正にトンボ帰り
「ゴッホン。兎に角、僕達は直ぐ出かける事になりそうだよ」
……もう一度言うけど、僕は協力者と合流しないといけない。
其処まで、遊んでいる暇はないんだよね。
いつだって、世界を救うと言うことは、苦労が付き物だからね。
予定が詰まってても、なんら不思議じゃないね。
……休暇や休みに浸ることが出来ないのは……癪ですがね。
そこら辺の怒りは古代兵器へぶつけるとして。
今の所はまだ、セリア達と遊ぶ事は出来ない、と言う事。
でも、結構素っ気ない言い方をした所為か、
「え!もうなの師匠!?さっき帰ってきたばかりだよね?」
と、純粋すぎるがあまり、事を察せないアンビに止められた。
……エラく束縛観念がお強い事だ。
僕を気にしすぎない様にする為に、アンビとの接触を控えていたんだけど……。
何でこう、ちょっと触れ合っただけで気に入られてしまうのか。
何故……僕は子供に好かれるの。
とか、僕の謎なモテ期に疑問を抱いている時に、公園で遊んでいたモイラが介入。
「まあまあ、アンビちゃん。師匠も忙しいんだよー?」
と、大人のお姉さんの様な口調で、モイラはイヤラしくアンビの顔を覗く。
……確かに、ああ言うお姉さんキャラで説得してくれたら、アンビも収まるだろう。
しかも、モイラは『一応』創造神だ。
だから、人を安心させる技には長けている。
逆に僕が得意なのは、人を騙したりで、奸智を生かす事だ。
人を納得させる素質、ともなれば僕じゃなく、モイラの方が長けているだろうね。
と、そんなモイラの慰撫が効いたのか、セリアが仲立として、アンビの頭を撫でながら、
「そうですよ、アンビ。フトゥールムさん達にも、それなりの事情があるんですよ。ここは自重しましょうね」
と、セリアは本物のお姉さんらしい笑顔で、アンビを懐柔させる。
それがちゃんと効いたのかアンビは深く頷き。
「……分かった。じゃあ師匠、帰ってきたら修行の続きしようね!」
以前、男と偽っていた割には可愛らしい笑顔で、送り笑顔を飛ばして来た。
「はいはい。いつになるか分からないけどね」
だが、流石にすぐ答えられるほど僕は甘くない。
保留だ、保留。
だって既に、アンビの修行による練度上昇は、最大値にまで振り切っている。
つまり、成長限界に達してしまっている、と言う事だ。
僕が居ない間にも鍛錬を積んで来た所為だろうけど……。
成長が早すぎて、もう手が付けられなくなっちゃったからね。
……うん。
力の成長限界を超えた子供を育てる義理は、僕には無いからね。
後でなんか理由でも付けて、師匠生活を放棄することにしよ。
まあ、兎に角。
僕達は、他に色々と言葉を重ねて別れを惜しみ、もうリリアンへ飛ぶ頃だ。
飛ぶ?跳ぶ?
どっちでも良いけど、今回はモイラもいる。
だから、僕がガレーシャを背負って跳ぶ必要は無くなった。
そもそも身長差のせいで、色々と見栄えが……ね。
……コホン。先ずはモイラに聞こう。
「モイラ、追従魔法とかでガレーシャを一緒に連れて行けたりする?」
「行けるよー」
否定もせず言い切ったモイラ。
「オッケー」
うん。頼れる仲間が居るのは良い事だ。
まあ、面倒事を背負ってくれるって言う意味の、だけど。
僕とモイラの、専門的そうな会話を側で聞いていたガレーシャは、不安そうに事を申す。
「あの〜。まさか、今度も空を跳んで行くんですか……?それ、私ちょっと心臓が浮く様な感覚があって気が進まないんですが……」
「まあまあ、多分もう慣れたでしょ」
「いや、そう言う問題じゃなく……」
僕の軽そうな物言いに、ガレーシャのあわあわとした言葉。
その背後から、元気な見送りの言葉が聞こえて来た。
「いってらっしゃーい!!」と。
それは、今すぐ行かなければいけない、という使命を生み出し。
僕はそれを胸に、恐怖に踊らされたガレーシャを無視し、モイラに追従魔法を起動させて。
「はいはーい。戯言は良いから行っちゃうよ」
そして、僕は光屈折魔法を使って、フライングヒューマノイドになるのを事前に対策し。
「いやいや」とゴネるガレーシャを完全に無視し。
その脚力を解放させた。
それは、いつもの様に弾頭の様になって。
激しい土煙と共に、三人の筋が空へ向け、放たれた。
正にトンボ帰りである。
ーー同時に「きゃぁぁ!!」と、セリアの村に悲愴な叫び声だけが、寂しくこだましていったという……。




