何があった……
結界に呪字を組み込んで呪字を防ぐ。
目には目を、歯には歯を、とか言うけど、これは結構ガチ目に賭けだった。
まず、これには僕がヴァレンチノ呪字、とやらを熟知していないと行けなかった。
さっき言った通り、この呪字はかなり強めの呪字だ。
強い力には、それ相応の才能と鍛錬が必要……とはよく言った物だよね。
それと同様に、この呪字を習得している呪術師はほぼいないらしい。(ガレーシャに聞いた)
何しろ、もう既に滅びたとされるヴァレンチノ古代族の、封印指定を受けた遺産らしいからね。
あまり人の目に触れないのも、習得難易度が高いのも納得できる。
と、話が脱線したから戻すけど。
僕はとりあえずあの時、迫り来る呪術弾に刻まれている呪字を読み取り、解析した。
自慢じゃ無いけど、僕はまあまあ頭いいし、経験もある。
……嘘じゃ無いよ。
ーーコホン。兎に角。とにかくだよ。
呪字の解析を終えた僕が次に移ったのは、その呪字を結界に投影させる事。
見た限り、そのヴァレンチノ呪字を防ぐのなら、もっと強いヴァレンチノ呪字を用いれば良い、と判ったから……。
僕は即興で、新しいヴァレンチノ呪字を作った。
既存のものを探し当てるのは難儀だったからね。
ならいっそ作っちゃおうと思ってね!
まあ、色々と難航したけど……何とか、呪術弾が当たる前に間に合った、と言う事だ。
それだけ。何もかもが行き当たりばったりで、結構な運頼みだった。
それを察した魔人君は、分かりやすく意気消沈した。
……流石に、自分の本気の攻撃を防がれちゃ、そうなるよね。
僕は軽く嘲笑する様に「あり得ない」と声を上げる、経験無い魔人君に告げた。
「あり得るんだよね。僕の結界は凡ゆる機能がついてるから……例えば、水中呼吸とか宇宙空間で生身で活動出来たりとか……今やった、呪字を投影させるものとかね」
「は……まじで規格外だな」
それを聞いて、魔人君は白ける様に呟いた。
実力の差を理解したのか、薄ら笑う魔人君。
それに僕はお世辞を通す。
「まあ、君の射撃スキルも凄かった。確実に仕留めるために、荊棘も使用しての心臓狙い……案外他の人には出来ない様な芸当だ……でも」
褒め称える僕の言葉並びの中に、不穏な単語が入り混じる。
まるで手のひらを返す様に睨みながら、僕は魔人君に言い放った。
「ーー君の様なマグナム使いよりももっと良い射手を、僕は一人知っている……」
僕は更に魔人を撫でる様に見つめ、世界の広さを見せつけるかの如く僕は『強者』として言った。
「だから君は防がれた。渾身の一撃を、ただもっと良い射手を知っているだけの僕に」
すると、魔人君は愛聴するまでもなく、嗤った。
「ハッ!じゃあ倒してみろよ!弱小のマグナム使いをよォ!」
こちらへ向く二つの銃口には、圧倒的な殺意が実っている。
だから、僕も答える。
「望むところだ。悪役さん」
ーー『正義』として。
♦︎
同刻にして、人型邪竜組。
ユトと魔人との闘いが熾烈を極めない中、その後ろで戦っていた一組はと言うと。
「くっ……案外外れはこっちでしたか……」
邪龍の呻き声の通り、有利はガレーシャ達が取っている。
元々、ユトに太鼓判を押されているガレーシャだ。
戦闘を苦手とするはずも、邪龍にもう引けを取ることも無い。
それは、モイラも同様。
一対一ならユトより上、とも言わしめる創造神の力は、やはり計り知れない物があった。
因果剣を抜かず、自前で召喚した魔剣に於いても、その実力は遺憾無く発揮される。
近接戦ではモイラが対応し。
遠距離からはガレーシャの正確無比な援護が飛んでくる。
必要であれば、ガレーシャも近接戦で輝ける程の実力はある。
だが、それはモイラが許可しないし、何より効率が悪い。
そして……モイラがガレーシャに遠距離を任せた真の理由も存在する。
それは。
「この魔族街って、どう言う発展してきたの?モイラさんすごく聞きたい!」
水入らずで、人型邪龍と世間話をする為だ。
それが、彼女の剣撃中にも飛んでくるのだから……。
人型邪龍には、少しストレスが溜まっている。
「創造神殿には言い難いな……醜い家畜部屋だ。あまり私は好んでここの時代の進みを見たりしないのでな!!!」
邪龍は、その鬱憤ばらしに銀を撃つ。
これは、以前モイラに無力化された、彼の能力。
だがもう彼の銀を縛る因果の枷は、相棒によって解かれた。
ので、彼は存分に力を振るえる。
……これは恐らくの最終決戦。
だから人型邪龍は死力を尽くし、銀に力を注ぐ。
死んでも良い。
それでいつか、目の前の敵が潰えるのなら。
そう思い、放たれた銀。
……だが。
「うわっ!……危ないじゃ無いかー!私じゃなきゃ捌けなかったよ!?」
そんな攻撃は、モイラのバカっぽい言葉と共に、軽く弾かれた。
「あれを防ぎ切りますか」と眉をひそめる人型邪龍。
同時に。
やはり、案外こっちもハズレだったのかもしれない、と心の中で微笑する邪龍。
実際、人型邪龍は、モイラ達と戦うのが始めてと言うわけでは無い。
だがそれでも。
確実に排除する、という意識が籠っている所為か。
(……彼女らは、以前より格段に強い)
途端。
「じゃあやっちゃえ……」
そう呟きながら、モイラが体を屈めた。
なんの意味が……とも考える暇も無く。
「ーーガレーシャちゃん!」
名呼びと共に、創造神の上から走る事象。
「……ッ!?」
それは空を割き。
風を巻き上げ。
螺旋を描き。
世界を震わす不可視の事象。
それは……。
【事象;抉る螺旋空間『壊』】
既存の事象『抉る螺旋空間』の完全上位互換の事象操作。
それは螺旋に拗らせた空間。
不可視なる、目標を射抜き、粉砕する事象操作。
(受けるしか無い……ッ!)
その事象は既に、人型邪龍が避けられない程直近に迫っていた。
咄嗟に。
彼は銀を盾に変形させ、事象の軌道上に設置した。
……が、しかし。
「……何ッ!!?」
銀の盾は粉砕された。
粉々に。跡形も無く。
銀があった、という記録さえも消し去る勢いで。
……邪龍の持つ銀は、幾らでも再生が効く。
だが、そんなに直ぐ再生を始められるほど、彼の能力は強く無い。
「……ちッ」
彼は、吐き捨てる様に舌打ちを残し……。
飛ぶ。
「あ。ちょっと待って!!」
完璧な連携によって鼻を伸ばしていたモイラは、邪龍を止めようと声を上げる。
だが、バサバサ、と。
邪龍は、いつの間にか再生しきった両翼で、魔人の元へと飛んで行った。
それを見届けてしまったモイラ。
直ぐに『追撃』から『報せ』へと目的変更し、ユトへ向けて大声を上げた。
「ごめん!邪龍くんそっち行った!」
ユトに向けて上げられた報せは、恐らく彼にちゃんと届いたはず。
モイラとガレーシャは急ぎ足でユトの所へ向かい、すっかり銀を再生仕切った邪龍に一瞥をくれながら、
「いやいや……ちょっとしくじっちゃった……」
「不覚でしたね……モイラさん。御免なさいユトさん」
さり気無く謝る二人。
目標に逃げられては困るよ、とか怒られたりしないだろうか……。
と思ったが、全く返事が無い。
「……ん?」
と不思議そうに二人は、返事無いユトの顔を覗いた。
……すると。
「ーーユトさん?」
顔を俯かせた、蒼白な雰囲気を放つユトが、そこには居た。
何が、あった……?




