勇者邸の侵入者
……会議室の雰囲気はかなり重々しくなった。
騒ぎの元凶であったマッドサイエンティストが、陰気アーサー君に言論統制されたからだろう。
うん。
静かなのはいい事だ。
モイラも一応問題児だけど、場を弁える人間だから大丈夫……なはず。
取り敢えず円卓を囲み、六人は語り始める。
その先陣として僕は、勇者勢のリーダーであるアーサー君に問う。
「……まず最初に。今世界で発見されている、全ての古代遺跡を調査した結果を教えてくれる?」
アーサー君は頷き、
「ああ。色々な人脈を用いたり、現地探索の結果……今現在発見されている古代遺跡の中には、古代兵器は存在しないと決定付けられた」
「……あった形跡も、全くなかったわ」
静かになったフェルナ君も入り込んで。
「ふむ……」
僕は唸る。
……フェルナ君は多分、性格はあれだけど一応有能な人物だ。
間違いは無いし、嘘はついていないか。
「そうか……で、本題だけどーーこの世界全体をスキャンしてみた結果は?」
ついで感覚で出てくるスケール抜群の言葉に、横のガレーシャはピクリと動く。
まあ、無駄な私語を慎む様釘を刺しておいたので、それで終わったが。
で、正面のアーサー君は、視線で事を横のフェルナに委ねた。
「説明よろしく」と。
……ああそうか。調査系は魔導師が向いているからね。
僕が納得している内にフェルナは相槌を打ち、事を始めた。
「……そうわね。古代兵器がユトさん方の能力を封じるモノなら……能力によるスキャンを押し退けるはずだから、位置がどうのこうのって話よね……はい。これ」
フェルナは、会議室の円卓の機能を解放させた。
ブオン、と。
近未来的な音を鳴らしながら、円卓からホログラムが展開される。
それは宇宙や世界そのものを映し出した、世界地図そのものだった。
……要するに一目では理解し難い情報の集合体。
常人では、だけど。
「見る限り、宇宙には存在しないみたいだね」
横では、ガレーシャが「凄い……」と感嘆。
それはともかく、米粒以下の大きさにまで圧縮された惑星の数々に、全く異常は見受けられなかった。
「……そうね。わたくしの『世界全体スキャン装置』を以ってしても、宇宙には見つけられなかった……」
ネーミングセンスはあれだが。
(……ああ、あのコテージの屋上に生えてた、あの黒い機械ね)
僕は勝手に頷いておいた。
「でも、わたくし達がいるこの惑星には、やっぱり発見できた」
「ーー聞かせてくれ」
「……了解、先ずはーー」
♦︎
ーーフェルナ・コルチカム神導師は、その結果を纏めてくれた。
いや。
その前に先ず、さっきフェルナが口ずさんだ『古代兵器を探す手段』について説明しておこう。
以前、僕は古代兵器を未来視などで探そうとした際、何かにそれを遮られた。
その『何か』は僕達が第一兵器を破壊する上で、古代兵器が発動した事象操作だと分かったね。
加え。
その事象操作の範囲内に入ると、僕の未来視も、モイラの神眼も同じく封じ込められた。
……それを見ての仮説だけど、多分古代兵器は……。
『古代兵器の事を直接知ろうとする力を押し退ける』という旨の法則を組まれた事象操作が掛かっている。
そこで僕は思いついた。
探索系や遠視、スキャン系の能力か事象操作を使えば、さっきの法則に基づいて、同じく情報規制されるんじゃ無いかって。
そんな結論に僕は最終的に辿り着いたのだ。
それを踏まえ、僕はこの勇者達に作戦を持ちかけた。
で、その作戦内容。
世界の構造を全てスキャンし記録する、マッピング系の魔法か事象操作を用い、古代兵器の全場所の把握を行おうよ、と言うモノ。
正にコウモリの、音を反響させて物の場所を知るエコーロケーションの様に。
乱れない清流に、大きい石を置くかの様に。
……コウモリと清流の場合、音波と水の流れがこれに該当する。
古代兵器の場合、清流に置かれた大石に適用される。
清流に置かれた大石は水の流れを変え、大石が置かれた所にはもう水は流れない。
……と、小難しい説明は無しにして簡単に説明すると……。
『相手の力を利用して、逆に場所を把握する』って事さ。
ーー世界中に、マッピング系の能力や事象操作を張り巡らせ。
それを、意図的に跳ね除けた物があった場所を瞬時に記録。
ゲームとかの自動マーキング機能みたいにね。
兎に角、これからフェルナが言うのは、それを用いた調査の結果。
「反応は、リアンに四つ。メイゼラビアンに一つ。ヒイラギ王国に一つ。サバクス王国に一つ。ガーベラ王国に一つ。パボ王国に一つ……国単位でしか分からなかったけど。これが全て」
(九つか。第一兵器も含め十つ……場所不明なのが三つもあるのか)
うむ。
まあ一応想定内だ。問題はない……それより。
「って、途中から知らない国家の名前が出てきたけど……」
ガレーシャが答える。
「出てきた順から、ヒイラギ王国は寒冷地、絶対零度の雪国。サバクス王国は砂漠地帯、オアシスなどがある砂漠国家。ガーベラ王国は発明の原点、開発国家。パボ王国は密林、原始林国家、って感じですね。どれも大国ですよ」
「五国全部の特徴纏めると軍事・ダンジョン・雪・砂漠・発明・ジャングルって事……選り取り見取りだー」
数多なる国家の数々。
創造神様も流石の世界の広さに、開いた口が塞がらない。
「この先が楽しみだーーー」
会話中断。
……僕は相槌の為に放った言葉を飲み込んだ。
不審な気配を、会議室の外で感知したからだ。
流石に近いか。
僕は、おもむろに起立。
「……どうしました?」
ガレーシャの心配声に、僕は会議室の扉を見つめながら、
「……ちょっと離れる。話を進めておいて構わない」
「分かった。止めはしない」
「ああ」
アーサー君の有難い言葉に、僕は相槌をうって会議室を出た。
バタリと。
会議室の両扉を閉めた僕は、静かに歩み行く。
右方向へ、進行と。
数歩踏み出した先は、コテージ内の暖色の灯りが届かない通路。
代わりに縁側に直接出れるよう、横に建具と大窓が貼られている。
そこからは、深深と降りしきる雪山の様子を見ることが出来る。
……と、静かで白銀世界が見える、そんな通路で。
「君は何をしているんだい?気付いてるよ」
その視線の先。
……そこには、空間を少し歪曲させる『何か』が居る。
カメレオンの様に風景と同化しているソレは、ケタケタと笑い……。
「ーー気付いていましたか。流石フィルフィナーズ。世界を救う英雄ですね」
漆黒の外套を纏った謎の人物が出現した。
男か、女かも分からない。
声音からも察せない。変声魔法で声を偽装されているから。
「君は誰なんだい?……敵であるならば、容赦無く殺すけど」
まあ、何も言おうとも殺すんだけど。
だって、多分奴はアーサー達が作った結界を破って入ってきた。
……相当な実力者だし、そんな実力者が何も考えずに侵入してきた筈も無し。
僕は軽く睨んで謎の人物を見つめると。
「まあまあ。今回私はただ、あるモノを渡そうとしただけですよ」
「あるモノ……?」




