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筋力で起こす災害講座


※タイトルの『災害講座』という単語には他意はありません。


決して被災者を蔑む意思などはありませんので、そこはご了承下さい。



 

 爆炎と黒煙が、僕達を包み込んだ。


 廃屋に至るは一つの爆撃。


 魔族街に一筋の閃光が浸り、世界を焼く。


 一刻後、爆炎は晴れる。


 その時、出迎えたのは……。


「随分と幾久しい仲となってしまったなぁ。侵入者殿?」


 宙に浮き、こちらを見下して来る……人型邪龍であった。


 僕は全員を守る魔法結界を解き、彼の言葉に軽く頷いた。



 ……確かに、彼の言う通りか。



 その赤色に光る三白眼は、本当に見慣れてしまった。


「でも、多分君の顔を拝むのは、これで最後になると思うよ」


 僕がいつもの様に煽ると、彼は今まで見せた事ない怪しい顔で……笑った。


「……それはどうかな」


 僕は眉をひそめた。


 理由は、あるモノ達が見えてしまったから。



 ……大軍の影だ。



 崩れ切った廃屋。


 完全に大破した、天までの線が崩れ去るガレキの奥から、僕達は見た。


 数百、いや……数千の大軍が、人型邪龍君の背中から歩み出て来るのを。



 パチン。



 指鳴りと同時に、空間は引き延ばされる。


 熱い餅を引き延ばす様に、空間は伸びる。


 それは、数千という大軍を、小さい路地裏の空間に収める位の。


「空間展延拘束魔法……僕達を閉じ込め、大勢力を以って駆逐する気ね」


「そうだ……これでやっと、侵入者殿との因縁を断ち切れる」


 邪龍君はそう言いながら腕を上げ、兵達に攻撃準備をさせた。


 即時、兵達は全員怪しい魔力を滾らせ、僕らへ殺意を向ける。


 人型邪龍君の手下で、全員魔族と思われるその大軍は全て黒装束を纏い、こちらを睨む。


 こっわ。


 正体を隠す為の物みたいだけど、多分この子達ローズ者の社員たちでしょ。


 ……で、この空間を引き延ばす魔法を展開しているのが、人型邪龍君と。


 でも、僕は気付いた。



「あれ、でもあのスーツ姿の魔人君は見当たらないね……。どこへ行ったのかな」


 白々しく、僕は人型邪龍を目で撫でた。


「それを、私に聞いても意味が無いと思うのだが?」


 返されたのは睨みだった。


 肝心な所で曖昧にされたか。


「……はいはい」


 僕は若干の焦燥を抱くも、抹殺してしまえばいいので無視し。


 振り返り、後ろの皆に告げる。


「戦闘だ。皆やるよ」



 ♦︎



 人型邪龍陣営と僕陣営。


 戦いの火蓋は既に、切って落とされた。


 二陣営の人数差は……絶望的だった。


 数千人対四人。


 どう考えても、こんな異常なまでの人数差をひっくり返せる筈がない。


 しかも、相手は魔族の軍団。そして、街一つを簡単に滅ぼせるほどの人型邪龍も居るのだ。


 戦いの駆け引きも糞もない。


 だが僕達は、そんな救いようの無い状況に狼煙を穿つ。


「……邪魔」


 僕は、周囲に纏わり付いて来た兵達を片手で振り抜き、投げた。


 ドミノ倒しの様に、ドサドサと倒れていく兵達。


 それらに追い打ちをかける様に。


「雷鳴」


 兵達は、雷によって焼き尽くされた。


 正確に、魔族達の急所を狙った、反撃を許さない魔法攻撃。


 兵達に悟られない、静かな魔力の巡らせ方。


 ほぼ無詠唱に近い詠唱改変の具合が、さらに魔法の威力を底上げしている。


 ……そんな高次元な魔法の技術を発揮したのは、ガレーシャだ。


 兵を近付けさせない、近接戦に特化した僕。


 魔法戦に特化し、遠距離攻撃に通ずるガレーシャ。


 あと、他二人の外野。


 まあそれでも、流石に兵力の差は補い辛い。



 ……だがそれも、戦場が只の『障害物ある』路地裏だった場合の事だ。



 幸い、この空間は引き延ばされている。


 廃屋が壊れて更地と化した、まっさらな空間を、更に。


 術師である人型邪龍君が、数千人程の軍勢を入れようと発動させた魔法であるが。


 ……更地であるが故に、ある問題に直面していた。


「それは愚策だったね」


 僕は地面を叩きつけた。


 目の前の兵たちを無視し、放たれた地面への掌底は。


 地面を波打たせ、世界を割っていく。


 土が捲き上り、兵達が打ち上がる。


 僕の剛腕によって分かたれた地面の表面は、幾千もの兵を飲み込む。


 全て。一つ残らず。


 僕は大地版大津波の様な光景の元凶として、波の後ろで嗤った。


「こんな更地に陣を敷くなら……注意しないとね?『災害』に」


 ここは更地なのだ。


 只々、だだっ広く障害物の無い……ね。


 だから、こういった災害の様な戦法が刺さる。


『障害物』が無いから、下からの突発的な攻撃に弱い。


「くっ……」


 人型邪龍君はその天変地異とも取れる事象に、カウンターを取ろうと試みた。



 ーーだが。



「……事象操作でも、魔法でも無いだと!?不味い……ッ!」


 色々な手段を用いて止めようとした人型邪龍の試みは、舞い上がる土煙ごと撒き散る。


 そう。その言葉通り、この地表をめくれ上がらせる攻撃は、事象操作でも、魔法でも何でもない。


 全てが、僕の筋力の元に完成しているんだよ。


 だから魔法やら事象操作で、主導権をもぎ取ろうとしても意味がない。


 だって、これ筋力だもん。


 背後からは、ガレーシャ達の悲鳴が聞こえる。まあそっちには波を作ってないから大丈夫そうだけど。



 そして……大地の津波とも取れる、僕の筋力の元に完成した事象に、総ての兵達は抵抗すら出来ずに屈した。



 残ったのは……。


「……ははは。やはり貴方は脅威ですね」


 服に付いた土を叩き落としながら宙に浮く、人型邪龍のみだった。


 彼は、土に埋まった哀れな自軍の兵士に、小さく「使えませんね」と呟きながら、取り繕う様に言ってきた。


「良いでしょう。自軍の兵士が弱兵だと言うのなら、私が嬲り殺しにしてやるまでです」


 残酷な言葉を口走る人型邪龍。


 その目には、狂気と殺意が入り混じっていた。


「……本性表したか」


 異常な魔力の高鳴りを見せる人型邪龍を前に、僕は意気込む。


 思い出す様に僕は後ろに下がり、『ある事』をガレーシャだけに伝えた。


 僕とガレーシャだけにしか聞こえない距離で。


 小さく。


 全く悟られる事のない様に。


 僕は唇を動かし、その事をガレーシャに伝える。


 そして。


「……え!?……分かりました」


 その言葉に一瞬ガレーシャは困惑を示したが……直ぐに気を取直し、頷いた。


「ありがと」


 僕はそれに笑顔を飛ばし、懐疑的な視線を送ってきたモイラを含め、言い放った。


「じゃあ、使命を全うするって事で……死んでもらうよ。人型邪龍君」


「ーー望む所だ。かかって来い」


 そして、世界は割れた。



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