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一時の平和。黄昏はそれを告げる

 

 メイゼラビアン王国に突如出現した古代遺跡。


 その中に眠っていたのは、僕達が破壊した古代兵器【第一兵器『(ねずみ)』】


 それを葬った僕等は、ディルッド王子達により何故か祝宴に参加させられている。


 聞くと「褒美の変わり」だと彼らは言った。


 ……確かに、僕とガレーシャがこの国に来れたのは『クエスト』という大義名分があったから。


 その報酬として設定されたのは『古代遺跡内にて発見された遺物・宝物』だった。


 しかもその遺物は、自分で見つけなければ報酬として貰えないらしい。


 だからその遺物・宝物目的で入った他千人程の冒険者達は、あんな遺跡探索に躍起になってたんだ


 だけど、僕達が見つけた遺物・宝物はゼロ。


 ただのボランティアみたいな感じになってたから、せめてもの御礼、という意味があるらしい。


 戦い続きだった僕達には、祝宴は良い息抜きになるだろう。



 ……言い方が他人行儀なのは勘弁してくれ。



 僕には、こんな派手な舞台は合わないからね。


 僕が一国の王、とかだったら、流石に出席するよ?


 でも、あんまり目立ちたくないしね。


 変に冒険者ランクを格上げされたり、英雄として崇められるのは、非常にうざい。


 この世界で、僕が目指す目的はただ一つなんだ。


『十三つ存在する古代兵器を全て破壊する』という目的がね。


 その為に人脈を築く事はあれど、目立つ事は極力避けたいんだ。


 そもそも古代兵器の場所すら分からない以上、放浪を余儀なくされるからね。


 そこで、色々と国の目に捉えられることがあるなら、それは妨害と取る。



 ……僕は、ね。



 言ったはずだ。


 僕の前に立ち塞がる障害があるなら、僕は何であろうと排除する。


 魔人君の様に。



 ーーだが、それは極力避けたい。疲れるからね。



 ……そんな所で、祝宴も終盤に近づいている。


 僕は必要な時だけ出席している。


 それ以外の時は、こうしてバルコニーで夜風に当たるのが、僕には性に合ってる。


 今は黄昏時だ。


 遠くに見える山々は黒に染まり、上には小金色の空が揺らぐ。


 雲一つない晴天。


 僕の近くまで仰ぐそよ風が、草木を揺らし、木の葉を飛ばす。


 こう言った『平和』って雰囲気が、僕は堪らなく好きだ。



 ……分かる人、居るだろうか。



 僕は幾千、幾億と、気が遠くなる位にあらゆる世界を旅してきた。


 ある世界は戦争の真っ只中。


 救いの無い、人間達が欲望の為に争う、醜い戦い。


 あの時の、兵達の叫び声が、今でも聞こえてくる様だ。


 そして、ある世界は燃え滾っていた。


 僕が視た、この世界のバッドエンドみたいにね。


 その世界には救いは無く、天は常に紅く燃えていた。


 そう……僕はずっと前から、世界を救ってきた。


 さっき言った二世界だって、かつての輝きを取り戻しているよ。


 その度によく見るのが、こう言った黄昏時。


 ……いけないよね。


『黄昏時』(イコール)『平和』だなんて方程式を築き上げるのは。


 だって、この黄昏時は……。



 ーーいずれ終わるかもしれない『セカイ』の、一時だけの幻なんだから。



 喜ぶのも「これが好きだ!」という気持ちを抱くのは間違っていると、僕は分かっている。


 それでも、僕は……。


「よっす、ユト。黄昏に浸っちゃってどうしたんだーい。祝宴も終わっちゃうよー」


 と、そんな所で同僚(モイラ)の登場だ。


 僕は少し目を笑わせながら振り向いた。


「いや、ちょっと思い出しててね」


 モイラは既にドレス姿だ。


 万能の創造神に相応しい、純白のドレスに身を包んで。


 それに元々の絢爛さも相まって、かなり美人に仕立て上げられている。


 ……今は祝宴の舞踏会の時間だった筈なのにね。


 今の美人さんの君なら、相当に異性に誘われた筈なのだけれど。


 いや、相手が創造神ともなれば、謙遜もあるか。


 とにかく、モイラは完全に祝宴ムードに浸ってるね。


 ふと舞踏会の様子を見ると、ガレーシャが元気に踊っているのが見える。


 お相手は、何とディルッド君。


 本当は仲良いんじゃ無いか?あの二人。


 とか思ってる内に。


「何を?」


 モイラが、僕に何を思い出していたか、とか聞いてくるんだもん。


 しかも、バルコニーの取っ手に手を付けて結構居座る気の様だから、僕は仕方なく、


「魔族街で出会った魔人君達とか、古代兵器とかについてだよ」


「ほー。もう『仕事』の話ですかいな」


 と、馬鹿らしい感じで言うモイラ。


 だが、直ぐに真面目な雰囲気に代わり。


「……で、何か見逃した事でもあるの?」


 突然に口調を変化させて来たけど、これもモイラなので動揺せず、僕は言う。


「そうだね。気にする事でも無いけど……魔人達が、僕達の能力について知ってた所かな」


 二人して黄昏を見詰めながら、マジな雰囲気を醸し出している。


 さながら、スパイ映画とかにある密偵との会話シーンの様に。


「確かに。私の因果剣(リアリティ・アルター)ならまだしも、ユトの満目蕭条ノ眼(ボーダムアイ)まで知ってたからね……」


 モイラの呟きに、激しく同意する僕。


「魔人達が、能力について知ったシーンで挙げられる所と言えば、ディルッド君達に信用して貰う為に使ったあの時だけど……」


「でも、あの時私の神眼で兵達含め全員を見たけど、密偵や監視とかなかったんだよね……」


 うーん……と推察に詰まる僕達。


 そして、僕はこれ以上考えても()()意味が無い事を察し、


「まあ今考えても仕方ないだろうし、古代兵器の事含め、分からない事だらけなのは分かったね」


 瞬間、モイラも諦めたのか深くバルコニーの手すりにもたれかかり、


「そうだねー……と言うか疲れたー」


 と、だれた様に呟いた。


「確かに、今回は心労が結構重なったしね」


 年寄りの様な僕達。


 疲れたので再び黄昏に浸ろうとしたその時。


「おい、お前達は舞踏に参加しないのか?今回の祝宴は、お前達が主役なんだ。出来なくても、食事に参加するくらいは……」


 ガレーシャとのダンスが終わったディルッド君が、背中から語りかけて来た。


 それを聞いた途端、元気を取り戻すモイラ。


「あ、はいはーい!私行っくー!!」


 一気に活気がみなぎった様に、ディルッド君へステップで歩み寄ってから振り返り、


「ユトも来なよ!」


 と、元気な笑顔を振りまきながら、僕を見詰めて来た。


 はぁ、仕方ないけど、あの笑顔だ。


「……ま。こう言った一時の『平和』も、良いものかな……」


 ボソッ、と呟く僕。


「え、何?」


「……いや、何でも無いよ……じゃあ、僕も行こうかな」


「やったー!」


 ーーそうして、僕も一時の『平和』に浸ることにした。



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