勇者からの小さき贈り物
「……良し」
栞サイズに圧縮された、個人認証式・結界侵入用の魔道具。
手紙に入っていたのは、実に三枚の栞。
其々一つ一つに名前が記載されている。
僕、モイラ、ガレーシャと。
栞は結界の門戸……つまり入り口と出口に位置する箇所にペタっ、と貼り付けることによって効力を発揮する。
で、僕達の目の前にあるこの門が、正にその結界の門戸。
降雪が門で止まっているのも、外界からの隔絶を図っている結界が張られているからである。
僕は手慣れた手付きで、栞を門に、横並びで貼っていく。
……栞は消耗品だ。一回しか使えない。
でも、それで充分。
これには、個人認証用の魔力が込められている。
其々、僕含めた三人の魔力がね。
そして栞を結界に貼った今、この瞬間。
僕達は『この先に入って良い』という権利が与えられる。
だから。
……ギギギ、と。
何の動力も用いずに、重厚な門はゆっくりと開かれた。
同時に、青く光って燃え尽きる栞。
結界が『門の開閉』と言う動作によって、門戸を開けたのだ。
これで、僕達は客人として認知された。
その名も被視認性事象操作魔術結界。
それも高度な、古代技術並みの強さを誇る人除けの結界。
権利がない人間は立ち入ることすら出来ない。
その他一目では理解出来ない技術が、其処ら彼処に散りばめられている。
正に、神術と言えようか。
「……奇妙ですね」
「ここは、こう言った物がじゃんじゃん出てくるからねー」
「そうなんですか……なんだか私、ワクワクしてきました!」
モイラとガレーシャの和気藹々とした会話の横で、僕はガレーシャに向けて特殊結界を張る。
この先は寒いからね。対策しないと凍え死ぬし。
で、それに何故か気付かないガレーシャに向け、僕は言った。
「兎に角、進んでみよっか」
♦︎
尖塔に近い、武器として使えそうなくらい尖った雪山。
その麓に、僕達はいる。
……まあ麓というか、その前にある豪雪地帯って所かな。
豪雪地帯という名の通り、ここにはかなりの雪が降り、積もっている。
周りの針葉樹林のお陰で、歩けないほど雪が積もるという事は無いみたいだ。
いやそもそも、僕達が歩いている山道には雪が積もってすらいないけど。
積もった跡すらも。
何かこう、神様が海をスッパリ、と割ったみたいに。
……あ、神さまここに居たね。
兎に角、簡単に説明すると。
この白銀の世界に、青く光った一本道が雪を押し退けて存在している。
その道は常々降り頻る雪を消滅させ、人を導く絶対の道標にまで昇華している。
それに、一人の魔導師は、
「この道自体が魔道具と化しています……こんな無駄ーーじゃなかった。こんな発想の魔法技術あり得るんですか?」
ガレーシャは、魔法の道を歩む若き者として、この技術に芯から驚嘆している様だね。
確かに、この時代にはあり得るテクノロジーではあるけど、こんな風に使う発想は無かっただろうからね。
「まあそうだね。この雪山の所有者の中には、こんな無駄な物を作る物好きもいる、と言う事さ」
微笑で答える僕。
しかも、上には鳥型の魔道人形も元気に飛んでいると来たもんだから、本当にここは摩訶不思議だ。
「所有者、ですか……さっきの結界と言い、この魔道具と言い……そして周囲に飛んでいる鳥型の魔道人形も含め、この雪山の所有者って、どんな人なんですか?」
「うーん……そこら辺は、彼女が説明してくれるんじゃ無い?」
「……彼女?」
首を傾げるガレーシャに、僕は怪しく表情を笑わせながら言った。
「居るじゃないか。君の後ろに」
「……え?」
恐怖を煽る言葉に、ガレーシャが恐る恐る振り返ると……。




