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5:長屋へようこそ

長屋は江戸時代末期のものをベースにしております。

「ここが本所かぁ…」



歩いて一時間弱。

私は本所にやってきた。

江戸時代に埋め立てを行ったこともあってか区画は整備されており、人通りも多い。

浅草に近いこともあってか、お寺なども点々と存在している。

袴姿の老若男女の人達が歩いており、この辺りは西洋風の建物はまだそんなに多くない。



江戸時代から明治時代への変わり目にある街…。



そんな空気が漂ってくる。

煎餅やみたらし団子を売っている露店も出ている。

販売営業をしているのだろうか。

小さい子供たちが集まって買っている。

氷売りや金魚売りの人も見かける。

まさに江戸時代の名残が残っている街だ。



「ごめんください…大家さんはいらっしゃいますか?」



そんな街の中で、私は新橋駅の掲示板に広告を出していた長屋を尋ねた。

丁度、この辺りに住んでいる女性が親切に場所を教えてくれたお陰でもある。

外壁を新しく立て替えたのか、白色の真新しい壁だ。

長屋の大家はすぐに見つかった。

大家の部屋はしっかりとした玄関を構えており、中々裕福そうであった。

玄関を三度ほど叩いてからごめんくださいと挨拶する。

数十秒後に出てきたのは、腰が45度ぐらいに曲がっており耳掛け部分を紐で補強された眼鏡をかけたお爺さんであった。



「こんにちは…何かようかね?」



「はい、新橋駅で長屋の入居人を募集している広告を見てやってきたのですが…まだ部屋はあいておりますでしょうか?」



「おお、そうですか。大丈夫、まだ空いておりますよ」



「本当ですか!良かった…実は入居を希望したいのですが…」



「ええ、いいですよ。ただし前金として3円いただきますがよろしいでしょうか?」



「3円ですね、わかりました。どうぞご確認ください」



私は3円を渡した。

前金3円は中々高額だ。

既に全財産の半分を使ってしまっている。

さっきの店で働くのも一つの手だが、私は私なりに自分自身で結果を出したい。

長屋に住みながら研究に精を出すのも一つの案だ。



ただ、長屋は火災が起きたら炎上を起こしやすいので、油や火の取り扱いには十分に注意しなければならない。

お爺さんは前金を確認すると、一旦奥の部屋に向かって長屋の鍵を持ってきてくれた。

私に割り振られた部屋は長屋の一番端の部屋らしい。



「一番隅の部屋になりますね、なるべく夜などは近所迷惑にならないようにしてくださいね」



「わかりました。どうもありがとうございます」



お爺さんに一礼してから私は自分の部屋になった長屋に足を踏み入れる。

阿南商店の時のような店とは打って変わって、一昔前の集合住宅…。

歴史資料館で見た江戸時代の長屋から殆ど変わっていない。

狭く、隣の部屋との壁が薄い4畳分程度の部屋だ。

玄関には台所のかまどがあり、部屋の奥には窓が一つ備え付けられている。

ただし、網戸ではなく木の柱が4本だけの窓なので虫などは入り放題だろう。

会社の寮ですらもう少し広かったんじゃないだろうか。

でもここが東京であると考えれば、狭いのは仕方ない気がする。



「これが長屋か…思っていたよりも…狭いな…」



狭いのはこの際割り切ってしまおう。

贅沢言っている暇があったらまずは…身体を休めよう。

籠を下ろして、私は下駄を玄関に置いてから戸締りをして畳の上で横になった。

留置場から釈放されてここに到着するまで、一切寝ていない。

いや、むしろ今ならどこにでも寝れる自信がある。

よく見ればちゃんと畳は掃除されている。

部屋には埃なども無かった。



「清掃道具で掃いたんだろうか…ああ、玄関の入り口に箒があるな…あれで掃いたんだろう」



隅々まで清掃が行き渡っていたこともあってか、不快な気分にはならなかった。

恐らくだけど、前の入居者が立つ鳥跡を濁さずの精神を兼ね備えていた常識人で、しっかりと清掃をしていったのかもしれない。

これでゆっくりと眠ろう。

ああ、でもせめて寝るうえで枕になるようなものはないかな…。

身近にあるもの…うむ、竹細工の背負い籠を買った際に、お近づきの印として布を貰っていたな…。

タオルみたいなものだが、ひとまずこれだけでいい。

布を折りたたんで頭の下に置いて、ひとまず私は寝ることにした。

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