表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/196

不審な手紙

 

「……いや、招待と言うべきですかね」


 そう言いながら、謎の人物は一通の手紙を虚空から取り出した。


 ……手品か?


「要ります?これ」


 イヤラシげに手紙をチラつかせる謎の人物。


 その手紙には、見る限りなんの異常も無い。


 でもなんか嫌だから、いいか。


「受け取る義理は無い」


「駄目ですよ、強制ですから。返却は許されません」


 はぁ……ため息吐きそう。



 こんな怪しい奴の手紙なんて取りたく無いが……。


 まあ実際、奴は怪しいから、


「……分かったよ。でもそれにあたって……」


 僕は腕を払った。


「邪魔者は消えてもらおうよ」


 敵だろうから、殺す。


「へ」


 瞬間。


 未来視を使った訳でも無い腕払いは、やがて忠節無心(カラクリキコウ)を呼び出し。


 ザクッと。


 それは首を掻っ切る死神の鎌となって、謎の人物の首を討ち払った。


 謎の人物は、断末魔すらをも上げずに。


「……灰になった、か。やはり分身だよね」


 僕は歩み寄る。


 ヒラヒラ、と舞い落ちた手紙を拾い上げ、手紙を除く。


「差出人;闘技場運営か……と、その前に」


 指に挟まるくらい薄めの手紙を持ったまま、僕はある事をしに行った。



 ♦︎



 会議室には、依然重々しい空気が漂っていた。


「ユトさん、帰ってきませんね……」


「まあ大丈夫だろう。彼は俺達の先輩だ」


「えへへ〜」


 アーサーのなだめに、何故かモイラがデレる。


 何の因果かも分からないが、取り敢えずガレーシャは丁重に無視する事を選んだ。


「……まるで、戦いに行った様な感じですね」


「あれ、ガレーシャちゃん……だっけ?分からないの?」


 フェルナの困惑。


「え?」


 そして、ガレーシャの困惑。


 と、そんな中。


 バタン。


 会議室の扉が開かれる。


「ーー我、帰還せり」


 そこからは色々と事を終えた僕が登場。


 その右手には手紙が握られている。


「……終わったか」


 アーサー君の出迎えに、僕は相槌を打ち、


「ああ。ーーと言うか君達、結界の防御はしっかりしないと駄目だよ?」


 左手で、僕はある『魔法機械』を弄りつつ忠告。


「いやー面目無いわ……ってそれは?……出来れば研究したいっ!!」


 僕が投げたりして(いじ)っているこの円盤状の魔法機械。


 それについて、フェルナは謝るついでに聞いてきた。


 少し研究心が過ぎるフェルナが、サクラによってガッチリ羽交い締められるのを前に、僕は答える。


「ああ……これは結界侵入用の魔法機械だよ。かなり高度で、それは古代技術に匹敵する。結界にペッタリと貼られてたから取り外しておいたよ」


「そうか、侵入者も排除できた様だな……それはともかくとして。その手紙は?」


 そんなアーサー君の横で。


「いーやーはーなーしーて!」と騒ぐフェルナと、それを必死に止めるサクラが居る。


(うるさっ)


 ……騒がしいので、僕は躊躇なく円盤の魔法機械を粉砕。


「あ……」


 と、研究対象を失い、顔面蒼白でへたり込むフェルナをそのままに、僕は忘れかけていた話題に戻る。


「この手紙ねぇ……僕も初見なんだよね。ちょっと開けてみるか」


 手紙自体は、僕の事前の調査によると完全無害。


 だから不用意に開けてオッケーだ。


 で、丁寧に開けたその手紙からは。


「招待状が三枚。リアン王国異種闘技場ね……あ。同封の紙がある」


 取り敢えず読むか。



「銀下位ランク認定おめでとう。ユト・フトゥールム。一ヶ月もしないうちにそこまで昇級した、そんな貴方にナイスな腕試し☆リアン王国異種闘技場に招待するわ!景品は古代兵器。明日開催だわぁ」



「良くある迷惑メールかな?」


 そう皮肉って僕は感想を呟く。


「景品は古代兵器か……とんだ逆玉だな」


「確かに。だがサクラ、その招待状……つまり参加できるのは三人までだろう?」


「ユトさんとモイラさんは確定として。残り一枠どうするかね……」


 勇者勢の論議。


 色々とそっちのけで会話が進むのもアレだと思ったのか、モイラは言う。


「ガレーシャちゃんでいいんじゃない?」


 だがその提案で帰ってきたのは、それも決めかねる視線だった。


「……あれ?違う?」


 モイラの空回りしたテンションに重ね、ガレーシャは答える。


「いや、モイラさん。リアンの異種闘技場って色々と無法地帯なんですよ。ざらに王国騎士団長クラスの強者がゴロゴロ居ますし。確かに私も強者である自信はありますが、その強者を屠れるほど強い、という確証は得られません」


「そうなのかー」


 ガチの正論に、ショボンとするモイラ。



 ……そもそも論だが。


 闘技場に参加するにしてもガレーシャは貴族であり受付嬢だ。


 リアン王国中に顔が知れ渡っているから、流石に向かないだろう。


 貴族が闘技場に参加など、色々と騒ぎをが呼ぶだろうからね。


「なら、戦闘に長けていて顔も体格も偽装出来るアーサーが良いんじゃないだろうか?」


 そこでサクラの良い提案が刺さる。


「……確かに。それが良いね。ならばその間、ガレーシャには留守番を頼むしかないかな」


「まあ、そうなりますよね」


 ガレーシャは少し気を落とした。


 分かってはいたけど……って事か。


「まあお留守番と言えど、サクラやフェルナも一緒にだけどね」


「……元々勇者たち含めガレーシャちゃんの修行も含めての雪山訪問だったんだけど……三人での修行になっちゃったね」


 僕とモイラの慰めに近い言葉に、ガレーシャは仕方ない、と頷き。


「いや、大丈夫ですよ。すぐには新環境に慣れないでしょうが。勇者さん達との研鑽が出来る事自体が幸せです」


 その言葉に、フェルナは激しく同意。


「……ま、そう言うコト。アーサーも、気兼ねなく行ってらっしゃいな」


「ああ。ーーあとサクラとガレーシャ。コイツの世話を頼む」


「……?分かりました」


 途端、フェルナは笑い。


「フッフッフー。このフェルナさんを二人だけで止められるかなぁ?」


「ーー頑張ります!」


 と、まあ。



 ……それはそれで会話が成り立っている所を見るに、変人は変人なりの打ち解け方をしている様だ。


 良い傾向だね。


 ま、とにかく。



「……これが最後というわけでは無いけれど。最後に取り敢えず……」


 僕は、三人の勇者達を眺めた。


 久し振りの『強者』として。



「ーー全員掛かってきなよ。先輩として、君達と手合わせしてあげる」



 世界を救った神術の三大勇者に、宣戦布告した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ