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うるせぇ

 

 ーーアリーナ、対戦会場。

 裏闘技場の闘技の場は、やはり賑わっていた。


 まだ会場に出ていない、控え室で出る機会を伺っている今でも分かる、耳を劈く歓声。

 やはり、銅ランクから銀下位にまで昇格した冒険者は珍しいんだろうか。

 優勝候補、とまで明言されてしまっているみたいだしね。


 一応受付嬢に偽名を使って貰ったと言えど、それが適応されたのはアーサー君だけだ。


 ……あの受付嬢、嘘つきやがったな。


 まあ、そう言うわけなので、僕とモイラは普通に実名で登録されている様だ。

 その所為だろう。


 ーーこんなに、実況が(うるさ)いのは。


「銅ランクから銀下位ランクという異例の昇格を見せ、可愛らしい童顔を持った神童、ユト・フトゥゥゥゥールム!!!」

 はしゃぐ実況。


『うぉぉぉぉおおお!!!』

 騒ぐ観客の歓声。


「それに相対するのは、先述のユト・フトゥールムに完封勝利され、怒髪天を衝くかの如く燃え盛る復讐心を抱いた、酒に酔ったら止められない!酒乱のリーィィグスゥゥゥ!!!既に酒に酔って準備万端です!」

 巻き舌で再び実況。


『うぉぉぉぉおお!!』

 再び騒ぐ観客。


 ……(わずら)わしい奴らは置いておくとして。


「あの時の、ランク昇格決闘の再現という訳か。しかもてっきり、あの時の思いっきりキックのお陰で記憶飛んでると思ってたけど……いや。どうやらそうでも無いみたいだ」

 僕は、たった数歩歩み出せば登場できる会場に、何が何だか分からない表情で出てきたリグス君を見つけた。


「あの困惑の表情……やっぱり記憶なくしてたか。良かった良かった。実況が会場を盛り上げさせる為に言った妄言で終わって」

 取り敢えず一安心。

 恨みを買われて無くて尚安心。


「まあ、取り敢えず僕もそろそろ会場入りしようかな……」

 と、僕が一歩だけ足を踏み出したその時。


「今回、特別観客席には裏闘技場管理者ロベリア様も出向いております!これは過去異例の出来事、ファイターにも、それに見合った活躍をして貰いたいですねー!」

 まじ。もうロベリア登場?


 ……まあ。困惑してる場合じゃ無いか。取り敢えず僕ももう出るしか無いと見た。


 まず僕は一つ深呼吸をし。

 能力が封じ込められるのを感じながら僕は。


 その会場に踏み出た。


 ーーそして、会場の活気は更に(みなぎ)った。



 ♦︎


 一頻(ひとしき)り騒がしい観客達が静まった、そんな頃。

 試合開始を待つだけの観客席の中に、その二人組は居た。


「ねーアーサー君。どっちが勝つと思う?」

「……断然ユトだろう。あのリグスとやらが勝つ見込みは皆無だ」

 ユトの観戦をしに来たモイラとアーサーだ。


 モイラは足をバタバタとさせ、伸ばしながら。

 アーサー君は腕を組んで、その威厳を保ちながら。


「……もう一人のアーサー君はどう思う?」

 モイラが突然に、雰囲気を壊すかの如くそう聞くと。

 アーサーは一瞬で髪型を、オールバックとアホ毛の生えた髪型へと変え。


 おちゃらけた表情と早い動きで、もう一人のアーサーは答えた。


「まぁーー。俺もユトさんだと思ってるんッスけどー。あの酒臭いリグスって奴も捨てがたいッス」

 突然の人格変更に、モイラは全く動じず。


「だよねー。なんか雰囲気が違うって言うか、喰らいつけるっていうか。なんか不思議な雰囲気なんだよね、あの子。ただの酒豪じゃ無い感じ。なんて言うか……酔拳使いそうな」

 一丁前の予想を、モイラは展開した。

 それに、アーサーは大きく頷き。


「でっすよね。俺もその意見に賛成ッス……ですけど、あれくらいであのユトさんを倒せるとは、自分思ってないですよ」

「……ね。それ、モイラさんも賛っ成ーっだ!」

 そうして二人の馬鹿はやっぱり、一つの結論に辿り着いたのだった……。


 ♦︎


 で、こちら馬鹿達の視線を一身に浴びている僕だ。


 結構うるさいよ、あの子達。


 更に観客席の中でも一際目立ってうるさかったから一応、視線で恐喝して静まらせたけど。


(というか、そんな事を気にしている暇じゃ無いか)


 ……今は両者が会場にて睨みを交わしている最中。

 いつ戦いが開始されてもおかしく無い時間だ。


 そんな時に対戦相手が別の事に夢中になっていたら、少なからず怒りを買いそうだからね。

 僕は視線をリグス君に移すついでに、怖いもの見たさに裏闘技場管理者のロベリアを一瞥(いちべつ)


 ……ロベリアは堂々と金の玉座に座り、こちらを見下ろしジッ、と凝視してきている。

 感想。

 キモかった。


 まあ当然、こっちもロベリアの姿を視認したわけで。


 その姿を見た感想は、うんまぁ……聞いた通り、かな?

 異常なまでの厚化粧に、その狂気じみた視線。

 主にこの視線が怖い。


 とにかく豪華な服装に身を包んだその『オカマ』については、想像通りだったから追記は伏せよう。


 と言うか、あの独特過ぎる、飢えた獣の様な狂気じみた目……。

 やっぱりあいつが、僕とリグス君との対戦後に狂気的な視線を向けてきた張本人だったか。

 通りで背筋が凍る悪寒を感じた訳だ、全く。


 あんな狂気的な目で凝視されたら、精神に異常をきたす事間違い無しだろうよ。


 一瞥も済んで、リグス君に視線を戻し切った僕。

 フラフラと千鳥足のリグス君に、僕が心配を掛ける暇なく。


 瞬間。


「始めぇッ!!!」

 戦いのゴングが、カンカンと鳴らされた。


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