本当に。小学生って凄い
「じゃあ、僕達もちょっと実力垣間見せちゃおうかな」
途端、僕は苦無に変えていた忠節無心を、青い球体に変える。
「……なんだそれは」
やはり、人型邪龍君も見たこと無いものなのか、不思議そうに球体を見てきた。
「知らない?これは……」
見せびらかす様に僕は、球体を小さいビー玉サイズに変え、右手の人差し指に停留させる。
……そして、子供が良くする、人指し指と親指を立て、銃の様な形を取りながら、こう言った。
「ビームを発射出来るんだよ……バーン、てね」
そう、これは小学校低学年児がやる、サバゲーごっこを模したもの。
エアガンとかが買えない、小学生達が楽しむ為に、いつの間にか出来ていた遊び。
拳を握り込んだ状態から人差し指と親指を立て、拳銃の様な形を作り。
その人差し指を銃口だと思って、相手に人差し指を向けて「バーン」とか言い、打ち合う謎の遊び。
それを更に残酷にして、本当に弾が出るようにしたのが、これ。
人差し指からは青いビームが出て、標的を残さず抉り、燃やし尽くす。
これは小学生達から学んだ殺戮兵器。言い方はなんだけどね。
まあ、やってることは子供らしくても、威力はさっき言った通り絶大。
ビームが通った所に、プラズマが出来る位だからね。
本当、小学生って凄いね。
こんな爆弾もビックリな武器を作っちゃうんだから。
と、冗談はここら辺にして。
「……君の心臓を狙ったはずだけど、避けられるとはね」
僕は、そのビームの直撃を食らう筈だった魔族を見つめる。
「はは、冗談きついな……私の眷属を半分焼き切る威力とは……」
人型邪龍君だ。
彼は、すんでの所でビームを避けやがった。
その代わり、銀の龍の横半分を無くしてしまったけどね。
「でもまあ……私が生きている限り、幾らでも銀は生成出来るんですけどね」
ボコボコ。ドロドロと。
人型邪龍の命令か、銀の龍は欠損した箇所を再生して行く。
たった一秒ほどで再生しきった銀の龍を見て、僕は言い放つ。
「そ。なら再生不可能なまでに焼き尽くすだけだ」
そして、僕の人差し指はモイラへと向く。
「仲間争いですか」とか言わんばかりに疑問の表情を向けて来る人型邪龍を横目に、ただ僕はビームを放つ。
そんなビームにノーガードなモイラ。
側から見れば完全に裏切りだと勘違いする程、流れる様な仲間への攻撃。
だが、そんな攻撃も直ぐに。
「これで、出来たら倒されてね。悪役ちゃん?」
ーー創造神の笑みと共に秀でた、赤の稲妻によって、軌道を捻じ曲げられた。
まるで、鏡に光を反射させる様に。
青い閃光は、赤い稲妻を携え……。
十二個の足場にて形成された、正二十面体の檻の中を駆け巡る。
「ユトさん、モイラさん……」
ガレーシャ達はその光景をじっと見つめ、固唾を飲み込む。
反射。反射。
その都度勢いを増す青と赤は、モイラと僕だけを避け、それでも檻を駆け巡る。
当たったら、確実に即死。
そんな威力を発揮していた、プラズマと閃光が檻中を駆け巡り終えた時。
そこには……。
「ふぅ……眷属を盾に使用する判断が少しでも遅れれば、今頃灰になってましたよ……」
卵の殻の様に形状変化した銀に入り、しぶとく生き残っていた人型邪龍が居たのである。
「嘘……あれで倒れないんですか!?」
下からは、ガレーシャの驚愕が聞こえてくる。
だがまあ、一応想定内。
しかも、人型邪龍は無傷じゃ無い。
「ですが……片翼を少し抉られましたね」
人型邪龍君の左翼はどうやら、ビームによって抉られたみたいなのだ。
まあ、ちょっと羊にかじられた程度だけど。
「これくらいは直ぐ回復するから良いでしょう……では、こちらの番ですよ」
あ、でもやっぱり再生するのね。
だが、それでも人型邪龍君は自慢の翼に傷を付けられたことに、ちょっとご立腹なのか、雰囲気を強張らせ……。
銀を再び龍に変形させながら、こちらへ射った。
「ずっと僕達のターン、で終わりたかったのだけれど」
「そう簡単には行かないんだねーやっぱり」
目前に迫った銀の龍を前にして、僕達は呟く。
強者の余裕を見せた所で、僕とモイラは同じ方向に飛び退る。
銀の龍を向かい風の様に扱って。
瞬間、僕は十二つの足場を手繰り寄せる。
空中を仰ぐ僕達。
目前に迫る銀龍。
僕達を食い尽くさんとするその銀龍は。
ドン、と。
集められた十二つの盾によって、勢いを相殺された。
「やはり止めてくるか」
十二つの盾と銀の龍が迫合いをしているのを見て、邪龍は頷く。
「……ならば、これはどうだ」
邪龍は、銀龍に向けて手をかざす。
漆黒の羽毛に覆われたその手は、いずれ銀龍を分解し。
「……まじか」
流動する銀と成って、盾から滲み出る。
瞬間、針は全方向から僕達を囲みこんだ。
ちょっとやばい。
万事休すかも。
……空中であるが故に、僕達は身動きが取れなくなってしまった。
そんな、僕達の絶望もいざ知らず。
銀はその先端を僕達へ勢い良く猛進させる。
ーーだが。
雷鳴の如く、僕達を射抜こうとする銀の針は、いずれも奏功を上げることなく空を割いた。
「……避けられたか?」
否。避けられたのでは無い。
何故か?それは。
『転移』魔法の境地に至った者のみが使える絶技。
「大丈夫ですか!?二人共!」
ガレーシャが、転移魔法を使用したのだ。




