで彼女の輪郭が映し出され、なんかホラーっぽい。俺達は何を見ているんだ?

 そのままゲームの進行に合わせ、「ていっ」とか「えいっ」とか聞こえてくるが、問題はそこからだった。


「よし、ようやくここまで……行け、幸人っ、がんばれ幸人!」


 こいつ……俺の名前をキャラクターにつけてやがる!しかもなんかテンションたけえ!

 横田が隣で吹き出すのが聞こえ、それから霜月さんの小さな口笛が聞こえてきた。


「よし……幸人、そこっ。幸人!……ああ、幸人が死んじゃった」


 幸人が死んじゃった……じゃねえよ!このメイド独り言多すぎだろ!

 なんかもう他の動画の仕上がりも容易に想像できた。

 とりあえず、もう見なかった事にしよう。

 あとでキャラクターの名前については聞かせてもらうがな!


 *******


 気を取り直して楽しい楽しいゲームスタート。

 皆で大乱闘をするゲームをセレクトしたのだが、何故か二人は渋い顔をしていた。


「どした?」

「なあ幸人……自分から来といてなんだが、そろそろ○4から切り替えないか?」

「さ、さすがに古いです……」

「は?何言ってんの?」


 こいつらは言ってはならないことを言いやがった。

 俺は立ち上がり、二人に向き合う。


「○リオカートも○ンキーコングも○スタムロボ面白いだろうが!」

「……それは確かに否定できない」

「……むむむ、それはそうなんですが……」


 二人ともこちらの気迫に押されていた。俺にも譲れないものはある。

 2人は苦笑いしながら、コントローラーを握った。


「まあ幸人はレトロゲーム好きだしな。未だに○ームボーイやってるし」

「た、たしかに……ご主人様はレトロな顔立ちと言いますか……」

「どんな顔立ちだよ!」


 レトロな顔立ちとか初めて聞いたわ!よくわからんうえに、しっかりと失礼なニュアンスだけは伝わってきた。それだけは絶対に間違いない。

 あんま言うなら、さっきの動画をクラスメートに教えてやろう。


 *******


 結局そのままゲームをやりまくり、しばらくしてから窓の外を見ると、すっかり陽も落ちていた。

 それを見た横田は立ち上がり大きく伸びをした。なんだかんだ熱中していたようで何より。


「よし、そろそろ帰るか」

「おう、そうか」


 俺も立ち上がり、玄関まで見送るべく階段を降りる。その後ろを霜月さんがついてきていた。まあ、こうしてクラスの仲間と親睦を深められたのは、彼女にとっていいことだったんじゃないだろうか。


「じゃあ、霜月さんもまた明日学校でね。今日は楽しかったよ」

「い、いえ……帰り、お気をつけて」


 横田は爽やかな笑みを見せると、こちらにはサムズアップしてみせた。なんだ、何を期待しているんだ。

 玄関のドアが閉まると、僕は霜月さんの肩に手を置いた。


「それで、霜月さん。あのゲームの主人公の名前なんだけど」

「ひゃうっ!?あ、あのあの、私、食事の支度をしなければいけませんので……!」

「あとで大丈夫です。とりあえずじっくり話しましょう」


 その後、霜月さんは動画配信をしなくなったとか。


 *******


 最近、小さな楽しみが一つだけ増えた。それは……


「ご主人様、お、起きてください……朝ですよ」


 そう、この時間だ。

 霜月さんは朝起こす時だけ優しいのだ。他は余計な事しか言わないけど。とりあえず朝起こしてくれる時だけ優しい。

 不思議な事に、彼女から起こしてもらうと、すっと自然に起きれてしまうのだ。

 普段いかに失礼極まりない言動が目立つとはいえ、やはりメイドとしての能力は高いのだろう。

 だが何事も慣れた頃には気が緩み、ミスが起こりやすくなるもの。

 彼女のようなドジっ子メイドが何かをやらかさないわけがなかった。

 目を開けると、彼女の顔がすぐそこにあった。


「…………は?」

「…………あ」


 状況がよくわからず、目をぱちくりとさせてしまう。こういう場面って、もっとドキドキするもんだと思っていたんだが……普通にビビる

 すると、彼女は普段のように狼狽えるでもなく、何事もなかったように距離をとった。


「なんでもありません」

「まだ何も言ってないですけど」

「……あ、見てください。雀が飛んでいます」

「……えー……何ですか、その雑な誤魔化し方」

「し、失礼します!」


 霜月さんは、電光石火の如く部屋を飛び出した。

 僕はしばらくの間、ベッドの上で呆然としていた。 



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