僕は放浪の身
そして、朝。
日はすっかり上り、朝の匂いを伝えてきている。
これも、一時の戦いが終わった、という証左なのだろう。
そんな朝の日差しを浴びながら、僕はゆったりと駄弁っている。
セリアの村にある、小さな公園のベンチの上で木漏れ日を浴びながら。
少しずつ暖かくなってきたな、とか思っていた、そんな時。
まあまあ聞き慣れた少女の声が入ってきた。
「姉ちゃーん!また公園使わせて貰うねー!」
背後から。
返答の来ない宣告を告げ、僕の背中で騒ぐ少女がいる。
……少年?少女?まあどうでも良い。
それは、真っ先に僕の座っているベンチを横切るや否や、
「さぁて……今日も修行修行ーーってうわぁっ!……師匠!?なんでこんな所に!?」
疑う様に目を擦り、僕を懐疑的な目で見つめてきた。
この少女は。
……いや、この弟子は、アンビ・リワーズ。
登場初期、自分を『男』だと偽っていた、正真正銘の『少女』だ。
そんな少女に、僕は軽く手を振り、
「お早う、我が弟子……アンビ・リワーズ君?」
と、ちょっと紳士の様に挨拶をしてみた。
すると、アンビはぎこちなく頭を数回上げ下げしながら、
「お早うございます!……って言うか、なんでここに?まだ帰ってくるのは早い筈じゃ?」
「ああ、それはーー」
と、答え切る前に。
ドン、と。
扉を勢い良く開け「アンビーー!どうしたの!」と、叫びながら宿屋から出て来る女性も居た。
大方、さっきのアンビの叫び声を聞いて飛び出してきたんだろう。
ああ、そうだ、そうだ。あの子の紹介もだったね。
あの、すっごい土煙を撒き散らしながらこっちに向かって来る女性。
あれが、セリア・アリーシャ。
僕が、この世界に降り立って始めて出会った、第一村人。
さっきの少女、アンビ・リワーズを拾った張本人でーー。
ここらでやめておこう。
とまあ、兎に角。
……色々と収束が付かなくなってきたので、ここで説明してやることにしようか。
♦︎
睡眠不足で、目を擦るガレーシャ。
後ろの公園で遊んでいるモイラ。
そして、ベンチに座っているアンビとセリア。
騒ぎ立てていた二人を抑えた僕は説明中。
今までの軌跡をね。
主に、メイゼラビアン王国に至ってからのことだね。
まあ古代兵器の辺りとか王族と出会った事とかは、流石に虚偽を含めたけど。
流石に、世界を破壊する兵器ぶっ壊して来ました〜。
とか、王族達と仲良くなりました〜。
……とか、死んでも言えないからね。
と言うわけで、僕はこう説明した。
「普通に古代遺跡は攻略出来たけど、宝物とかは手に入らなくてね……代わりに、あの特産品だけが詰まっちゃってね」
それにセリアは激しく頷き、
「……ああ!宿屋に、知らない物資が沢山あったので爆弾とか思ってましたが、あれ、フトゥールムさん達が持ってきた特産品なんですね」
続き、アンビは不思議そうな声を上げる。
「だとしても師匠、それだと予定よりも早く帰って来た理由が分からないけど」
「ああ、それはーー」
……と、これは隠さず言うべきなのかなぁ。
大陸を跨ぐ程の転移魔法使って来ました、とかはギリギリラインか。
ちょっと横であくびしているガレーシャに聞いてみる事にしよう。
小声で。
「ってガレーシャ。転移魔法使ってきた事は言わない方が良いかな?」
と、ガレーシャはあくびをしながら、
「ふわぁー……確かに、言わない方が良いのかも知れませんね。多分、セリアさん達が驚き死んでしまいますし」
……だよね。
僕もそれに賛成するとして。
ポーカーフェイスを浮かべながら、二人に説明した。
「ああ、僕達が予定以上に早く帰って来たのは……それ以上に重要な予定があるからだ」
「重要な予定ですか?」
「なにそれ?」
セリア、アンビと決められた運命を辿る様に、二人は首を傾げる。
と、ここまでは良いのだが。
「え、重要な予定?」
何故か、それを知っている筈のガレーシャも、意外そうに声を上げてしまった。
だから当然、
「……え?ガレーシャさんは知ってるんじゃ無いですか?」
セリアに気付かれる。
そこで、やっとガレーシャは過ちに気付いたのは、ぎこちなく笑って遮り。
「いや、まあ……ははは」
……確かに、ガレーシャには何も言ってなかったけど、そこは空気読んで欲しかったなぁ。
少しくらいは機転の利く子に育って欲しかった。
そして、もっと更にボロが出そうになったガレーシャを、僕は咳払いで咄嗟にフォロー。
「……ゴッホン。とにかく、僕達は直ぐに首都リリアンへ向かうから」
「え?もうですか?」




