創造神。なんでいんの
「ーー刺せ。私の眷属よ」
先に手を出してきたのは、人型邪龍だった。
眷属、という言葉から出てきたのは、以前見た流動する銀。
魔法か、事象操作か、それとも両方か。
いや……今回のは違う。
「まさかとは思ってたけど……君のそれ、能力だね」
「ほぉ……ユト殿にまでなると、私の能力までお見通しになると言うわけか……まあ、その推理は合っている、と言う事で間違い無いがね」
人型邪龍は、流動する銀を大きな龍に変形させながら、こちらを更に隻眼で睨んできた。
銀は空中にて生成され、どんどんとその体積を増やしていく。
瞬時、龍は電柱一本くらいの大きさに肥大化し、空を鷹のように舞い始める。
見上げる程の高度にまで上昇した二人の龍は、刻限をもって……銀を穿つ。
逆光で、その姿を見え難くしてからの隙ない攻撃。
経験と冷静さが感じ取られる攻撃を、龍は穿った。
空を割き、音速を超えて標的へ直走る銀。
光を背に、僕らへ向かって来る、その銀を僕は。
「早いけど。遅い」
忠節無心を盾のように、空中で薄く引き延ばす事によって簡単に阻止した。
そう。簡単に。
人型邪龍の放つ銀は、僕と同じ『固有』の能力だ。
両方とも、未知の力で動いているからこそ……止められる。
空中に固定された盾の奥で、ガリガリと銀が当たる音が聞こえる。
でも、やはり破られはしない。
能力の力関係は、どうやら僕の方が強そうだ。
だが、陋劣さは人型邪龍の方が優っている。
そう思い、僕は後ろのガレーシャとラット君に言った。
「二人は後衛から援護よろしく」
二人は、僕とモイラのように能力を持たない。
そんな二人には後衛を任せ、安全に後ろから魔法とかで援護してもらいたい。
「分かりました!」
「了解」
曇りない二人の相槌を確認し、続いて僕はモイラの顔を見た。
「行くよ。モイラ」
「オッケー、ユト」
全員の心の準備が整い、銀の猛攻が掻き消えたところで、僕は盾を解いた。
日光に照らされる四人衆。
二人は邪龍に敵意を示し。
二人は後ろで、確実な援護に移る。
僕は十二個の浮く足場と、気分で作った苦無を空に浮かし。
モイラは因果剣を抜かず、紅色の魔剣を携え。
後の二人は魔力を滾らせ。
四人の戦意が収束する時、攻撃は成る。
僕とモイラは強く地面を蹴り、一瞬にして人型邪龍の元へと飛来する。
さながら雷の様に。
これで邪龍が逆光を利用する事を阻止し。
正二十面体を空中で作る様に、僕は足場を展開する。
人型邪龍と銀の龍を丸々取り囲む様に、僕は十二個の足場を空中で立体的に展開。
そうする事によって、僕達は空中で立体的機動を行う事ができる。
足場は完全に空中に固定してある。
だからそれを蹴る事によって、中心に位置する人型邪龍君と銀の龍を攻撃できる。
……これで、空中での檻は完成した。
後は……。
「君を倒すだけだ」
「どうだか。籠の鳥はどちらなのかね?」
「それは、死によって決められると思うよ。悪役さん」
僕と人型邪龍の合間に、モイラは割り込む。
相当、イエロウズ・タワーでの事に立腹だった様だ。
もっとも、僕もそうだった。
僕達は睨みを飛ばす。
引導を渡してやる、ともいわんばかりの雰囲気の中。
……最初に飛ばされたのは、僕の苦無だった。
完全に、僕の意識の元操作される苦無は、銀の龍の頭を貫く。
……が。
「私の眷属は、そこまでの弱兵では無いぞ」
空を破る苦無は、銀の龍の脳天を貫通しただけで、他にダメージらしいダメージが見当たら無かった。
「分かってたよ。一応無機物だもんね。死がないのは当たり前だって……でも」
僕は怪しく人型邪龍の首筋を覗いた。
「ーー人型邪龍君だけは、死ぬよね?」
「何……」
……瞬間、邪龍の背中から飛来する創造神。
いつの間にか人型邪龍の視界内から消えていたモイラは、既に邪龍の背中裏に居たのだ。
人型邪龍は油断していた。
彼の驚愕は「なんでいんの」と訴えかける様な表情だった。
そう。もう一度言うが、彼は油断した。
……僕の思惑に乗っかったんだよ。
彼は、僕が苦無を銀の龍に向けて放った時、一瞬だけ意識を僕だけに向けてしまった。
まあ、本当に一瞬だった。零点コンマ何、くらいの隙だった。
けどモイラは、その一瞬を見逃さない。
人型邪龍は、僕を過大評価し、モイラを過小評価している様な口振りをしていた。
そこを突かせて貰ったよ。
人型邪龍君も、やっぱり甘い。
どんなに弱いと思っていた人物でも、化ける時は化けるんだよ。
……そしてモイラの魔剣が人型邪龍の首筋に触れる。
切っ先が首の薄皮を剥ぎ、血を上げる。
ーーだが、それだけだった。
何故なら。
……邪龍は、いとも容易く、モイラの剣撃を避けたからだ。
ひらり、と。
まるで背中に目が付いているかの様に。
邪龍は、その黒いコートをほんの一瞬靡かせるだけで、剣を避けた。
「……何か、蚊でも横切ったかね?」
途端、嬉しかったのか皮肉を飛ばしてくる人型邪龍。
「ふぅん。やっぱり腐っても人型邪龍か……うん」
一応、これは褒めてる。
だって、僕見たから。
人型邪龍君が銀の龍を鏡の様に反射させ、後ろのモイラを視認する事によって、攻撃を避ける様を。
うまく能力を使いこなしてたね。
……それなら。
「僕達も、ちょっと実力垣間見せちゃおうかな」




