第一回:実況と解説
「神々の皆様こんにちは! 実況の神です。『創世神になろうラジオ』の時間となりました! 今回も解説には解説の神をお招きしています」
「解説神です。この番組は全神共有チャンネルでお送りしています。どうぞよろしく」
「今回からは新しい世界の中継となりますが、その前に実況神さん、本番組について説明をお願いいたします!」
「はい。それでは例によって新規のリスナーの方のために、本放送について簡単に説明いたしましょう。この番組は『創世神になろう』で描かれる物語を中継するラジオ番組です。通称『なろう』で知られるこのサイトは自由に世界の投稿と閲覧ができるサービスで、現在約67万もの世界が投稿されております」
「いやー、改めて言われるとすごい数の世界ですねえ。しかも今この瞬間も次々に新しい世界が生まれ続けているのですから、その人気の高さがうかがえるというものです。さて、そんな無数の世界から今回選ばれた世界はこちら!
『クラス召喚で俺だけ無能? いや、隠された裏技で最強だ! ~チートを越えるチートで魔王も一撃で殺せる件~』
です!」
「どんなジャンルなのか一目で分かる良いタイトルですね。新着投稿欄でも目立つので、一定の注目が集まる事は確実でしょう」
「さて、時間も惜しいので早速この世界を覗いてみましょう! 五分前に生まれたばかりのこの世界は科学文明が発達した世界のようです。原子力を利用したり世界中に通信ネットワークを張り巡らせられる程度の科学文明を持っていますねえ。その代わり魔法が発展していないようです」
「よくあるテンプレ世界の一つですね。タイトルに『召喚』とあるように、ここから別の世界に舞台が移動するのでしょう」
「解説神さん、この物語の主人公が登場しました! 高校の教室にいるようですよ!」
「ちなみに高校というのは同年代を集めて教育する施設です。主人公のプロフィールは……人間の雄で17歳ですか。見たところ人間関係に問題を抱えているようです。他の人間の群れから暴行を受けている最中ですね」
「ああっ!? 突如として床に魔法陣が浮かび上がりました! おなじみの光景!」
「見事にテンプレですね。惚れ惚れする様式美です」
「舞台が変わりましてここは白い空間。召喚された人間たちが不安そうに周囲を見回していますねえ。……おおっと、ここで人間たちの前に神が現れました! 人間たちに能力を与えています!」
「この物語の創世神が自ら登場しましたね。戦う力が無い人間たちに能力が与えられるので、ストーリーがサクサクと進むのがポイント高いですね」
「最低限の事情説明と能力付与を終え、人間たちがまたもや転移しました! 今度は神殿らしき場所に来たようです!」
「先ほどの科学文明の世界ではないですね。剣と魔法の世界のようです。文明のレベルは低めですね」
「実況神さん、ここまではただのテンプレのように見えますが、見どころはありましたでしょうか?」
「そうですね、特にないです。ですが、この後が物語の重要な起点となるはずです」
「というと?」
「チートです。主人公の能力とその使い道によって戦闘物にも内政物にも生産物にもストーリーが別れ得ます。一体どんなチートを見せてくれるのかが見どころでしょう」
「なるほど! 白い空間では能力を付与した描写はありましたが、どんな能力かはまだ明かされていませんからね。おおっと、そうこうしている内にクラスメイト達が魔王討伐の意思を固め終わり、能力を調べ始めました! 主人公のクラスメイトはなかなか強力な能力を持っているようですね!」
「イケメンでリア充な生徒会長、不良グループのリーダー、ひそかに主人公に思いを寄せる幼なじみ系ヒロイン、特にこの3匹の能力が強いですね。どの世界でも主人公が一番最後に鑑定されるのはなんでなぜなんでしょうか」
「そしてついに主人公の番となりました! 明らかとなったその能力とは……『オール1』? 解説神さん、なんですかこれ?」
「……鑑定によると、ステータス値が全て1になると書いてありますね」
「ええー!? 弱すぎじゃないですか? 転んだだけで死にますよ!?」
「ですがなろう系というだけで安心感がありますね。どうせすぐ最強になるだろうという」
「主人公が早速無能扱いされています! 幼なじみは自分可愛さに遠くから見守るだけ! 孤立! いじめ! 差別!」
「素敵なヒロインですねー。きっと負けヒロインですよ彼女」
「そうこうしているうちに月日が流れ、主人公とクラスメイトはレベル上げのためにダンジョンに向かったようです!」
「ちなみに召喚されてからダンジョンに行くまで一ヶ月経っていますが、主人公はその間書庫でひとり情報集めをしていました」
「ああっと、主人公が転移罠にかかりました! 不良リーダーの仕業のようです!」
「どうやら不良リーダーは主人公の幼なじみを交尾の対象として見ているようですね。幼なじみが主人公に好意を寄せていることを知り排除したようです」
「主人公の転移先はー……ダンジョン地下100階! 一気に最下層です!」
「経験値の宝庫ですね。最強はもう目の前でしょう」
「早速レベル400のモンスターに襲われた主人公! 最早絶望では足りない程の危機です! 一体どうなってしまうのか!? というかなぜ主人公はレベル1なのに即死しないのか!」
「神ですら理解しがたい何かが作用しているのでしょう」
「せっかくなので現地の声を聞いてみましょう!」
『ふざけるな……なんで僕がこんな目に! 殺してやる! 俺の邪魔をする奴は、どんな奴でも赦さない……っ! うおおおおおっ! ぐはあっ! ぎゃああああああ!』
「主人公がモンスターに嬲られています! しかし諦めない! 何度吹き飛ばされようとも立ち向かっています! 解説神さん、なんで主人公はまだ死なないんでしょう?」
「……どうやら主人公のチートが効果を発揮しているようですね」
「というと!?」
「主人公のスキル『オール1』はステータス値を全て1にします。つまりHPも1で固定されるため0にならないんですよ」
「ええっ!? それって無敵じゃないですか!?」
「いえ、死なないだけです。モンスターに攻撃が通らなければ永遠に勝てません。ですがひょっとすると……」
『もしかして……このスキルはモンスターにも使えるんじゃないか? 試してみる価値はありそうだ!』
「おおっと! モンスターの動きが急に遅くなりました! 解説神さん、これは一体!?」
「モンスターのステータスを全て1にしましたね。そしてスキルを解除して、なぜかモンスターのHPは1に減ったままで、殴って殺して、はい、終わり」
「やりました! 主人公が使えないと思われたチートを駆使してジャイアントキリング達成! レベルが1から一気に93まで上がりました! そのまま他のモンスターとも交戦して順調に倒していきます!」
『いける! もうだれにも俺の邪魔はさせない! この世界で自由に生きるんだ! 邪魔する敵は全て殺す!』
「サクっと最強に至るのが爽快ですね。ここまでは順調な滑り出しです。となると次は戦闘以外で新展開があるかもしれません。実況神はどんな展開が好みでしょうか」
「そうですねえ……やっぱりヒロインですかね! 訳あって最下層に囚われているのを主人公が救出してエロ展開!」
『なんだ、この扉は……? ……!? 中に裸の美少女が!』
「ヒロインキターーーーーーー!!!」
「まだ分かりませんよ実況神。彼女の種族は魔人、どうやらこのダンジョンのボスのようです」
「早速戦いが始まりました! 有利なのは魔人の方です! 魔人がボス部屋全域を炎で満たしています!」
「主人公のスキルは敵に触れないと発動できないですからね。魔人は爆風で主人公を吹き飛ばして距離を維持しつつ飽和攻撃。さらに炎で視界を奪いながら酸欠状態に追いやっています。これは強い」
「主人公が床を殴りました! 崩壊するボス部屋! 何が起こったのか!?」
「ボス部屋の耐久値を1にしましたね」
「魔人の下半身が崩れた天井の下敷きになりました!」
『もはやこれまでね……殺しなさい』
「あっさり負けを認めましたね。主人公との力の差に気づいたのでしょう」
『なんでお前の言う事なんか聞かないといけないんだ。俺はここを出られればいいんだ。じゃあな』
「おおっと!? 刺さない! 主人公、ボスに止めを刺しません! 敵は全員殺すのではなかったのか!? 解説神さん、これはいったいどういう事でしょう?」
「一見すると主人公の行動方針がブレブレですね。ですが悪評価を出すのは早計です」
「どういうことでしょう?」
「たとえ納得できる描写が無かろうと、矛盾や違和感があろうとも、」
「はい」
「それは私たちの読解力の無さが原因なのです」
「ふぁっ!?」
「私たちには分からなかった何かがそこにはあるのです。もし誰かがこの物語をクソと評価したとしても、それは物語を楽しむ能力が自分に無かったと自白しているに過ぎないのです」
「なるほど! 物語がつまらないと感じるのは自分がつまらない神だから、という事なのですね!」
「その通りです」
「おおっと、いつの間にか魔人美少女が主人公と隷属の契約を結んだようです! これはヒロインか?」
「ヒロインですね。今後出来るであろうハーレムの1号で間違いないでしょう」
「なるほど、次のヒロインが楽しみですね! っと、どうやらこの辺りでお時間のようです。続きは次回! ということで解説神さん、何か最後にコメントはありますか?」
「そうですね、今回のボス戦のように、主人公のチートを以てしても苦戦する敵が次々出て来るでしょう。いったいどんな手段で主人公を脅かすのか、創世神のアイデアに期待ですね」
「なるほど、ありがとうございます! それではラジオの前の皆さん、次回の放送をお楽しみに!」
「……はいオッケー! 収録終了です。いやー、解説神さん、お疲れ様でした!」
「ええ、実況神もおつかれ様です」
「今回の作品はハズレですねえ。盛り上げるの大変でしたよ」
「今の所テンプレの教科書みたいな展開ですからね。この後のストーリーに期待できる、と解説しましたけど、正直不安しかないです。この世界の作者はちゃんと展開を考えているのやら」
「それなら次回の収録で聞いてみたらどうです? 次回はゲストに作者さんも呼んでるんですよ」
「マジですか。どんな人ですか」
「なんかへらへらと傲慢そうな神でした」
「……だめだな、そりゃ」
「やっぱ、ダメですかねえ……」