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いらないけど(小声)

 

 ……祝宴は終わった。


 これはその夜の事。


 豪華絢爛(けんらん)な催しは終わり、皆が寝静まった、そんな夜。


 街の灯りが殆ど消えた夜分遅くに、僕達は荷造りを済ませていた。


 その理由は勿論、国を発つ為。


『古代兵器』という重要な目標が、この国から無くなった以上、この国に居る意味は無いからね。


 第三王女ことアーリ達が持っていた『記録』とやらにも、第一兵器の情報しか記載されていない様だったし。


 だからこそ、一度リアン王国に帰るのも良いと思ってね。


 あっちに残して来たセリア達の事も心配だし……。


 何より、僕の実力を査定する為の監視員だったガレーシャが、ギルドにその結果を報告したいみたいだしね。


 だから帰る。


 リアンへの船はもう無いみたいだけど、そんなの関係ないし。


 というわけで、今はディルッド達の見送りを聞いている最中。


 時刻は、さっき言った通り深夜。


 近くの林は不気味さを増し、空には明るい月と星が煌めいている。


 草は夜風に揺れ、静寂を伝える。


 (ふくろう)(さえず)りが静かになる時。


 目の前に佇むのは、二人の王族。


 その真っ向に立つのは僕だけだ。


 三人の対話だね。


 ガレーシャやモイラは、後ろで大荷物を運んでいる。


 結構尋常じゃ無いほどの物資だよ。


「えっさ、ほいさ」とモイラが軽々と担ぎ上げている、あの物資はね。



 ……祝宴だけでは足りないだろうと、いらん気遣いを見せたディルッド達によって増えた荷物だ。



 あの中には、メイゼラビアンの特産品やら、色々入ってるんだとか。


 いやぁ、太っ腹だね。



 ……いらないけど(小声)



 まあそれも、リアン王国でお留守番してるセリア達にお土産として持っていけば良いか。


 と、そんな事を思っている僕に、ディルッド君は言った。


「……本当に行くのか?」


 寂しさを全面に出したその物言いに、僕は頷き、


「ああ。ガレーシャは分からないけど、僕達は元より放浪の身。他の古代兵器の場所が分からないとなると、僕達はそれを余儀なくされる」


 と、謙遜染みた言葉を言った。


 だが、アーリも譲れないのか一歩踏み出し、


「……ですが、船が出る明日までは滞在しても良いんですよ?」


 恐らく、アーリが言いたいのは、遺跡探索のクエスト期間が明日で終わるから、その時に帰れば良い、という事だろう。


 だけども、そうすると遺跡探索を終えた千人程の冒険者が乗った船に、僕達は乗せられる事になる。


 それも航海時間が長いから、大体一週間くらいは一緒に。


 それはちょっと……僕的に受け付けない。



 ……だって、前の航海の時だって、色々あったじゃん?



 だからこうして、人目に付かない夜分に発とうとしてるんだ。


 なので、僕は事を穏便に済ませるため、アーリを慰める様に言った。


「……親身になってくれて有難いとは思うけど、残念がらスケジュールが一杯なんだ。早めに帰らないと、ちょっとやれることが少なくなってしまう」


 僕の説得。


 アーリは、踏み出した一歩を戻し、心の手綱を引きしぼる様に呟いた。


「……そうなんですか。ならば止めはしません」


 それを聞いてホッ、とする僕。



 ……いやさ。物分かりがいい王族って久しぶりだからさ。つい。



「だがユト。聞きたいんだが……船も無いのに、どうやって帰るつもりだ?」


 とか思ってる内に、ディルッド君が最高の質問を飛ばしてくれた。


 よくぞ聞いてくれました。


 僕は、そんな聞き手の才能あるディルッド君に一瞥を送った、


「ああ。それには、転移魔法を使って行くつもりだよ」


 それを聞いたディルッド君とその横のアーリ。


 少し「……ん?」と言った困惑を示すも、直ぐにわかり切った笑みに変わり。


 ディルッド君は薄笑いと共に呟いた。


「まあ……そうだよな。未来視が出来るんだから、そんな高位古代魔法も使えるわな。だが……あれごとか?」


 ディルッド君は流れるように僕の後方を見た。


 あれごと?


 疑問に思い、僕は見てみると。


 完璧に「あれだ」と確信する物体があった。


 ああ、あれみたい。


 モイラ達が運んでる、君達が押し付けたあの特産品の山々ね。



 ま、うん。まぁ……あれごと、かなぁ?



 ぎこちなく、僕の顔が歪んでいるのがわかるよ。


 そんな風に気乗りしない視線で、僕はその物資の山々を見つめていたが……。


 それを、モイラが自分への熱い視線だと勘違いしたのか。


 物資運び中に、バカっぽい笑顔でグッドサインをしてきた。



 ……違う、お前じゃない。



 でもまあ、仕方ないか。


 僕は嫌々折り合いを付け、ちょっと小さく溜息を吐きながら。


「……まあ、あれごと行くとするよ」


「少し同情も出来る様な気もしますが……一先ずこれでお別れと言う訳ですね」


「……たった少しの交流だったが、何故か親近感が湧いてしまったな。別世界から来た、と言われた時は驚いたが」


 アーリ、ディルッド君と続く会話。


 なんか『もう会えない』人と話すみたいな口ぶりに、僕は笑い。


「はは。辛気臭いムードはNGだ。と言うか、機会があればまた会えるんだから」


 途端、彼らは思い出した様にくすぶり、


「いえ、すみません。少し遠慮してしまって……」


 恥ずかしいのか顔を俯かせるアーリ。


 それに、ディルッド君は安堵する様に呟いた。


「……だよな。って言うか『別世界から来た』で思い出したんだが……」


 僕は、ディルッド君が言い切る前に答えた。


 だって、多分君が言おうとした事は……。



「ーー神術の三大勇者、でしょ?」



 途端。


 目を見開き、深夜テンションで静かに驚くディルッド君。


「……知っていたのか。と言う事は、お前の次のスケジュールってーーー」


 だが、ディルッド君の問いもいざ知らず。


「ユトー!準備出来たよー!!」


 物資の運び込みを終えたモイラが、タイミング良く遮った。


「了解」


 瞬間、僕はモイラへ手を振りながら踵を返し、


「おいちょっとーー」


「その話は、後で君と会った時に話してあげるよー」


 止めようとするディルッド君の言葉に重ねる様にして、強引に話を中断させ。


「……じゃあ、転移開始」


 その勢いのまま、転移魔法を使って、僕は話の話題遁走(とんそう)に成功した。



 ……シュン、と。



 小さな、青い魔力の残穢を残しながら消えた僕達。


 目を瞬く時には、物資も人影も、言葉すらも消えていた。





 闇夜に残るのは、二人の王族だけ。


 別れを惜しむ暇も無く、彼らは転移していった。


「……はあ」


「行ってしまいましたね」


 強引過ぎる別れ方に溜息を吐くディルッドの横で、アーリは告げる。


「楽しみはお預け、と言う事かよ……」


 意気消沈するディルッド。


 その横で、アーリは感慨深く呟く。


「……そうみたいですね。ですが最後『神術の三大勇者』って、ユト様は言ってましたね……」


「だな……だが、俺たちにあいつらの行動を束縛する事は出来ない様だ」



「ですね。せめて出来る事と言えば……旅の無事を祈る事だけでしょうか」



 ーー夜空を見上げる二人。


 散りばめられた星々。


 輝きを絶やさない月。


 王族として、彼らは月光を浴び、ただひたすらに平和と秩序を願った。



 ーーそうであれば良いなと、一時の平和を掴むために。


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