不審な手紙
「……いや、招待と言うべきですかね」
そう言いながら、謎の人物は一通の手紙を虚空から取り出した。
……手品か?
「要ります?これ」
イヤラシげに手紙をチラつかせる謎の人物。
その手紙には、見る限りなんの異常も無い。
でもなんか嫌だから、いいか。
「受け取る義理は無い」
「駄目ですよ、強制ですから。返却は許されません」
はぁ……ため息吐きそう。
こんな怪しい奴の手紙なんて取りたく無いが……。
まあ実際、奴は怪しいから、
「……分かったよ。でもそれにあたって……」
僕は腕を払った。
「邪魔者は消えてもらおうよ」
敵だろうから、殺す。
「へ」
瞬間。
未来視を使った訳でも無い腕払いは、やがて忠節無心を呼び出し。
ザクッと。
それは首を掻っ切る死神の鎌となって、謎の人物の首を討ち払った。
謎の人物は、断末魔すらをも上げずに。
「……灰になった、か。やはり分身だよね」
僕は歩み寄る。
ヒラヒラ、と舞い落ちた手紙を拾い上げ、手紙を除く。
「差出人;闘技場運営か……と、その前に」
指に挟まるくらい薄めの手紙を持ったまま、僕はある事をしに行った。
♦︎
会議室には、依然重々しい空気が漂っていた。
「ユトさん、帰ってきませんね……」
「まあ大丈夫だろう。彼は俺達の先輩だ」
「えへへ〜」
アーサーのなだめに、何故かモイラがデレる。
何の因果かも分からないが、取り敢えずガレーシャは丁重に無視する事を選んだ。
「……まるで、戦いに行った様な感じですね」
「あれ、ガレーシャちゃん……だっけ?分からないの?」
フェルナの困惑。
「え?」
そして、ガレーシャの困惑。
と、そんな中。
バタン。
会議室の扉が開かれる。
「ーー我、帰還せり」
そこからは色々と事を終えた僕が登場。
その右手には手紙が握られている。
「……終わったか」
アーサー君の出迎えに、僕は相槌を打ち、
「ああ。ーーと言うか君達、結界の防御はしっかりしないと駄目だよ?」
左手で、僕はある『魔法機械』を弄りつつ忠告。
「いやー面目無いわ……ってそれは?……出来れば研究したいっ!!」
僕が投げたりして弄っているこの円盤状の魔法機械。
それについて、フェルナは謝るついでに聞いてきた。
少し研究心が過ぎるフェルナが、サクラによってガッチリ羽交い締められるのを前に、僕は答える。
「ああ……これは結界侵入用の魔法機械だよ。かなり高度で、それは古代技術に匹敵する。結界にペッタリと貼られてたから取り外しておいたよ」
「そうか、侵入者も排除できた様だな……それはともかくとして。その手紙は?」
そんなアーサー君の横で。
「いーやーはーなーしーて!」と騒ぐフェルナと、それを必死に止めるサクラが居る。
(うるさっ)
……騒がしいので、僕は躊躇なく円盤の魔法機械を粉砕。
「あ……」
と、研究対象を失い、顔面蒼白でへたり込むフェルナをそのままに、僕は忘れかけていた話題に戻る。
「この手紙ねぇ……僕も初見なんだよね。ちょっと開けてみるか」
手紙自体は、僕の事前の調査によると完全無害。
だから不用意に開けてオッケーだ。
で、丁寧に開けたその手紙からは。
「招待状が三枚。リアン王国異種闘技場ね……あ。同封の紙がある」
取り敢えず読むか。
「銀下位ランク認定おめでとう。ユト・フトゥールム。一ヶ月もしないうちにそこまで昇級した、そんな貴方にナイスな腕試し☆リアン王国異種闘技場に招待するわ!景品は古代兵器。明日開催だわぁ」
「良くある迷惑メールかな?」
そう皮肉って僕は感想を呟く。
「景品は古代兵器か……とんだ逆玉だな」
「確かに。だがサクラ、その招待状……つまり参加できるのは三人までだろう?」
「ユトさんとモイラさんは確定として。残り一枠どうするかね……」
勇者勢の論議。
色々とそっちのけで会話が進むのもアレだと思ったのか、モイラは言う。
「ガレーシャちゃんでいいんじゃない?」
だがその提案で帰ってきたのは、それも決めかねる視線だった。
「……あれ?違う?」
モイラの空回りしたテンションに重ね、ガレーシャは答える。
「いや、モイラさん。リアンの異種闘技場って色々と無法地帯なんですよ。ざらに王国騎士団長クラスの強者がゴロゴロ居ますし。確かに私も強者である自信はありますが、その強者を屠れるほど強い、という確証は得られません」
「そうなのかー」
ガチの正論に、ショボンとするモイラ。
……そもそも論だが。
闘技場に参加するにしてもガレーシャは貴族であり受付嬢だ。
リアン王国中に顔が知れ渡っているから、流石に向かないだろう。
貴族が闘技場に参加など、色々と騒ぎをが呼ぶだろうからね。
「なら、戦闘に長けていて顔も体格も偽装出来るアーサーが良いんじゃないだろうか?」
そこでサクラの良い提案が刺さる。
「……確かに。それが良いね。ならばその間、ガレーシャには留守番を頼むしかないかな」
「まあ、そうなりますよね」
ガレーシャは少し気を落とした。
分かってはいたけど……って事か。
「まあお留守番と言えど、サクラやフェルナも一緒にだけどね」
「……元々勇者たち含めガレーシャちゃんの修行も含めての雪山訪問だったんだけど……三人での修行になっちゃったね」
僕とモイラの慰めに近い言葉に、ガレーシャは仕方ない、と頷き。
「いや、大丈夫ですよ。すぐには新環境に慣れないでしょうが。勇者さん達との研鑽が出来る事自体が幸せです」
その言葉に、フェルナは激しく同意。
「……ま、そう言うコト。アーサーも、気兼ねなく行ってらっしゃいな」
「ああ。ーーあとサクラとガレーシャ。コイツの世話を頼む」
「……?分かりました」
途端、フェルナは笑い。
「フッフッフー。このフェルナさんを二人だけで止められるかなぁ?」
「ーー頑張ります!」
と、まあ。
……それはそれで会話が成り立っている所を見るに、変人は変人なりの打ち解け方をしている様だ。
良い傾向だね。
ま、とにかく。
「……これが最後というわけでは無いけれど。最後に取り敢えず……」
僕は、三人の勇者達を眺めた。
久し振りの『強者』として。
「ーー全員掛かってきなよ。先輩として、君達と手合わせしてあげる」
世界を救った神術の三大勇者に、宣戦布告した。




